Introduction ファッション産業への問題提起

この記事は日欧産業協力センターに提出した英語版レポートを筆者の独断で日本語訳を加えたものです。参照はこちら。

1. ファッション産業への問題提起

世界の人口は80億人になり、2023年の今年はインドが中国の人口を追い抜かすだろうと言われています。人工知能やロボティクスなどテクノロジーが発達を遂げている一方で、途上国は農業など未だ労働集約的な産業が中心であり、それに必要な労働力が投入されています。日本にも途上だった時代があります。人口が増加し続け、産業が発展してきた時代です。そんな高度経済成長時代は、繊維産業が成長をとげました。しかしながら、人口が減少に転じ、GDP横ばいを続けている成熟期にある今の日本と、マンパワーをかけて大量生産をすることにより国力をあげるシステムが大きくかけ離れてしまっています。その乖離に気づいていながらも放置されているのが事実です。製造を安い労働力のある海外拠点へ移転させ、システムの歪みを調整しようと試みるものの、それが途上国の労働力や資源を搾取していることになり本質的な問題に目をむけられてはいません。またリユース・リサイクルと称して廃棄物を海外に輸出していることは問題のすり替えにしかならず、本来各国がもつべき責任を隠し、放棄しているだけだといえます。既存システムに終わりを告げる時期がきています。

 

日本のアパレル、繊維産業は、いま大きな転換期を迎えています。国内アパレルの市場規模がバブル期の15兆円から 8兆円に縮小しているなか、新型コロナウイルスの発生により売上はさらに大きく落ち込んでいます。国内外の事業が縮小し、携わる人々も減り、業界全体が衰退する一方です。その中でも成長する海外の市場を取り込もうとインバウンド、越境ECだと多くの企業が次の策を考えあぐねいています。

私たちは、戦後のものがない時代から、高度経済成長を経てモノの消費に自分の幸せを重ねてきました。人と比較して多くを、より高価なものを所有することが幸せだという考える癖があります。これは、ファストファッションが大きく変えたビジネス構造に関連しています。ファストファッションは、貧富や年齢の差関係なく多くの人に好きな服を着られる自由を与えてくれた反面、意図せずに劣悪な搾取をしている構図をつくりました。その裏側には、自然・人的資源を過剰に搾取し、製造、消費、廃棄するリニア型のビジネスが繰り返えされてきています。このリニア型システムこそが、地球資源に圧力をかけ、自然環境を汚染し、生態系に多大なる影響を及ぼしています。エネルギー革命、そして機械工業化やテクノロジーの進化と共に、世界がシームレスにつながり、人々は安価に手早く地球の裏側で流行するトレンドの衣服を手にいれることが可能になりました。同時に、便利に、そして安価になればなるほど、衣服が我々の手触り感のないものに変わっていく事実に気づく人はどれほどいるでしょうか。どこかの国が安価に服を製造し続ける仕組みづくりは、テクノロジーの力だけではなく、地球環境や国内外の人権への配慮を無視しているからということが全く見えなくなっているのです。

何かを終わらせることは、それに従事する産業、企業やサービス、製品が消滅していくことになり、多くの抵抗勢力があります。これまで培ってきた技術に新しい意味づけをすることが必要です。

今回テーマとしたサーキュラーリティの考え方は、EUのグリーンディール戦略から派生したサーキュラーエコノミーからきています。地球環境に負荷をかけながら企業の経済的な利益を確保する相反関係ではなく、経済を発展させながらも環境負荷を引き起こさない両者を成立させるための優れたアプローチです[1]。

実現にむけたヒントは、歴史を紐解くことだと考えています。日本古来より営まれてきた繊維産業は土地に根付き、人との繋がりで様々なサービスが成り立っていました。江戸の商いは衣食住のあらゆる場面で物資やエネルギーのほとんどを自然資源に頼り、リサイクル・リユースがされていました。食べる物を育て廃棄は地域で営む農園の肥料になり、着るものは栽培し、紡ぎ、できるだけ長く使い続けるデザイン、修繕、2次利用、3次利用、生物的分解など完全な循環型社会でした。

