創作怪談 『旅行写真』

気の知れた友人達との旅行、出だしは最高だった。
至る所で写真を撮って撮られて、スマホで撮影していたのだが、きっととてつもない枚数になっているはずだ。

みんなで撮った写真をSNSに投稿しようと、フォルダを開く。
ベッドに寝転んで、今日撮った写真を眺める。
先程、部屋に入ってすぐにみんなで撮った写真を投稿する事に決めて、改めてその写真を見てみると、黒い何かが写っている。
そして、その黒い何かは、人影のように見える。
なんだか不気味で、身震いした。
一体何なのか、何故写っているのか、行った場所にそう言った曰くのある場所はなかったはずだ。
他の写真も確かめてみれば、写真全てに必ず黒い何かが映っている。
順にスワイプして、その黒い何かが写っているものをじっくりと見る。

今回の旅行で最初に撮ったのは、集合場所の駅に1人待つ友人の姿だ。集合時間のかなり前に到着したので誰もいないだろうと思っていたら、普段はギリギリにしか行動しない友人が、1人で既に待っていたので、その様子を遠目から私が撮ったものだ。
その友人のずっと奥の方に黒い少し細長いモヤなものがある。
スワイプすると、次はみんなが集合してから、インカメを利用して撮ったものだ。
みんなの顔でほぼ画面は埋まっているのだが、本当に隙間に、先程もあった黒いモヤのようなものがある。

何枚か飛ばして、また適当に選んで見てみる。
昼食時の写真だ。
昼食を食べている友人を撮った物には、黒いモヤのような何かが画面の端の方に写っていた。

どの写真も撮ってすぐに確認した時には何も写っていなかったはずなのに……
よくよく観察してみれば、最初の影と最後の影は大きさが違う。
近づいてきている?そんな考えが頭を過ぎり、ゾッとする。

不意に、友人に名前を呼ばれビクッと肩を震わせる。
大丈夫?と聞かれ、反射的に大丈夫と答える。
せっかくの楽しい旅行に水を差したくない、黙っていよう。

次の日、私は友人たちに、写真について何も言わず、旅行を楽しもうとするのだが、常に不気味な黒い影が心から離れず、不安と疑問が渦巻いている。
昨日はたくさん写真を撮ったが、今回は写真を撮らずに過ごした。

その日の夜、友人が声を上げる。
これ見てと、おずおずとスマホの画面をこちらに向けてきた。

私が、風景を撮影している様子を撮ったものだ。
私の背後に、黒い人影がピッタリとくっついている。

他にも、ほらとスワイプして見せる友人。
どの写真も私が写っているもので、私の背後に黒い人影がくっついている。
今日行ったところに変な所でもあったのかな?
そんなことを心配そうに言う友人。
きっと大丈夫だよと、言ったのだが正直怖い。

あの影は私の元に迫ってきていた。
そして今日1日、常にそばにいたのだ。

今その場には、私と写真を見せてくれた子しか居ない。
他の友人たちにさりげなく、写真送ってと頼んでみる。
もらった私の写真には何も写っていない。
写真を2人だけの秘密にしようと決めた。

次の日は、私とその子が写真を撮った時以外、何も起きていないということもあり、段々と慣れてきて、その後は影に多少の不安を感じつつ、旅行を楽しんで帰宅した。

無事に帰宅した後、恐る恐る写真を見返してみると、影が写っているはずの写真には何も写っていなかった。

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