見出し画像

花日和 ノウゼンカズラ

「あの花って、なんていうの?」
ばあばにそう尋ねると、大抵は正解が返ってきた。
『あれはノウゼンカズラ』

ばあばに名前を教えてもらった花は、
何故か、いつも少しだけ特別な花になる。

私の実家のまわりは、マンションよりも一軒家が多かったので、それにともなって庭から見える木や花を目にする機会も多かったように思う。

そのなかでも、夏になると鮮やかなオレンジ色の花をつけるノウゼンカズラは馴染みの存在だった。

馴染みすぎていて、名前を気にしたこともなかった。

でも、都会にいる時間が長くなっていたころ。
家族と車に乗って実家近くを走っているときに、あのオレンジ花が目に入って、初めてあの花の名前を知らないことに気がついたのだ。
都会では、あの花をあまり見かけないことにも。
隣にいたばあばに名前を尋ねて、初めてノウゼンカズラだと知った。

『カズラっていうのは、ツルのことね。あの花も、ツル草だから』

ばあばは、いつもどおり、少しだけ豆知識を付け加えながら教えてくれた。

あのオレンジの花に、そんな渋い名前が付いていたとは。
私はノウゼンカズラがとても気に入った。
華やかな色合いなのに、素朴なところ。
同じ夏の花でも、ハイビスカスには華やか過ぎて気後れしてしまうところがあるのに、ノウゼンカズラには親しみが持てた。

東京に住むようになってしばらくして、
東京でも時々ノウゼンカズラを見つけること機会がある。

ノウゼンカズラを見るたびに思い出すのは、名前を教えてくれたばあばのことだ。

あの時よりばあばは小さくなった。
いつかやってくる日を、会うたびに覚悟する。

きっと、今年のノウゼンカズラは去年より特別な花になる。

ばあばが小さくなるたびに、
特別は大きくなるんだ。


#小説 #短編 #短編小説 #写真 #花日和 #エッセイ

いいなと思ったら応援しよう!