そんな時代から、西洋文化との融合が始まり、ものがない戦中、そして戦後の復興、海外の大量生産にむけた製造技術の発展、バブル期ファストファッションによる低価格の波、そしてたどり着いたいまは、多くの外的要因によって絡み合った結果です。歴史を紐解くと“なぜ”いまの状態に行き着いたのか、本来はどうあることが幸せなのかが見えてきます。日本には未だに気候や風土に沿った文化を大切にしながら土地に根ざした企業が残っています。機械化や大量生産の波がきた時にも、守るべき技術を継承しながら成長をつづけてきました。彼らの事例を参考に、目指す未来と新たなビジネスモデルの道筋を模索します。

そしてこの打ち手は日本とEUが共創するポイントが多くあると考えます。成熟した国内市場をもつEU諸国と日本の構造は比較的近しく、また限られた土地に生活基盤を持っていること、自国の地下資源が乏しく他国に依存する他なかった過去の痛みからの共通的な課題を持っています。まずは、日本が循環にむけた自分たちなりの自律的循環社会を作り上げる必要があります。ロードマップをひき、少しずつでもアクション進めることにより、EUと足並みを揃え、共創しあえる状態を作ります。その上で、日欧のお互いの強みをいかし、弱みを補填しあい、世界の循環型社会実現にむけた足掛かりを作っていけると考えています。

 

2. リサーチの目的

日本のファッション&繊維業界におけるサーキュラーエコノミーの現状を調査し、日本文化や歴史を紐解き、欧州のサーキュラーエコノミーの流れを読みながら、日本の文化や習性に馴染む特有の循環型社会実現の方向性を検討します。企業にむけてはこれまでBAU(Business As Usual)やコストだと捉えられてきた循環の考え方からの新しい示唆を提示し、新ビジネスのきっかけを提案します。その上で、日欧の循環型社会実現にむけて、日本の強みとEUの強みをとらえ、必要なEUと日本の協業の鍵を探ります。

 

3. ターゲットリーダー

本研究は、日欧の中小企業(SMEs)にむけて、循環型社会への移行に関するビジョンと具体的な協業の機会を示しています。全企業の99%を占める中小企業は直線経済から循環経済(CE)へ移行において極めて重要な役割を担っています。現状、多くはコスト面や人材の問題でCE移行を開始している企業は多くありません。しかし、ファッション産業においては、CO2排出量や水消費などの環境負荷は原料調達から製造までが9割を占めていることから、OEMを含めたSMEsによる変革への取り組みやビジネスケースからのヒントがCE全体の、実現の一歩になることは間違いありません。本報告では、彼らがCE移行にむけて向かうべき方向性が明確になり、具体的なアクションが取れる状態を目指します。


4. 本報告書リサーチの構成

報告書は5つの章から構成されています。

第1章では、ファッション業界でのサーキュラーエコノミーの現状となぜサーキュラーファッションが求められるのかを紹介し、
第2章では、日本のファッション業界の現状と特徴、課題について説明します。
第3章では、日本のサーキュラーファッションの可能性を、事例を交えて説明します。
第4章では、EUのサーキュラーファッションのトレンドと方向性を踏まえた上で、
最終章では、日本がとるべき循環型社会の目指す方向と重点的分野、およびその課題を挙げ、それを補うためのEUとのコラボレーションの機会を提案します。 

PICTURE 1: Structure of this report research

本報告書は、机上調査に加えて、中小企業から大規模多国籍企業、政府関係者、クラスター、EUと日本の官民の関係者を対象にした20以上のインタビューに基づいて作成されています。



[1] https://environment.ec.europa.eu/strategy/circular-economy-action-plan_en

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