デザインとケアには相互に作用する力があるのか?
日常生活におけるデザインとは使い手の体験を中心に捉えるものであり、他者への配慮、デザインとエシカルは密接に関わることが今日求められています。「ケア」とは配慮の倫理を意味し、保健衛生、環境面、社会面における生活の質、さらに広く捉えると「いたわり」やエコロジーといった分野とも関連しています。「ケア」はデザインの手法と目的を進化させます。一方デザインも、ケアを行う際に不可欠な設備や道具を介して、より豊かで充実したケアを可能にします。( Institut français du Japon主催「日仏デザイントークシリーズ」vol.04:デザインとケア 参与)
「ケア(配慮の倫理)の視点でデザインする」とは、一体どういう意味なのでしょうか。言葉の意味から考えていきます。
Care(ケア)には「配慮の倫理」がある
Googleで「ケア」(カタカナ)の意味を調べると、こう表示されます。
同じくGoogleで英語の「CARE」を検索すると、このように出てきます。
■ 誰かの心身の健康を維持するために必要なものを提供すること
■ 誰かや何かを守ること・世話をすること
■ 懸念や関心を抱くこと
■ 損傷やリスクを避けて安全に正しく行うため、注意を払うこと(「細心の注意を払う」)
これらの意味の中心には「配慮」や「労わり」があります。
日本語では看護や介護に関する行いが「ケア」という語に定着していますが、狭義の意味にあたるのかもしれません。
"Take care of yourself." (お大事に。)も、健康管理をすることですが、その軸には「自分の体をいたわる」という(自分の身体への)配慮があります。
ケアの視点でデザインする
本来的なケアとは、身体的、精神的、あるいは金銭的な問題など、全人的な事情を汲み取ること、またそこから不安や悩みを取り除く技術だったりすると思います。
Narrative based Medicineという言葉があります。例えば患者さんが治療の意思決定をする際、「術後の後遺症が仕事復帰に影響するか否かが一番不安だ…」と言えば、その人の価値基準は仕事であること、以前のように戻らなければ感じる不安が大きいことなど。事情を引き出して共感する向き合い方が大切とされています。
これは医療シーンの話ですが、世の中全体にも、ケアの倫理が広がります。
標準的な体系・特徴をもつ人に合うデザインが量産されてきたモノづくり(インダストリアルデザイン)も、これからは標準値から離れた人のためのデザインが求められているようです。
高齢者や障がい者、他国の人など、(ある文脈で)マイノリティであり、従来はデザインの対象とされてこなかった多様な人々は、経験価値などを配慮されてこなかった可能性が高いのです。
デザインプロセスの上流から巻き込む手法を「インクルーシブデザイン」と呼びます。
インクルーシブデザインとは、高齢者、障がい者、外国人など、従来、デザインプロセスから除外されてきた多様な人々を、デザインプロセスの上流から巻き込むデザイン手法です。(Inclusive design Solutions 「インクルーシブデザインとは」参与)
その人の置かれた立場や状況を深く捉える過程が大事なのですね。
デザイナーに求められる要素
プロダクトやサービスをデザインする人は、モラルや価値観をもち、課題へ意識を向けられることが求められます。
性別や年齢、人種、言語、体型、肌の色、宗教、食生活、障がい、収入、利き手、ライフスタイル…
ケアの視点をもつことは、消費者を取り巻く環境を、政治や宗教、文化など様々な側面から考えられることなのでしょう。
今日、様々な肌の色に対応したバンドエイドやジェンダーギャップのないピクトグラムによるトイレのサインなどが開発されています。
ケアの視点に立てば、デザインのアイディアも豊富になり、クリエイティブな未来が開けてくるのではないでしょうか。