Ochsner Health Systemから学ぶ、患者とのタッチポイントを増やす戦略
1年半前、ジャズ発祥の聖地、ルイジアナ州・ニューオリンズに訪問した私は、医療施設の設計・デザインに関する学会“HCD Conference&Expo”に参加していました。
ニューオリンズ市内の病院を視察できるプログラムが希望者にのみ実施されていたのですが、私は“Ochsner Health System(オクスナーヘルスシステム)”を選びました。(とりあえず一番規模が大きかったというのが理由。)
今回はそのオクスナーヘルスシステムの取り組みから下記のことを考えてみたいと思います。
・ポピュラーヘルス促進に病院がどのように関わっているのか
・企業との共同開発によって患者とのタッチポイントを高める戦略とは
オクスナーヘルスシステムは、ルイジアナ州最大の非営利の学術的医療機関です。US News & World Reportの小児分野において、胃腸病学と胃腸手術と小児心臓学と心臓手術で「最高の病院」に認証されたことがある病院だそうです。医学研究の国内リーダーとして700以上の臨床研究を実施しています。(言うまでのなく、とても大きな病院でした!)
訪問した場所はプライマリケア&ウェルネスセンター、小児科、そして外来患者の健診センターです。オクスナーヘルスシステムの訪問では、実際に病院建築に携わった建築家の方もガイドを務めてくださり、ハード面のいたるところにPXやEXを上げるポイントがあることをお話されていました。
ここでは、PXを向上させるための革新的な仕掛けを紹介したいと思います。
4年以上の歳月をかけて開発されイノベーションの拠点、Innovation Labは患者のニーズを拾いあげたり、システムを開発する機能があります。
その取り組みのひとつが ”O Bar”。AppleのGenius Barを参考にしているそうです。スタッフのほとんどはテクノロジー詳しいエンジニアなのだとか。
動画でご紹介しているのは、病院の中ではなくショッピングモールのような場所に建設しています。
なぜ公共の場なのか…?
目的のひとつは「患者への教育」です。健康管理のツールを使いこなせるようになるためにサポートをします。使えるようになることで、患者は自立して自分の健康管理ができるのでリテラシーが高まっていきます。
ポピュラーヘルス(「予防から予後まで長期的なスパンで、慢性疾患のリスクを低減する健康管理の仕組み」と定義されています。)の向上に貢献しているわけです。
オクスナ―ヘルスシステムは企業と共同開発した様々なヘルスケアのシステムを提供しています。例えば“My Ochsner”は、患者が自分の診療上情報を確認・管理できるアプリです。
USニュース全米5位、循環器では第1位を獲得し、Patient Firstを理念に掲げるCleveland ClinicでもMy Chartという同じ仕組みを使っています。検査結果や担当医からのメッセージ、予防医療、アレルギーなど様々な情報を一括してみることができるプラットフォームです。
また、緊急時に患者と医師が対面し、インタラクティブなコミュニケーションが遠隔で受けられるサービス(Telehealthと呼ぶそう)はAmerican Wellという企業と共同で開発したそうです。
ヘルスキットは自分で熱や心拍数を測り、結果を送れる、全てが連携したソリューションです。
クリーブランド・クリニックも「e-Cleveland Clinic」というコンセプトの下、ITを用いた地域医療連携を推進しています。同じ電子カルテを地域の開業医も導入し、クラウド上で患者情報を共有します。
e-Cleveland Clinicは既に640万人の患者に使われているそうです!
(アメリカ各地や海外からCleveland Clinicに来る医療ツーリストがいるのですが、あらかじめ患者情報を共有し、時間をかけて遠方から来る価値があるかどうか、紹介元の医師とCleveland Clinicの医師で検討するそう)
アメリカでは、ヘルスケア分野でのDX発展が目覚ましいようですね!
病院を案内して下さった女性の職員の方は、オクスナーヘルスシステムには施設開発部門があり、どんなプロジェクトでも、プロジェクトマネージャーとファシリティプランナーが企業側のパートナーを探しながらイニシアティブをとって開発すると話ていました。
また、プロジェクトマネージャーは、様々な人々を巻き込みながらプロジェクトの進行を管理し、リーダーとして解決に導くそうです。彼らは建設との連絡役も務めます。
日本のように皆保険制度でないこともそうですが、アメリカは民間病院が多く激しい競争原理が働くため、病院の経営レベルがとても高いそうです。もはや会社の戦略のようです…。
さて、今回はポピュラーヘルス促進に貢献する“O Bar”や、患者とのタッチポイントを増やすツールの共同開発によって、総合的に医療サービスを構築するヘルスシステムの取り組みをご紹介しました。
根本的に日本の医療環境とは異なる点は沢山ありますが、アメリカの事例から地域医療連携のヒントが見つかるかもしれません。