創作怪談 『スマホの通知』
深夜、2時過ぎ。弘樹は布団の中でぐっすりと眠っていた。
スマホの通知音が鳴り響き、起こされる。真っ暗な部屋で、スマホは画面を光らせながら、何度も通知音を響かせる。
寝ぼけながら、弘樹は手探りでスマホを手に取り、画面を確認した。
見知らぬ番号からのショートメールだ。何度も鳴ると思ったら、5件ほどメッセージが届いていた。
一言「助けて」その言葉が繰り返し送られていた。
「誰だよ……こんな時間に……」弘樹は苛立ちながらも、そのまま寝ようとするのだが、通知音が止まらない。
しばらく放っておいたのだが、何度も何度も通知音が鳴り響く。
弘樹は再びスマホを手に取った。
「助けて 誰か おねがい」
新しく届いたメッセージにはそんなことが書かれていた。弘樹は少し怖くなり、そのままスマホを放り出した。音がしても寝られるタイプだからと、放置し再び眠りにつこうと目を閉じたのだが、通知音は止まらない。
内容が内容なので気になってしまう。
もう一度、スマホを手に取り、画面を見る。
最新のメッセージはこうだ。
「窓の外に何かいる」
弘樹は思わずベットから見える窓の方を見やるが、カーテンが閉まっているため外の様子は分からない。
深夜特有の静寂が余計不安にさせる。
「誰だよ……変なことすんなよ」弘樹は自分を落ち着かせるためにだろうか、思わず呟いた。
次に届いたメッセージにぞくりとする。
「ランプが揺れてる 気をつけて」
弘樹は恐る恐る、ベット脇のランプを見た。
確かに、揺れている。
風もない部屋の中でどうして揺れているのか分からない。
弘樹は恐怖に駆られながら、メッセージを送り返す。
「誰だ」
送ったとほぼ同時に、メッセージが届く。
「助けて クローゼットの中に何かいる」
弘樹は震えながらクローゼットの方を見る。
扉はしっかりと閉まっているが、恐怖で動けない。けれど、確認せずにはいられない。意を決して、ベットから降りて、ゆっくりとクローゼットの方に近づき、ゆっくりとクローゼットの扉を開ける。
中には、いつも通り、服がかかっているだけで、何も異常は無い。
ホッと胸を撫で下ろす。
スマホが再び鳴った。
「後ろ」
メッセージを見て、恐る恐る振り返る。
誰もいない。
しかし、部屋の空気がなんだか普段と違う気がした。
また、スマホが鳴った。
「窓の外」
弘樹は震えながらも、窓に近づき、カーテンを少しだけ開けて外を覗く、暗闇の中に、それよりも濃い影が見えた気がした。
弘樹はすぐにカーテンを閉めて、もう一度鳴ったスマホに視線を向ける。
「ドアの前」
玄関ドアの方に向かうと、何かがドアノブをガチャガチャ回している音がする。何かが部屋に入って来ようとしているよう
ドアから目が離せない。
また、スマホが鳴る。
「助けて」
再びそのメッセージが送られてきた。
ドアノブを回す音は聞こえなくなった。
弘樹は深呼吸をして、玄関のドアを開ける。
しかしそこには誰もいない。
しかし、アパートの外廊下の奥に消えてゆく、影のようなものが見えたような気がした。
しかし、その夜以来、弘樹のスマホに「助けて」というメッセージは届かなくなった。