見出し画像

マーケットインならぬランドスケープインで循環を創るバイオトイレ



今回は、8月のまだ暑い日に千葉県にある齋藤はるかさんの経営されるはる農園さんにお邪魔してきた話。


齋藤はるかさん(はるさん)は、LGBT百姓で、木こりをしたり、農家をしたり、猟師でイノシシをしとめるなど、自然のリズムと内臓感覚を調律させながら生きている方。
そして、はる農園は、はるさんご自身が荒れた土地を開墾し、森を作り、畑を耕して自然農法で農業をされてる場所だ。

ワクワクのキーワードはバイオトイレ

はる農園が、私のワクワクセンサーに引っかかったキーワードは「バイオトイレ」なのである。

バイオトイレとは、水を使わずにおがくずなど微生物の力で糞尿を処理するトイレのことで、いうなればトイレ型コンポストとでもいうのかな。
高度経済成長期以前の下水処理設備が整っていなかった日本では有用だった研究ですが、今や下水処理設備79.9%の日本においてはなかなか活用の場が模索されているようなもの。
バイオトイレの詳しい説明はこちら。
https://seiwa-denko.co.jp/civil.html?fbclid=IwAR32tJGTcY6LgzEOZ--0W_6Gq4RkQsRHfMpQBZEcrmw2Jl38EM1Ry2uaPI4

私、なにをかくそうバイオトイレにハマっていたオタクな学生だったのだ。研究の第一人者である船水先生の研究室に足繫く通ってたバイオトイレ大好き人間だった。このときは、バイオトイレが、下水処理が整備されていない途上国への公衆衛生の改善のソリューションの一つになりえるのではないかという可能性を考えていた。ただ、当時は1台のトイレに約300万円かかるといわれていて、それでは普及するわけないよななんて学生ながらにもやもやしたのを覚えている。
今思えば、これが、研究の道に進まずにもっとビジネスを勉強して、環境問題をビジネスで解決したいと思ったきっかけの一つだったのかなと思う。

はる農園との出会い


Journey of Regenerationのという講座の講師として出会ったはるさん。

Journey of Renerationの講座説明はこちら
https://note.com/mayuimanishi/n/n1f37cba34355

講座の中で、ご自身の畑の隣にバイオトイレを自作で作られているというお話をしてくださり、その設置費用が7万円程度だったという。それにピーンと私のセンサーが立った。

や、や、安い。。。
どういうことだ??
私が知ってるバイオトイレと違うのか?
コストを下げる方法があったのか?

驚きから、いくつもの疑問や謎がでてきて、どきどきワクワクが止まらなくなった。

もう、これは自分の目で見に行くしかない!!と思い、いてもたってもゾワゾワする思いで、メッセンジャーで連絡した。

「明日はる農園さんへ行って良いでしょうか?」

そして、即日返事がきた。急な訪問に超がつくほどナチュラルに快諾いただき。その翌日に息子二人連れてお邪魔することになった。早い。我ながら行動が早い。バイオトイレオタク。


行ってみたら思ってたのと違ってた森のトイレ

行ってみたら、ん?これはバイオトイレなのか?と思うくらい普通の水洗トイレでね…初めはちょっと拍子抜けした。


バイオトイレの定義をもう一度確認させてもらえますか?
って思わず、きいてしまうくらい。

画像1

私が知ってるバイオトイレはこんな感じ。そもそも水を使わない。便器をあけたら、オガクズがたくさん入っていて、攪拌して酸素を取り込み、蒸発を促進させることで分解を行う、そんなのが一般的なバイオトイレ。

こちらがはるさんのバイオトイレ。
ほんと普通のなんでもない畑にあるトイレ。きれい、可愛い、臭くない!

