「食」の絵本①―『300年まえから伝わるとびきりおいしいデザート』
十五夜も過ぎ、そろそろ本格的に秋らしくなってきましたね〜。芸術の秋、スポーツの秋…なにより食欲の秋!!栗に柿にさつまいもに…秋はおいしいものがいっぱい!
…ということで、今月のテーマは"「食」の絵本"です。食べ物の登場する絵本は数えきれないほどありますが、今回は"食べること"や"作ること"を考えられるような絵本をそれぞれ選んで、持ち寄って語ってみます。ではではさっそく…いただきまーす!
テン:うちはこれ。『300年まえから伝わるとびきりおいしいデザート』。
『300年まえから伝わるとびきりおいしいデザート』
(エミリー・ジェンキンス文 ソフィー・ブラッコール絵 横山和江訳 あすなろ書房 2016年)
【あらすじ】
300年前から伝わるとびきりおいしいデザート、それは"ブラックベリーフール"。基本のレシピは変わらなくても、材料の調達方法や調理器具、そして料理する人や食べる人の姿は、時代を追うごとにどんどん変わっていきます。300年前から100年ごとに切り取って、ブラックベリーフールを作る人々の姿を通して、文明の発達や差別の歴史などを俯瞰できる、美しくも味わい深い一冊です。
テン:描かれてるのは、"ブラックベリーフール"っていうデザートを作る工程やねんけどな。
1710年、1810年、1910年、2010年っていう100年刻みで描いてて。
このデザートを創る工程とか、それを作ったり食べる人とかに、その時代ごとのいろんな社会的な物事が反映されてるって感じかな。
マヨ:へぇ~
テン:ナナは知ってるんやね、この絵本。
ナナ:本屋で売ってました~。いいよね!
テン:1710年はイギリスが舞台。女の子とお母さんがブラックベリー摘んでる。
ナナ:絵が綺麗だよね〜。
マヨ:うん、綺麗~!
テン:牛乳は自分で牛の乳を搾ってて、泡立て器は木の枝を束ねたやつ。それでむっちゃ頑張って15分間泡立てる。生クリームを冷やすのは、丘まで歩いて行って、冬から保存してある氷の入った穴ぐらに入れる。
で、ブラックベリーは布に入れてこしてるね。
マヨ:うんうん。
テン:それで食べるのは…旦那と息子たち。
ナナ:作ってたの、召使いかと思った。
テン:いや、家族。奥さんと娘や。
ナナ:男尊女卑なのね。家事は女性の仕事。
テン:服装も全然ちがうし。男性陣は正装しとる。
ナナ:うーん。
テン:これが今から300年前。次は1810年で、アメリカのサウスカロライナ。今度は、黒人の母娘がブラックベリー摘んでる。
ナナ:そうそう、ここ印象的だった。
テン:ブラックベリーは井戸で汲んできた水で洗う。泡立て器はブリキになって、10分かき混ぜる。冷やすのは、地下室にある鉛とコルクと氷の入った箱。鉛使ってるところも時代やね。
マヨ:うーん、すごいな。文明進んでるね。
テン:で、食べるのが…白人の家族。ここは白人の奥さんも娘も食卓についてるね。
ナナ:書店員時代にさ、その場面についてお客さんに聞かれたんだけど。ここ、黒人の男の子がなんか、天井から吊るされた物を紐で引っ張ってるの。"この男の子は何してるんですか?"って。それで調べて…確かね、引っ張って仰いでるんよ。手動扇風機みたいな※。
※これについては、確証がないので残念ながら憶測です…。ごめんなさい。調べたはずなのにナナの記憶力…ポンコツ!
いずれにせよ、細部までリアリティを追求する画家の姿勢が読み取れますよね。
マヨ・テン:あぁ~!
ナナ:ちゃんと当時の小物描いてて、リアリティがある。黒人の母娘も男の子も…奴隷で。
テン:あとめっちゃ細かいけど、手前のお兄さん本読んでるから、識字率※のこともメッセージに含まれてんのかなって。
マヨ:お~!
