思い出のワインシャーベット
「このシャーベット、すぐに溶けちゃうから、気をつけてね」
そういったローマ料理の店員さんは、くしゃっと笑顔をみせて、ひたひたに浸った赤紫色のワインシャーベットを出してくれた。高田馬場も安くてかなり美味しい店が何軒かある。しかも常連しかこなさそうな、穴場なのだ。客層はどちらかといえば、年配が多く、大学教授やお医者さんたちがくるようなハイソな場所、らしい。
そうそう、このワインシャーベット、確かにすぐ溶けて液状になってしまう。なんで、お酒だから?
「このシャーベットね」
少しオネエっ気のある店員さんが語りだした。
「実に25年ぶりに復活したデザートなのよ。」
へぇ、そりゃなんでまたと尋ねると、また笑顔をくしゃっとさせたのだった。
「だって、これ、ご覧のとおりすぐ溶けちゃうでしょ。こうして液状になってしまうと、お客さんも残してしまってねぇ。だからこのデザート、やめることにしたのよ。」
「そしたらね、25年たった今、このデザートに慣れ親しんだ昔のお客さんが、子育ても終わって、ゆっくりお店に遊びにいこうといざ足を運んだら、あのデザートがないじゃないのって言うのよ。」
「それでこのワインシャーベットが復活したってわけ。」
確かにこんなホットな話だったら、このシャーベット、すぐ溶けちゃうわけですねと相方は頷いた。そうして、そのシャーベットはワインとブランデーの混じった、少し複雑な重みのある味がした。
雨の日の降る夜に
2010年に書いた上の記事。懐かしい。本当に懐かしい。
雨の日だった。ひどい土砂降りだった。二人で傘をさして高田馬場を歩いていたら、当時相方だった今の夫は、ふと呟いた。
「このお店、なんだか食指が動くな。」
こういう夫の嗅覚は抜群なので、今ではもう疑うことはない私。
入ってみたら、「寒かったでしょう。いらっしゃい。」と一見さんを迎えてくれた。
都会によくある洒落た味ではなく、昔から食べてきたような味わい深いご飯。客層は馴染みの家族連れだったり、昔からの付き合いがありそうなご年配のマダムやムッシューがいる。マスターもお話が大好きで、トークでみんなを喜ばせる。温かい空気が流れる。壁にはマスターが本店のローマで修行した仲間たちと撮った写真とか、絵とか、マスターが好きな空間になっている。
あぁ、ホームのようなレストランなんだな。
それから夫とよく足を運んでは、色んな友人を連れてきてご飯を楽しんだのだった。
それから10年が経った
それから一緒にいった相方は私の夫になった。10年前と異なり、二人とも転職して子どもも2人も出来て、子どもたちが少し分別がつくようになったので、久しぶりに来店した。
久しぶりなお店って少しドキドキする。忘れられてたらどうしよう、マスターがもういなかったらどうしよう。コロナでお店大丈夫かな・・などなど。でも、そんなのは杞憂だった。
「あらやだ!久しぶりじゃないの!」
オネエな店員さんもマスター(推定80歳)も健在でよかった(耳が遠くなっているけど)。なにより、賑わいが想像以上。まだ18時なのにほぼ満席。家族連れ、一人で来る方、気の知れた友人たち。みんなが楽しくおしゃべりして、リラックスした温かい空気が、いつものように流れている。
そしてワインシャーベットも夫が最後に頼んで、食べたのだった。
「これこれ。この味。」
そんな今晩行ったレストラン、タベルナ。
今年で開業40周年の老舗レストランです。あんまり広めたくないくらい、私が大好きなお店であります。(予約するのがおススメです)
大好物のチョコレートケーキは、ホールで買って持ち帰りしました。
まゆみっこでした。
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