挑戦してよかったこと 世界初インストミュージカル
表題の企画記事募集を知ったので、せっかくなので書いてみることにする。
のっけからナニだが、私はミュージカルというものは正直あまり好きでない。
正確に言うとあまり観たことがない→経験値不足からくる食わず嫌いというものかもしれない。
時はちょうどコロナ禍。演奏活動ができなくなっただけでなく、仕事も激減だったが、幸いなことにコロナに罹患することなく健康だったから、気力体力を持て余していた幸運にも恵まれた。
自分が大好きなことは?→作曲
得意なことは?→作曲
何より大事なことは、自分はサックス奏者というインスト楽器奏者であること!
この3点をあらためて確信し、ならば、誰もやったことがない手法での作品づくりにチャレンジしようと決めた。
そうして考えたのは、ある物語の筋書き(ト書き)をはじめ、登場人物のセリフも含め、シーンごとにそっくりそのまま楽曲化し、メロディ(セリフ)をインスト楽器によって奏でる。
同時に映像と音楽を同期させ、文字情報を映像に送るという手法だった。
つまり、「しゃべるのは楽器」かつ「セリフをのせた映像を同期」
登場人物のセリフは100%そのままにして、メロディ化して楽曲を作る。
通常のミュージカルも歌詞、台本ありきではあるが、かといってこの手法とは基本まったく違う。そもそもしゃべるのは楽器!なんてね(笑)
まずは素材選び。
第1作目とすれば、とてもよく知られた作品がいい。
さらに物語が音楽的で、、つまり起伏に富み、さまざまなシーンの彩りを作りやすいものがいい。
さらに権利問題がクリアでき、オリジナルを損ねないかたちで脚色ができるものがいい。
そして選んだのは、かの有名なシンデレラだった。
余談だが、シンデレラにはいろいろなバージョンがありとてもおもしろかった。
あわせて、「シンデレラと王子様はめでたく結婚して幸せになった」という結末に、その後の人生編という部分を加え、物語全体を貫くテーマというものもあわせて脚色した。
その内容については、是非実際のライブ上演を見ていただきたくここでは言及しない。
次に物語をシーンごとに分け、制作楽曲がどれくらいの数になるかのシミュレーション。
伴う上演時間がいたずらに長くても飽きてしまう。
当初は45分の予定だったが、オープニングとエンドロールを加えると、結果66分の大作に。制作楽曲は40曲以上になった。
朝から夕方6時まで、毎日毎日鍵盤に向かい、シーンごとのセリフを鼻歌で唄いながら曲を作った。
ある程度外枠ができるとコンピューターでオケを作り、メロディは自分の下手な仮歌で。聞くに堪えなかった(笑)
日々自分にノルマを課し、決して次の日送りにしなかった。
どうしてもできないこともある。しかし、これをやれてこそ壁を乗り越えることができることができるはずと思っていたし、不思議とできる確信があった。
一日も休まず予定通りの日数で曲作りを終えることができた。
純粋な音楽制作サイドはスピード感をもって進捗したが、映像をどうするか。実はこれが最大の難関だった。
なんちゃってレベルだが、私も映像制作はできるし、音のタイミングにあったセリフを映像に出すことくらいはもちろんOK、なのだが。
まがりなりにも、シンデレラという物語。
最初は影絵で映像を作ろうかと思いたち、人型の模型まで作ったが、膨大な作業量となり、とてもひとりでは無理。そもそも私は絵がニガテ。ほんとうにニガテ。どうしよう…
というところに、助っ人登場。
サックス教室に長年通ってくれていたプロ!のデザイナーの女性。
常に教室のイベント時には、その素晴らしいデザイン力を存分に提供してもらっていたが、またしても。
この頃は就学前のふたりの子育てだけでも大変なのに、時に子供たちに泣かれながらも自分の時間を作り、シンプルながら実にセンスのいい映像を作ってくれたのだった。クリエイターとしての立ち位置もあってこの映像との上演は2回のみだったが、本当に素晴らしかった。
ライブを重ねるごとにいろいろな意見もいただき、その後は人物を登場させない、書割的バックグラウンドとセリフのみに落ち着き、一念発起で自作した。
次なる問題は、オケを使わず音楽はあくまで生演奏でのライブ上演であり、映像との同期方法、つまりハードウェアとテクニカル的なことをどうするか、だった。
「そんなの、簡単じゃあないか!」この方面に詳しい方には笑われそうだが、予算はほとんどなし。かつ、できるだけ手軽な方法で上演を続け得る第1策を実現することが必要だった。
そこで再び助っ人登場。古い友人で、ミュージシャンでもあるが、「なんでもできる」優れびと。
安価な機材投資での方法を考案、実現してくれただけでなく、その後、教室の25周年の記念作としてライブ上演動画を作成した際には、録画データ編集に彼の全生活時間を奪うくらいお世話になった。
気が遠くなるくらいの編集量だったし、ファイル容量が大きすぎて、たとえばアップロードもダウンロードもひとつひとつの工程にさえ、膨大な時間を費やすのだ。感謝だけではどうすることもできなかったが、それしかできなかった。
忘れてはいけないのは、肝心の音楽演奏のこと。
すべてオリジナル作品であり、演奏に参加してくれたのはプロもいたが、ほぼアマチュア。管楽器に関してはサックス教室の生徒さんの有志がほとんど。
どんな曲かを理解した上で練習をしてもらう。
ただ時はコロナ禍の真っただ中。打ち合わせもリハーサルもやりたくてもやれない。
オンラインツールを利用しての打ち合わせし、感染のリスクは承知でリハーサルを行い、感染のリスクは承知で収録を決行した。
嫌な顔ひとつせず20名以上の演者が駆けつけてくれ、ベストパフォーマンスを発揮してくれた。幸いひとりの感染者も出さずで。
ときにものづくりとは何かと考える。
それは究極のエゴでもあるかもしれない、いや、そうに違いない。
ひとりでは何もできず、いやおうなしに周囲を巻き込んでしまう。
いったい彼らに自分は何を提供することができるのか?
「面白そう」と思ってもらえること。
無理をしてでも、やってみたいと思ってもらえるクオリティのものを作ること。
最後までやりとげ実現すること。
ただそれだけ。
それしか自分にできることはない。それが自分の唯一の取柄。
そのことをあらためて強く心に刻んだ日々だった。
これからも挑戦は続くが、、、挑戦してよかった。
ただそれだけ。