創作怪談 『落し物』
落し物を拾った。
小洒落た銀製の楕円形のペンダントトップ。
少し複雑な模様が彫られている。
道を歩いていると、太陽の光でキラリと光ったそれを見つけた。
時間に余裕もあるし、交番も近いしと、落し物を届けることにした。
思っていたより時間が取られたが、いい事をしたと機嫌よく元々の用事も済ませることができた。
しかし、その日から色々おかしいことが起こり始めた。
最初は軽いもので、家に居ると至る所から音が聞こえる。
ラップ音とか言うやつだ。
そりゃ、多少の音はするものだが、それなりに長く住んでいるマンションの一室で、こんなにずっと音がしているのは初めてだ。
何より、ただの家鳴りと違い、角部屋であるはずなのに隣からどんどんと壁を叩かれる音がする。
次に起こったのは金縛りだ。
夜中にふと目を覚ました時、身体が固まっていた。
視線しか動かせない。
視線を動かすと、ベッドの足元に影がある。
体感は1時間位経ったような気がするが、もしかすると5分も経っていなかったのかもしれない。
影がスっと消えて、体の硬直が解けた。
起き上がると、嫌な汗が背中を伝っている。
それから、誰もいないのにインターホンが鳴らされたり、テレビが勝手についたり。
よくある心霊現象が立て続けに起き出した。
なんなんだ。
そんなことを思いながら、過ごしていたのだが、日に日に体調にも変化が出てきた。
毎晩起きる金縛りと、足元の影のせいだ。
影は段々と変化して行き、その姿を表し始めていた。
髪の長い女だ。
ぼんやりゆっくりとだが、着実にその女の姿に変わって行っている。
ハッキリと顔が確認できるようになったらどうなってしまうのだろうか?
怖くなってきた私は、友人に相談することにした。
友人は怪談が好きでそんな話を集めている。
怪談蒐集家とか言うやつだ。
こういったことに対する対処も何か知っているのではないかと、藁にもすがる思いで相談したのだが、あっさりと
「お祓いにいけ」
そう言われてしまった。
そりゃそうだなと、納得した。
ただ、その前に1回家に泊まらせてくれと頼み込まれた。
知り合いのちゃんとお祓いのできる人を紹介してくれる代わりに、その頼みを聞くことにした。
友人そんな話をしたその日に泊まりに来た。
いつものように、ラップ音がする。
友人はカメラを回したり、楽しそうだ。
酒を飲み、ダラダラ過ごしながら、どんなことが起こっているのか、詳しく友人へと話す。
友人は心当たりはないのかと聞いてきた。
もちろん、そんなことは一番最初に考えたと言いながら、もう一度考えていると
「心霊現象が起こり始めた日になにか無かったか?」
そう聞き直される。
その時ようやく落し物として拾ったペンダントトップを思い出した。
「それかもな」
友人は、またあっさりそう言った。
「物には、念が籠るから」
友人はそう一言つけ加えたのだが、イマイチ分からない。
「呪いみたいなのがかけられたのが、病気みたいに移ったんだよ。ペンダントのヤツ?に付いてた病原菌がお前に入り込んで、それが病状が出るみたいに、お前に害を与えてるって感じなんじゃない?」そういうものなのか?そう聞くと
「あくまで色んな心霊現象やら怪談話を聞いてきた個人の感想です」
そう言って笑っていた。
確かに、付喪神やらそういうのは聞いたことがあるから、ペンダントトップが原因じゃないかそう思い始めた。
人形が動くなんて話もあったりするし、そういうものなのかと納得し、そのまま2人で徹夜した。
そうすると金縛りは起きなかったし、影も出てこなかった。
次の日、友人の知り合いというお祓いのできる人の所へ行った。
お祓いをしてもらい、何が憑いていたのか聞いてみたのだが、とにかく色々憑いていたと言われた。
多分、そのペンダントトップに憑いていた何かがその他を色々呼び寄せたのだろう。
そんな風に言われた。
その後は、ラップ音も金縛りも足元の影も無くなり、しっかり寝れるようにもなったため、体調も戻ってきた。
しかし、あのペンダントトップの持ち主は大丈夫なのだろうか?
友人曰く
「もしかしたら、同じようなことが起きて、怖くなって捨てたのをお前が拾ったのかもな」
そう言われた。
なるほど、納得したのだが、落とし物を拾って交番に届けると言う、良き行いをしたはずなのに、酷すぎやしないか?