見出し画像

全部が全部つながって、今がある:シェアダイン共同代表 井出有希さんとの対話

*バナー写真はシェアダイン提供

DHBR Fireside Chatの6人目のゲストは、「出張シェフ」のサービスを提供するシェアダインを共同代表として2017年に起業した井出有希さん(以下、ゆきさん)。大学の同級生です。

井出写真

写真はシェアダイン提供

頭がよくてかわいくて性格がいい、かつ内面の世界も豊かで面白い「こんな人、本当にこの世にいるのね」というつちのこ的存在にこれまで何人か出会っていますが、ゆきさんはそうしたつちのこ筆頭格。

ゴールドマンサックス(GS)に就職したと聞き、「さすがゆきさん」というよりは、「さすがGS、採るべき人を採るなあ」と納得したものです。その後は、共通の知人を介してうっすらと転職や結婚、出産のことなどは聞いていましたが、直接のやりとりはそれほどないまま月日が流れました。

2017年、シェアダインを起業したということをゆきさんから聞いて、すごくびっくりしました。ゆきさんと一般的な「起業家」というイメージがあんまり結びつかなかったから。なんでもできる人だけれど、どちらかというと組織の中でしっかりと仕事をする、というタイプかな、と思っていたので。

今回DHBR Fireside Chatにゲストとして来ていただき、久々のおしゃべりを楽しんで思ったのが、起業家となってもゆきさんはゆきさんのまま、ということ。相変わらず謙虚でナイスでどこかマイペースで、でも決めたことはしっかりやる。

自身の子供の食事への悩みをきっかけに、世の中にある多くの人が持っている家での食事への悩みの大きさに気づき、仲間との出会いもあって、その悩みを解決するシェアダインという事業を立ち上げることになった。

自分の気づき、見えた可能性、自分がやるべきことに日々誠実に向き合っていたら、それが自ずと起業となり、企業経営になっていった、ということなのかな、と。サービスのユーザーと提供者を繋げるプラットフォームという事業の性質上、成長しないことにはプラットフォームとして成り立たないから、外部から資金調達もしてきっちりと成長を目指す。

そこには一般的な起業家のイメージでもある「世界を変えたい」「上場したい」みたいな鼻息の荒さは一切なく、人々の悩みを助けるサービスをしっかり届け広げるという静かな覚悟と情熱だけがある。

DHBR Fireside Chatは、単に自分が久々に会いたい人を呼んで話を聞くPodcast番組になりつつありますが、それこそが至福だなあ、とこの場を持てていることにただただ感謝です。今回も、ゲストゆきさんの人生の旅に浸る、幸せな一時間となりました。

画像1

「2時間以内に荷物をまとめて出て行ってください」

アメリカのドラマなんかで時々目にするのが、ある日突然上司に部屋に呼ばれて解雇を言い渡され、その場で荷物を箱に入れて会社の外に出て行く、というシーン。それを見るたびに、これはいくらなんでもトラウマになるよね、実際はもうちょっとマイルドにやさしく運用しているはず、と思っていました。

ゆきさんはまさにこのシーンの経験者でした。しかも2回。私の楽観的推測とは異なり、実際でもドラマのシーンそのままの運用だったそうです。1回目は新卒で9年働いたGSで、2回目はそのあと転職した資産運用会社で。

2009年のGSでの解雇は、投資銀行が消滅するとも言われていた(そう、そんなことが言われていた時があったのです)世界金融危機の時のこと。上司に呼ばれ「午後2時までに出ていってね」と言われた。世界の状況としても、また自身のパフォーマンスを踏まえても、ある程度は覚悟しており、心はショックを受け混乱しても、頭では納得していたそうです。そして3日ぐらいショックを引きずった後は、新しい仕事を探し始めるなど動き出したとか。強いなあ。

それと比べて2012年、2回目のショックはゆきさんにとってずっと大きかったそうです。GSから転職した資産運用会社はとてもよい職場で、自分もちょうど結婚したタイミングでもあり、ここで妊娠・出産しつつ長く働き続けたいと思っていた。自分のパフォーマンスも決して悪くなかった。

ただ、ゆきさんがいる東京のチームを解散するとアメリカの本社が決めた、だから2時間以内に荷物をまとめて出ていかなければいけない。またゼロから職を探してキャリアを作っていかなければいけない。しかもちょうど結婚してそろそろ出産かなという年齢の時に。出産したらやりたい仕事を選べないかもしれない。さらに悪いことに、2012年は日経株価が8,000円台と日本経済も落ち込んでおり、日本企業をカバーしていたゆきさんのそれまでの経験がいきる転職先もない...

