ドクツルタケの物語
日が暮れて、冷たい風がすーっと吹いた。落ち葉がかさこそと舞い上がった。
美しい女が、音もなく、そこに立っていた。真っ白な笠をかぶり真っ白な着物を着ている。足元には、6歳ぐらいの子どもが、まとわりついている。
子どもを連れて村に着いた女は、ある家の前に立ち、静かに戸をたたいた。
「ごめんくださいまし」
そこは村長の男の家。戸を開けた村長は、美しい女がそこにいるのを見て、目を見張った。
「旅の途中で道に迷ってしまって...一晩泊めていただけないでしょうか」
村長は顔を上気させながら「もちろんどうぞ。旅の方々をこの村は歓迎します」と言って、女と子どもを家に招き入れた。
「本当に何もおかまいなく。食事もお風呂も何もいりません。お部屋だけ貸していただけたら、夜明けには出ていきますので」
女はそう言って、部屋に入り扉をしめた。
夜も深まり、村長もその家族もみな床についた。しかし、村長は女の顔姿がちらついてなかなか眠れない。そっと床を抜け出して、女が泊まっている部屋の前まで行く。
何の音もしない。女と子どもも、もう寝ているようだ。
少し姿を見るだけだから。村長はそっと部屋の扉を開けた。
凄まじい冷気が部屋から流れ出し、村長を凍らせた。冷気はそこで止まらず他の部屋にも流れ込み、家中の人を凍らせた。
そして白い冷気の中から女が現れた。
「おかまいなく、って言ったのに」とつぶやき、子供を連れて、夜の闇に消えていった。
次の日、村長の姿が見えないのを不審に思った村人たちが、家にやってきた。呼び掛けても誰も出てこない。家に入ってみたが、そこには誰もいない。
「村長さんたち、どこに行ってしまったんだろう」
首をひねりながら村人たちは帰っていった。
そこには、ひんやりとした空気だけが残っていた。