アイさんの里帰り
アイさんの里帰り
グループホームに入居している90代のアイさん。
娘さんと息子さんが、マメに面会に来て下さいます。
アイさんの故郷は東北地方。
故郷へは、毎年帰っていたけれど、ここ数年、アイさんの体調がすぐれず、途中で何かあったら、、と考えると怖くて、なかなか里帰りは出来なかったと娘さん。
確かに入居したて、病院からお引越しされてきた時は、今にも死んでしまうのではないか?!と思うほど目がうつろ、体は細く、車椅子にチョコンと座る、小さな小さな、おばあちゃんだった。
口の中は口内炎だらけで、水を飲むのも痛みで一苦労。
水を口にしても、口の中でコロコロしないと、飲み込む事ができなかった。
が、薬を少しずつ減らし、好きな果物や本人が食べられる物にシフトしていき、段々歩ける様になった。
入居して1年半程経ったろうか。娘さんから里帰り希望の話。
その前年、私は違う入居者のおばあちゃんを連れて、スタッフを連れて、3人で東北地方へ新幹線で一泊里帰り旅行をしていたので、その時の話などを伝えた。
御家族が連れて行けないなら、一緒に行きましょうよ!
と、提案。万が一の体調を考えて、車で帰省することに。
娘さん、息子さん、私とスタッフ。
何かあったら救急車を呼ぼうとか、打ち合わせも御家族を交え何度もした。
当日まで、生家に帰ろう〜!〇〇へ一緒に行くんだよ!とアイさんに伝えても、『〇〇遠いよ?そんなのウソウソ。』と言っていたのに、当日は、『行ってきま〜す!』と笑顔で留守番組に手を振っていた。
行く気満々だったのね。
何十年振りに兄妹達と会ったアイさん。
男兄妹と会って涙し、女兄妹と会っては、お喋りが止まらず。
まあ楽しい2泊3日を過ごした。
場所の混乱。疲れで、夜はなかなか眠れなかったけれど、まあまあ想定内。
故郷へ帰ると、子供の頃の自分になるのか、両親のお墓の前では『死んでる?父が?そんなの信じない!どうしてそんな嘘をつくの?!』
と、持っていたひざ掛けを墓石に投げつけた。
でも、ちゃんと分かっているんです。
信じたくないけれど、ちゃんと全部分かっているんです。
スタッフと私と3人で、露天風呂の朝風呂へ入ったり、美味しい物を食べたり、楽しい時間もたくさん過ごさせて頂いた。
アイさんの人生の歴史を深く知れた事も、この仕事をしていて良かったな、と思う所でもあった。
4時間掛け、息子さんの車でホームへ帰った。
ニコニコ笑顔で、
『ただいまー!家に帰ってきましたー!』
行って良かった!この笑顔を見たいが為に頑張ったのだ。
生家の居間でアイさんは言った。
『半年に1回くらい、こういう集まり、したいね!』
アイさんは、今も元気にホームで暮らしている。
あの痩せ細ったアイさんは、もう居ない。
また田舎に帰って、兄妹達とワイワイ集まる、という希望があるから、歳を取って思う様にいかない体を背負って、1日1日を大切に生きている。