あの時は悔しかった。なんで自分がこんな目に遭わなければいけないのだろうって。この年齢、このタイミングで解雇はずるい、なんで?って。

それまでは自分が女性であることで比較的自由に職を選べていると思っていましたが、あの時は女性であることで選べる余地が少なくなっている、女性であることは不利だと感じました。

こんな目に2度も遭ったら、私ならへこたれてふてくされるか、見返そうと妙な空回りをしますが、そこはレジリエンスの高いゆきさん、落ち着いて仕事を探し、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に転職します。そしてそこでの経験、出会いがシェアダインの創業につながっていきます。

自分個人の悩みをきっかけに創業

BCGで働いている間に、ゆきさんはお子さんを二人出産します。同じく子育てをしながら働いていた同僚の飯田陽狩さんと仲良くなり、育児や仕事、両立の難しさなどの悩みをお互いに相談するようになります。

中でも子供の食事についての悩みが大きかった。そしてこれだけ世の中にはレシピサイトなどのたくさんの便利がツールがあって、それでも自分たちがこれだけ悩んでいるということは、きっと世の中で同じような悩みをかかえている人も多いのではないか。かつ今あるサービスとは異なる新たなサービスが入る余地があるのでは、という話になり、そこから、子供の食事について悩んでいる人と食の専門家をつなげる、というシェアダインの事業構想が生まれます。

シェアダインを立ち上げてみたら、食については、子育て中の人だけでなく、病気の家族を抱える人、おもてなしをしたいけれどその余裕がない人など、いろんな悩みや要望があることがわかってきた。また、つくる側のシェフにも様々なスキルや専門性があり、それを活かす場が限られていることもわかってきた。とりわけコロナ下で飲食店の休業・閉店が相次ぐ中、シェフの登録が一気に増えて、料理を作る人、シェフの専門性が活きる場を増やしていくということもシェアダインの大切なミッションの一つだと再認識したそうです。

こうやって、サービスを使うユーザー側と料理というサービスを提供するシェフ側の両方のいろんなニーズが、事業を始めたからこそ見えてきて、それに合わせてサービスを変化、進化させていく。

一方で、当初からずっと変えずにこだわっているのが、ユーザーとシェフは対等の関係である、ということだそうです。

「代行」という言葉は絶対に使いたくなくて。「料理代行」という言葉を使った方が検索のヒット率は上がるので近道なのだけれど。

「代行」というと、自分ができることを他に誰かにやってもらう、となる。でもシェフは専門家で、ユーザーは専門家に相談できる、というのがシェアダインなのです。だからシェフのブランド化に力を入れています。

サービスのユーザーとサービスを提供するサプライヤーをつなげるのがプラットフォームです。今や、あらゆる事業がプラットフォーム化している時代ですが、その中には、よい空気が流れていて使う側も提供側も気持ちよく過ごせるプラットフォームと、どこかぎすぎすしているプラットフォームがあります。

シェアダインにはとてもよい空気が流れているな、と感じていました。それは偶然そうなっているのではなく、シェアダインの運営側がそのプラットフォームの文化の醸成に力を注ぎ心配りをしているからなんだな、ということを、「代行という言葉を絶対に使いたくない」というゆきさんの力強い言葉に教えられました。

全部つながっている

私自身、いろいろ重なってまあまあ大変な時期に、シェアダインのシェフに毎週来てもらっていたシェアダインの一ユーザーです。なんということもないうちの台所でなんということもないうちの調理用具を使って、1週間分の美味しく健康的な食事を2-3時間で作り上げタッパーにつめ説明ラベルまでつけ、さらには使ったものは全部洗い終わっているというシェフの魔法にどれだけ助けられたか。

そしてそれは料理をほとんどしてこなかった私からみたら魔法ですが、シェフにとってはそれまでの経験とスキルと専門性、ということ。ユーザーと食の専門家をつなげるシェアダインをつくってくれたゆきさんには個人的にも感謝しかありません。

画像4

写真はシェアダイン提供

ふと思うのは、もし資産運用会社があの時ゆきさんがいたチームを解散しなかったら、ということ。ゆきさんはそのままそこで長く幸せに働いていていたかもしれません。それはそれでとっても素敵なことですし、「2時間以内に会社を出ていってね」なんて人生で2回も言われない方がいいに決まっています。

でも、チーム解散がなければ、ゆきさんはBCGに転職することもなく、飯田陽狩さんに出会うこともなく、そうしたらおそらくシェアダインは生まれていなかった。そして、子供、病気の家族などの、家庭の食事について悩みを抱える人たちの悩みはそのまま悩みとして残り、私の人生の一時期は完全に破綻し、シェフたちがその専門性をいかせる場も今よりぐっと少なかったでしょう。

人生、何が起きるのか、そして起きたことがどうつながるのかは、起きてみるまで、つながるまでわからない。だから人生は大変でそして味わい深い。ゆきさんの人生の話を伺いながら、そんなことを思いました。


ゆきさんの透明さ、謙虚さは、文字ではどうも伝わりきらないので、ぜひ音声でゆきさんのお話をお楽しみください。そして最初の私のオープニングは相変わらずぎこちなさすぎるので、3分ぐらい飛ばしてから聞き始めてください。PodcastでDHBRと検索いただいてもお聞きいただけます。

画像3

Yuki Ide
2000年に新卒でゴールドマン・サックス証券に入社。9年にわたり主に自動車・自動車部品セクターの株式アナリストとして働く。2009年に米系資産運用会社であるアライアンス・バーンスタインに転職するも12年にチーム解散を経験。ボストン コンサルティング グループを経て2017年に友人と共にシェアダインを創業。1男1女の母。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?