見出し画像

チームビルディングとしてのIKERU:日中リーダーシッププログラム

いけばなは基本的には個人でやるものです。でもこれをチームでやってみたらいいんじゃないかしら、と、ある時ふと思いつきました。

いけばなとは、一つひとつの花の流れや個性を見極め、その花が最もいきるような角度や場所にいける、それによって全体としても調和を創り出す、というもの。もともと個々人が活きる組織に興味をもっていて、そういう組織に行くと興奮するという性質の人間でした。そこから「あれ、いけばなでやっていることって、チーム・組織運営そのものなんじゃないか」と考えるようになりました。

最初にこうするというデザインを決めてそれを落とし込むのではなく、それぞれに異なる強みや弱みを持つでこぼこの個をいかす。そしてそれこそが実は全体としての強さや美しさにつながっていく。それをいけばなを通じて体感する、チームビルディングとしてのいけばな。

それを一番始めに実践したのが、「日中リーダーシッププログラム」という場です。これは、日中の30-40代の起業家、アーティスト、学者、プロフェッショナル、アスリートなどが集まって2-3日を共に過ごし人と人として仲良くなる、というプログラム。発起人が中国で事業を経営する知人で、彼のあつい想いに巻き込まれて、気づいたら事務局をやるようになっていました。

上海で開催した2016年の会議で、日本の文化を紹介しながらアイスブレイクができるようなコンテンツができたらいいね、という話から、私がいけばなのワークショップをやることに。いけばなについてのプレゼンとデモンストレーションに加えて、参加者にいけばなを体験してもらいたい。しかし問題は、場所は上海ということ。かつ参加人数は数十名となると、それぞれがいけばなをいけるというのはとても無理。ならば4-5人のチームで一つのいけばなをいけるようにすればなんとか回せるのでは、という純粋なオペレーション上の理由と、「チームでいけばな」を試してみたい、という思いがありました。

中国語ができる人に中国のECサイトで花器と剣山、はさみ、バケツなどを事前に購入してもらったり、膨大な段ボールを当日までは中国の会社に置いてもらったり、前日上海の花の卸市場に大型の車(中国版ウーバーによってすぐ手配できた)で繰り出して大量の花を購入したり...

なんとかどさどさと花と道具を会場のホテルに運び込み、水を確保し、いざワークショップ開始。日中合わせて50名ぐらいの参加でした。

いけばなは、枝ものといわれる枝で空間の中にバランスを創り、その中にメインの花、サブの花、小さい花や葉っぱをいけていきます。そこで、枝担当、メインの花担当...とあらかじめチームの中で役割をふり、さらにその人自身は花をいけず全体の流れやバランスを見る「指揮者」の役割もつくりました。実際の組織のチームでも、全体を見る人がいて、それぞれのメンバーにそれぞれの役割があるのと同じ仕立てです。

日中両方のメンバーからなるチームで、各自役割を持って、チームとしての作品を作り上げていったのですが、始まった瞬間に「あ、これはいける」と確信しました。生きている素材を使ってものを創るという楽しさ。自分はこういけたいというエゴを消してチームで花の声を聞くことで生まれる一体感。個をいかすことでチームとしてもよいものが創れるという学び。花が織りなす色の鮮やかさ。弾ける空気。こうなるのではないか、という期待の仮説がすべて実現しているのを目の当たりにするという、なんとも夢のような時間でした。

今まで存在しないコンテンツをいきなり上海でやる、という機会に、思い切って挑戦してみたことで、その後の活動につながっていきました。そしてそれは、ECサイトで購入してくれた方、実施までの間大量の段ボールを会社に置かせてくれた方、中国版ウーバーで車を手配し市場で通訳をしてくれた方、そして実は当時妊娠5ヶ月ぐらいだったこともあり、会議に同行し準備から片付けまで全部サポートしてくれた夫など、たくさんの人の協力があってこそ可能だった。

あと、中国というのも大きかったと思います。日本のいけばなの道具までちゃんと売られている中国ECサイトや、中国版ウーバーやら、個人でも購入ができる何でも揃って低価格の大規模な花の卸市場など(日本は免許を持っている花の小売りの人のみ卸市場で購入できます)があったからできた。あとは中国はホテルのスタッフもいきなり会場に大量の花を持ち込もうと水を使おうと多少のことでは動じないし。

ちなみに、大量に中国で購入した花器と剣山とはさみは、そのままホテルから日本に送ろうと思ったところ、陶器や鋏類は輸出できないということで、結局全部手荷物で持って帰りました。このワークショップは本当に素晴らしいのですけど、とにかく準備と片付けが大変なのです(笑)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?