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花日和 朝顔

朝、起きること。

学生のときから、日々の一番の目標はこのことだったと思う。

とにかく朝起きることが苦手で、いつまででも寝ていられる人生だった。
寝坊もしょっちゅうで、
バス停まで必ず全速力で走って行った。

更に、社会人になると、夜中まで仕事するようになり、その時間が増えれば増えるほど、朝はどんどん重たくなっていった。

あまりにも朝が苦痛なので、
まあいっか、苦手で…死ぬわけじゃなしに…
と開き直ってみることもあった。
日中いるべき場所に向かえば、そこは夜中まで戦場。
朝くらい省エネしないと死んでしまう。
そう思うことで、朝が軽くなるんじゃないかと思って。

でも、開き直っても、朝は楽にはならなかった。

目が醒めれば、そこにあるのは濁った光と淀んだ空気。
ベッドの上から動けない朝は、罪悪感に潰れそうだった。
仕方ない、働きすぎてる、休めっていうサインなんだ、と言い聞かせるほど。
どうしてもっと頑張れないんだ、他の人は今日も朝起きて会社に行ってると、責める声が強くなる。
その二つの声の狭間に落ちるように、もう一度眠った。朝が終わるまで。諦めがつくまで。

諦めが許されない日は、拒絶する体を引きずって、タクシーで会社へいった。

今なら、あれが限界だったんだとわかるのに、人間は、限界地点に近づくほど、もっと頑張らなきゃと自分を追い詰める。
せめて辛いと泣ければよかったね、とあの頃の自分に申し訳なく思う。

そんなこんなで、持ち直したり突き落とされたりを繰り返しながら、私は8年間、社会人としての朝を繰り返した。

そして、会社を辞めて初めての月曜日。
会社に行っていたときより1時間半も早く起きて、旦那さんに朝ごはんを作った。

このあとに待ってる時間は、戦わなくていい。
それだけで、すんなり起き上がることができた。

朝に起きられるようになって、しばらくして、夏がやってきた。

朝に用事をすませて自宅へ帰る道に、朝顔が咲いているのを見つけた。
これからは、私はしおれた朝顔に罪悪感を抱かないで生きていける。

陽の光に目を細めて、息を吸い込む。

朝の光と空気は、透明だった。

#花日和 #エッセイ #小説 #朝顔 #短編小説 #写真

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