テン:食事の場面やのに、わざわざ描いてるってところがさ。
ナナ:ほー、この子は字が読めるよってこと言ってるのね。そもそも、印刷技術上がって本が大量生産されたよ、ってことも含めてるのかもね。
※識字率…文字の読み書きをしたり、理解する能力のことを「識字」と言います。つまり識字率とは、文字の読み書きができる人の割合のことです。これが高い国ほど、国家として発展していると言えます。
なので、この場面の読書をする男の子の描写は、19世紀の産業革命によって印刷の機械化が進み、本が普及したことや、当時のアメリカの識字率が向上したことを示している、と考えられるのです。
テン:これが今から200年前ね。で、次が同じく100年前の1910年。アメリカ、マサチューセッツ、ボストン。
マヨ:ふんふん。
テン:作るのは母娘。今度は畑や農場じゃなくて、リアカーで売ってるブラックベリーと、配達される生クリーム。で、ブラックベリーフールの作り方を、お母さんは料理の本で調べる。泡立て器は、半自動みたいなやつ。
マヨ:へぇ~!
ナナ:くるくるまわすやつか。
テン:自転車の車輪と同じ原理かな?それで5分泡立てる。ブラックベリーは台所の水で洗う。冷やす場所は、毎日届く氷の入った木製の冷蔵庫。
マヨ:昔の冷蔵庫や!
ナナ:ね。今見るとレトロでいいね。
テン:食べるのは家族で、作ってた母娘も同じように食卓についてる。男女の風貌については、特に見た目に違いは無いね。ただ言えるのは、料理してたのが女性陣ってことかな。
マヨ・ナナ:うんうん
テン:部屋の灯は、これまでずっと蝋燭やったけど、電気になってる。
ナナ:おお~!文明の力ですな〜。
テン:最後が2010年。アメリカのカリフォルニア州サンディエゴで、スーパーで、低温殺菌された生クリームとかを買ってる。買ってるのは男の子とお父さん!あと、ビニール袋じゃなくて持参のエコバックやね。
マヨ:ほんまや~現代的。レジのお姉さんスマホで電話してる(笑)
テン:お父さんは、薄いノートパソコンでインターネットを使って、ブラックベリーフールを検索してる。
マヨ:あはは(笑)
ナナ:もう口伝えどころかクグるっていう(笑)
テン:ほんで混ぜるのは、電動泡立て器ね。
ナナ:一瞬じゃん。何分くらいで生クリーム出来るんだろう。3分くらいだっけ?
テン:もうね、書いてない。ガー!あっという間に…。
マヨ・ナナ:(笑)
テン:お父さん、ブラックベリーをフードプロセッサーで潰してる。
マヨ:あっはっは(笑)
テン:で、ブラックベリーフールを、一般的な今時の冷蔵庫で冷やしたら、友達家族がやってくるね。食事風景がこんな感じ。(絵を見せる)
ナナ:あー、そうか。ここで黒人の友達が来たり、みんなが多国籍な料理を持ち寄ったりするんだ。
テン:そうそう、メキシカン料理とかね。黒人も白人もいるし、いろんな人種が集まってる。この男の子とお父さんは…日系っぽいのかな。
マヨ:そうやんな。肌の色もそんな感じね。
テン:アジア系なのかなって感じやね。
テン:パーティーの最後の風景。(絵を見せる)
マヨ:うわー、すごい!
ナナ:人種も性別も越えて、好きなものを食べる現代の風景、と。素晴らしいね。
テン:黒人の女の人と、白人の男の人は夫婦だね。赤毛の人もいる。
ナナ:多様性が明らかに表現されてるね。
マヨ:うんうん。
テン:最後に、ブラックベリーフールのレシピと、作者と画家の解説がついてる。裏表紙はこんな感じ。
マヨ:可愛い。
ナナ:解説も読んで読んで~!
…テン解説音読中…
テン:すごいな~!この絵本を創るにあたっての調査が徹底してる!
ナナ:時代ごとのリアリティーを徹底的に追求してるね。
マヨ:「配られた同じくらいの白人の少女は一体どんな気持ちだったのでしょう」っていう1文がなんとも…。
テン:1810年の場面ね。奴隷の黒人の女の子が配膳してて、それを横目で見ている雇主の白人の女の子。この子の表情、特に嫌悪感もないけど、別に歓迎もしてないというか。絶妙に感情が読めない描き方よね。
マヨ:うんうん
ナナ:あえて読者に考えさせるためだろうね。
テン:いい絵本だね~!
