儒教の聖地「湯島聖堂」で初のIKERU展覧会を開くことができた、その経緯
出会いは突然やってくる。
ある雨の日、メンバーとして参加することになった「東京文化資源会議」の分科会の打ち合わせのため、湯島聖堂を訪れた。東京文化資源会議、とは、その名の通り、東京の文化的な資源をもっと活用し発信しようという会議体で、学者の方、まちづくりの方、そして様々なソフト・ハードの文化資源を持つ施設の方々などが参加している。
私が参画した分科会は「湯島・神田社寺会堂」分科会で、神田明神、湯島天満宮、ニコライ堂、湯島聖堂、寛永寺という、神道、仏教、儒教、そしてロシア正教の拠点が狭い面積に集積している、という世界でも稀な地区の特性をどういかせるか、ということを考える分科会だ。各社寺会堂のみなさまとの関係作りも含め、とても丁寧に会を運営されている。
私は、中学・高校・大学とすべて文京区で、この10年ぐらいは文京区民だ。湯島聖堂のある御茶の水は、ほとんど遊びというものを知らなかった中高時代にテストの後に遊びにでかけた思い出の地でもある。それなのに、御茶の水駅から徒歩2分の湯島聖堂に、これまで足を踏み入れたことがなかった。
一歩入って、その緑の豊かさに圧倒される。うろうろしているうちに、やたらかっこいい、黒を基調とした、まるで中国の映画に出てきそうな殿に迷い込む。なんだここは。
Photo by 玉利康延
すでに遅刻気味で、迷って焦っていたし、雨も降っていたので、すぐにその殿からは出たが、その殿のところで筑波大学の彫刻部が展示をやっているのが見えた。「あれ、ここ、展示とかできるのかな?」
なんとか会議に間に合い、自分がやっているいけばなの活動IKERUのお話といけばなのデモンストレーションをする。その上で、伝統や資源は現代の文脈に乗せて伝えることが大切なのでは、という問いかけをさせていただく。湯島聖堂の方も含め、おもしろがっていただいた。その勢いで、とりあえず聞いてみる。
「あの、こちらで、いけばなの展覧会など、できたりしますでしょうか?」
「いいですよ、大成殿でやられたらどうですか」
あ、決まった!そして、その場所はさっき迷い込んだところだ!
恥ずかしながら足も踏み入れたことがない上、湯島聖堂のことは何も知らなかったのだが、 知るにつけてすごい場所であった。まず徳川綱吉が儒教を学ぶ拠点として開設、その後、幕府直轄の学校「昌平坂学問所」になった。日本史を学べば必ず覚える、あの学問所だ。
明治となり、儒教の学びの場としての役割は終え、今度は東京師範学校、東京女子師範学校がこの場に設置される。後の筑波大学、お茶の水大学である。つまり日本の近代高等教育の発祥の地になったのだ。筑波大学彫刻部が湯島聖堂で展示をしていたのは、こういうご縁だったらしい。ちなみに、私の通った中高は東京女子師範学校の同窓会が作った学校である。つながっている。
日本が初めて出展したパリの万国博覧会の前に、まず準備として日本で博覧会をしよう、ということで開催されたのも湯島聖堂だったそうだ。今では、また儒学や中国の思想や智慧を学ぶ場として、様々な講座を開催している。
ずっと学びの場、であり、また、何か新しいものを送り出す場でもあったのだ。
湯島聖堂でいけばなの展覧会をやるなら、ただいけばなを展示するだけでなく、来た人が学び、思想を深められる、そんな場にしたい。そこで思いついた、というか、その分科会で出会ってその叡智に圧倒された中国哲学・儒教の専門家の東大教授中島隆博先生。
さらにいけばなの源流には、仏様にお花を備える供花、がある。ならば仏教の方もいらしていただけたらな、ということで、これまた最近ご縁があった光明寺僧侶の松本紹圭さん。現代仏教という仕組みの中で、仏道の智慧が閉ざされたものになっているという問題意識で、それを開いていく様々な活動をされている松本さんには、私のIKERUに込める想いを重ねて、勝手に共感していた。
展覧会の場で「いけばなx仏教x儒教」のトークショーにご登壇いただけないか、お二人に伺ってみたところ、すぐさまご快諾いただけた。ありがたや。
そんなこんなで、10/28(日)にIKERU展覧会を湯島聖堂にて開催することができました。中島先生、松本さんとのお話の内容、当日大成殿の回廊に並んだ17の作品については、また別の記事で書きます。
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