画像2

画像3

でもお話を伺うと納得した。同時に自分の考え方が偏っていることに気づいた。


水洗で流れたその出口に、土地の斜面に窒素、リン、カリウムなどの堆肥化に合わせた土壌の整備、そしてその下の田んぼに使用するまでの道のルーティングまでの一連の土壌整備の一つにこのトイレの場所と活用があった。ランドスケープ全体で見た排泄物の微生物をうまくつかった堆肥化、まさにバイオトイレだった。

はるさんに話を伺うと、まさにそれがさも当たり前のように語ってくれた。

「バイオトイレは生物の分解力を利用するというイメージですが、私の”トイレ”は地形、田畑、降水量なども全体を循環させるエネルギーとしてリズムにあわせてデザインしているんです。」

そう、土地活用観点(ランドスケープ)だけでなく降水量やその他の自然エネルギーの最適な流れすべてを考慮して設計されている。
そして、もう一言。

「バイオトイレは水が豊富なこの日本の土地に無理やり型にはめた使い方をする必要はないと思うんです。そして、この森のトイレが正解というものでもないので、自然になじむトイレのデザインは各地域で異なっていても面白いんじゃないかな。」

バイオトイレという同じものを取り扱っていても、世界で見ると、水の豊富な地域とそうでない地域はもちろんのこと、日本国内でも、降水量の差だったり、盆地と平地、肥沃な土壌かどうかなど、いろんなパラメータを使った”自然になじむ”デザインがある。そう感じ、体験させてもらった。

バイオトイレのランドスケープイン

はるさんの自然のリズムに沿った生き方、土地全体を把握し、地球のエネルギーを感じた上で全体最適を考えた適切な資材配置、自然と対峙し、自然とともに生きる農家さんだからこそ話せる話に、本当に感動した。

そもそも、人間の糞尿は下水に流して汚泥処理する。下水設備は、戦後の日本の公衆衛生の面で多大なる功績を及ぼしているのは間違いない。そんな水が豊富な日本において、そもそも水を使わなくてもよいバイオトイレを普及させることは到底できない。普及させる必要なんてまったくなく、そこにニーズはないんだ。
バイオトイレが長年研究され、製品がそこにあるからといって必要ないものは必要ない。

一方で、土地地形で考えると、肥料が大量に必要な農地の横にトイレがあることが、まさに自然の摂理を考えると適当ではないのかと。
これが、プロダクトアウトならぬ、マーケットインならぬランドスケープインの考え方だと思った。

ランドスケープデザイン

こんな話をしていると、誰かがアランロジェ風景論のお話をしてくれました。

アランロジェ風景論
風景をデザインする方法として、「現場(in situ)」と「見ること(in visu)」の2種類がある。前者はビルを立てるなど対象を物理的に操作して風景が生まれること、後者は対象を物理的に操作するのではなく「意味づけ」のみをすることによって風景が生まれる

ある意味、このバイオトイレもランドスケープに合わせて、最初は意図してつくられたものもあるかもしれないが、その感じ方は主体的であり、その人の背景や記憶経験から意味づけするものなのだ。そうこうしているうちに、日々変化する自然の中に溶け込み、自然が新たな意味づけをしてくれるのかもしれないなと思う。

地球レベルでの視座を持つと見えてくる最適解

水の豊富な地域にバイオトイレがランドスケープインで配置されるように、地球レベルでの視座からみた色々な物事の最適解は実は自然の摂理の乗っ取るとパズルのピースを埋めるように簡単だったりするのかもしれない。
地方創生だって、環境問題だって、ジェンダーギャップだって、すべて一つの地球にて起こっていることだとすると、実はその動きに逆らうことなく流れに委ねると最適解は生まれてくる。例えば地方創生なんていうと、地域が廃れ、森になることも一つ解であり、はたまた気候変動により温度が上昇することが生物多様性において実はよい解であるかもしれない。
そんな風に思ったり...


参考資料

その他はるさんがバイオトイレを語ってるラジオをご紹介

スペクテイター〈47号〉 土のがっこう エディトリアル・デパートメント https://www.amazon.co.jp/dp/4344954149

「まなざしのでざいん」を書かれたランドスケープデザイナーハナムラチカヒロさんと、鎌田東二さんの対談本 ヒューマンスケールを超えて
https://beyondthenexus.com/beyond-human-scale/

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?