色々、問題提起というか、考えなきゃいけない問題はたくさん描写されてるんやけど、教訓じみてはいない。押し付けがましさはないね。
マヨ:うん。
ナナ:"黒人の奴隷制度について、本文で説明できなかった"って解説に書いてあったけど。むしろ、あえて描かないことで、読者もなんだろうって考えるよね。
テン:うん。それ入れちゃうと、逆に絵本の毛色が変わっちゃう気がする。気づいた人が、気づいた場面を自発的に考えるっていうか…。
マヨ:そして綺麗な絵本なのもよき。
ナナ:その画家さん、プーさんの絵本も描いてるよね、違うかな?
テン・マヨ:へ~!
ナナ:"くまのプーさん"のモデルになった子グマの実話。戦争中に、軍隊のマスコットだった実在の子グマでさ。動物園でクリストファー・ロビンと出会って、ぬいぐるみのクマのプーさんに繋がってくのよ。
テン:あ、これか!コールデコット賞※獲ってるよ。
※コールデコット賞…
アメリカの児童図書館協会によって、アメリカ合衆国でその年に出版された、最も優れた子ども向けの絵本に与えられる賞のこと。19世紀イギリスのイラストレーター、ランドルフ・コールデコットを記念して名付けられました。
ナナ:あ、それだ。そうそう、それで獲ったんだ。その人、綺麗な絵だよね。
マヨ:あ~!表紙見たことある!
テン:その人の絵なんや~。
ナナ:独特な、おしゃれな絵だよね。
いやー、「食」のテーマだったけど、この絵本は「社会学」とかでもあるね。
マヨ:うんうん。
テン:冷蔵庫や泡立て器の変遷は、文明の発展としても読めるし、服装や室内の様子は歴史のドキュメントでもあるし、その中に考えるべき問題が散りばめられてるよね。大切な問題やけど、かと言ってシリアスすぎるわけではなく、だんだん人と人との隔たりが無くなって良くなっていくというか、希望の物語でもある気がする。
ナナ:そうだね~。
テン:こういう事実の上に、多様性を認め合おうとする社会の描写って、結構タイムリーやなと思って。
マヨ:うん。
テン:なおみちゃんが今日優勝したやんか。その時も、この絵本のこと思い浮かべてん※。
※この座談会当日、テニスの大坂なおみ選手が、ニューヨークで開催中の全米オープンで優勝しました。彼女は試合のたび、異なる名前が記されたマスクを付けており、注目を集めました。そこに書かれていたのは、アメリカで警察の人種差別的な暴力の被害に遭った、黒人犠牲者たちの名前でした。
マヨ:うんうん。
テン:マスクのことやけどさ。"現地の記者が、毎回誰の名前か予想してるけど外れた。次は誰?みたいなことを訊ねた"っていう記事を見て。このインタビュアーが女性か男性か、どんな人種かとか肌の色とか何も知らんけど、そのニュースを字面だけで見たとき、学ぶことってほんまに大切やなと思った。
ナナ:それは…。知らないって怖い…。
マヨ:ひょえ~こわい!!!
テン:この人、実はすんごい歴史に詳しかったかもしらんし、逆に何も知らなかったのかもやけど、どっちにしても怖い発言やなって。人種差別の問題だけじゃなくて、社会の事に関して、当事者意識の薄さからこんなことを軽く言ってしまうことが、自分にもあるかもしれないって思ったら、こうやって絵本からでも「知る」「学ぶ」ことって大事やな、ってめっちゃ思った。
ナナ:同じ"学ぶ"でも、学校の勉強とかじゃないよね。
マヨ:うんうん。
テン:歴史を知るとか、社会のことをわかろうとする姿勢を持っておける人間でありたいな、と思った。それができる絵本って、やっぱりすごい。
ナナ:うん。絵本の力だね。
「食」の絵本とはいえ、おいしそうな食べ物を楽しむだけではなく、「作ること」や「食べること」を通して、歴史を学び社会を見つめることができるんですね。絵本の無限の可能性を感じることができたなぁ、と満足感に浸る3人でした。
だけど、まだまだお腹は空いてるぞ!来週もお楽しみにー!!
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