病院へ行けないカズコさんの理由②

そして次の週の土曜、いつもの様にカズコさんちを掃除。

「カズコさん、先週お話したように、今日はコレ終わったら、○○医院に行くんですよ〜」

『それなんだけど、娘から、今日一緒に出掛けようって言われて、病院行けなくなっちゃったんだよ〜』

(その場しのぎのウソ)

「ああ!そうだったの?でも娘さんから頼まれたのに、おかしいな〜。カズコさん、娘さんに電話で確認して貰っても良いですか?私、娘さんの連絡先知らないんですよ。ケアマネさん経由で頼まれただけだからさ。」

『分かったよ。今掛けるね。

あ、もしもし?今日出掛けるんだよね?え?病院に行くの?私が?そうなの。。。』

娘さんは、今日私と病院に行く事は、ヘルパー事務所から伝えて貰っているので、娘さんからも話をしてくれたようだ。

娘さんは薬剤師で、40年以上掛かりつけの病院の隣の薬局に娘さんは勤めていたので、病院の院長先生とは長年の付き合いなのだそう。(本人談)

それを今までのお掃除の時間に30回は聞かされたので、その情報を使う事にした私。

『アンタが出たら、ワタシ一人で病院行くから。掃除終わったら帰っていいよ。まあ、ワタシ、今日調子悪いから来週にするかもしれないけどね。』

「大丈夫ですか?!そしたらさ、一応、カズコさんと行くって、先生とお約束しちゃったから、電話掛けて断って貰っても良いですか?私も難儀な仕事で、確認だけしなきゃいけなくてさ。カズコさんと行くって言っちゃったからさ。。でも、何十年と御世話になってる先生とのお約束を当日にお断りの電話掛けて、先生、心配しちゃうね。娘さんも御世話になった先生なんでしょ?」

『そうだよ〜。もう40年以上!娘も御世話になったんだよ!』

「そっかー。先生、カズコさんに、1年会ってないから心配みたいだよ。今日、顔だけでも出してあげたら?11時半に約束してるからさ。ほら、今、11時前だし、今から行けば間に合うんじゃないかな。」

『いんだよ。一人で行けるから、アンタ帰んな!』

「帰るよ。私は次もあるからね。カズコさん、病院に行きたくない理由とか、あるの?」

ここまでのやり取りは、本人から何度か聞いた事ある話もあって、初めて私は病院について聞いてみた。頑なに病院に行かない理由が有るのかな、と。

『1年前に、ヘルパーさんと娘が私を無理矢理病院に連れてったんだよ!一人で自転車で行けるって言ってるのに。家の前にタクシー呼んでさ、私の話なんて誰も聞いちゃくれないのさ。1人じゃ行けないでしょ?自転車は危ないから!無理矢理アタシを連れてったんだよ!それが嫌だったんだ。』

それはカズコサンの本音でした。

まあ、それでも今日は病院へ連れて行く!と決めた私の強い思いは変わらず(笑)というか、自分の気持ちの準備が出来ていないのに、出来ない行けないと周りに決めつけられ拉致られるように連れて行かれた事にも腹が立っている。

一人で行けるのに。なんなら家事は自分でしていて、孫の世話までしてるのに。そっちの都合で無理矢理連れて行くみたいな事をして。危ないのは自分が一番分かってる。だから色々気を付けてる。

この本人の気持ちに、心を寄せる事を誰もしなかったんじゃないかな。

「分かりました。それが嫌だったんですね。。それは失礼よね。カズコさんの言葉を聞いて欲しかったね。じゃあ、行かないなら、カズコさんと長年の付き合いの先生にお断りの連絡、カズコさん連絡入れといて下さいね!行くんだったら、外は日差しが強いから帽子かぶっていってね!」

と、帰りの準備をしていたら、、、、

カズコさん、見た事が無い入れ歯をはめ込んで、帽子をかぶった!サングラスまで掛けて!

『あの先生には御世話になってるから手ぶらで行く訳にいかない。お茶でも買っていかなくちゃ。アンタが出てったら、私も出るよ。アンタ、先に行って買っておいて。あそこのドラッグストアーが安いから!』

「了解しました!じゃあ、宜しくお願いしますね〜」

そしてワタシはカズコんちを出て、家の近くの御寺の駐輪場の影に隠れて、カズコさんが本当に出てくるのか確認。ヘルパー事務所は、今のカズコさんが、家の外で、どのように過ごしているのか、どの程度、認知症が進んでいるのか、細かく誰も把握していない。誰も説明出来ないのだ。これに私は驚いた。

私がケアマネに電話で言われた言葉はこれだ。

「あの人、認知症が入ってる所と入ってない所があるから。」

専門職、、、ですよね?

色々考えながら物陰に隠れてカズコさんを待ってる時間は、なんかワクワクした。5分くらい待つと、

坂の上から自転車のベルの音がした。チリンチリンチリンチリン!

カズコさんが自転車で降りてきたではないか!グラサンが似合う(笑)

初めて見る、外の世界のカズコさん。カッコイイ!私は自転車で先回りして、2リットルのペットボトルのお茶を2本購入し、カズコさんを待つ。

向こうからグラサンママチャリのカズコさんが、ゆっくり走ってきた。

二人で計8本の2リットルのお茶を持って(ほぼ私が持って行ったけど)病院までの道を行く。駅前まで出るのに、急坂を上がらなきゃいけなくて、「一人で行ける」と言い張るカズコさんに、上手い事を言いながら、右に自分の自転車。左にカズコさんの自転車の後ろの荷台を押しながら、坂を上がる。

坂を上がり切ると、平坦な道が続く。が、病院までたどり着くのか、果たして病院までの道は、まだ覚えているのか。

誰も知らないので(笑)確認したいヘルパー事務所、と、娘さん。

一人で行きたいカズコさん。それを確認したいワタシ。

先行ってて、と言うので、50メートル先を私が走り、後ろを見ながらカズコさんの姿を確認。

走る事30分。病院に着いた。病院の受付に、カズコさんが来る事を伝え、お茶を渡す。先生、カズコさんの認知症の事を心配していたらしい。

無事にカズコさんも病院に到着。

『あんた、もう帰っていいよ!』

はいはい。帰りますよー。と、事務所へ電話。

「え?!病院行けたんですか?どうやって?自転車で?カズコさん、自転車乗れるんですか?病院までの道、覚えてるんですか?」

ツッコミどころ満載なので、続きは次の記事で。


mayu