第0日目-5【メンタル病んだので最長片道きっぷの旅に出ました】
1月27日。やっと……という感覚だが、いよいよ最長片道きっぷの旅のスタート地・稚内へと向かう。
↓前回はこちら
改めて列車運行情報を確認したが、乗車予定のサロベツ1号は問題なく運転されそうだ。しかし午前中にホテルをチェックアウトしても、発車時刻の13時35分までは時間がある。暇を潰そうにも、体力を消耗することは避けたい。どうしたかというと……
旭川駅前のイオンの映画館で映画を観て過ごした。選んだのは『ゴールデンカムイ』……ではなく『SPY×FAMILY CODE:White』。
これまで散々『ゴールデンカムイ』に言及しておいて別の映画かい!というツッコミを受けそうだが、上映開始(午前9時)に間に合わなかったのである。そもそも9時の列車に乗る予定だったのだから、そのつもりで動いてたら観られたのにね……
勿論筆者も『SPY×FAMILY』は好きな作品でありアニメも(現在までに放送された)全話視聴している。ちょうど前日に同作ファンのTwitterフォロワー様からのお勧めもあったので良い機会だった。
上映終了は13時過ぎ、列車の発車まで30分弱。荷物をまとめて足早に駅へと向かった。
ホームに上がるとそこには、宗谷本線の特急・サロベツ1号の姿。行先表示には夢にまで見た「稚内」の文字。思わず心が浮き立つ……などと書くところだが、当時の私はやっと稚内に行けるという安堵の気持ちの方が大きかった。3日も待ったのだから当然だろう……
おそらくはこの運休明け後、初めて稚内に到達する列車である。この運転再開までに多くの鉄道関係者や、前日までに時折見かけた除雪車たちの活躍があったことは想像に難くない。そんな関係者の尽力を噛み締めるように列車に乗り込んだ。
サロベツ1号は定刻通り13時35分に旭川駅を発車。終点までは3時間弱。これだけでちょっとした旅行である。
ちなみに稚内までの料金は通常のところ運賃5,940円+指定席特急料金2,950円(自由席は530円引き)の計8,890円だが、数量限定の「えきねっとトクだ値」の50%OFFの枠が残っており、4,440円で乗車することができた。おそらく連日の運休でキャンセルが出たのだろう。
しかし及ばずながらも鉄道を応援する立場として、経営が厳しい路線を走る列車にこんな大幅な割引料金で乗ってしまっていいのか……などと一瞬考えたが、これまで旭川に3泊した影響で予定外の出費が嵩んでいることもあり、有難く利用させてもらうことにした(無論、一般の人は遠慮なく利用して構わないだろうが)。
乗車率はざっと見た感じでは3〜4割程度で、自由席の方が比較的埋まっていた。えきねっと割引が余ってるから使えばいいのに……などと余計なことを思った。
翌日も同じ道を戻る形にはなるのだが、車窓風景を暫し紹介。
三浦綾子氏の小説の舞台にもなった塩狩峠、「羊のまち」士別、そして宗谷本線の中核とも言える名寄を過ぎると、北海道らしい雄大な自然が一気に近くなる。列車はしばらく天塩川に沿って進む。
車窓からはエゾシカやワシ(種類がよく判らなかったがオオワシだろうか?)などの野生動物の姿も間近に見える。列車の接近で逃げる様子がないのには驚いたが、列車にとってはときに厄介な存在にもなる。
名寄を過ぎてしばらくした頃、列車が時折急ブレーキをかけるようになる。特急列車では先頭の様子が見られないが、シカなどが飛び出してきたのだと察せられた。
北海道の列車では「野生動物の飛び出しにより急停車する場合がありますのでご注意下さい」旨の放送が流れることがあるが、筆者が実際にこの状況に出くわしたのはこれが初めてだった。なかなか線路上から退いてくれないのか、10〜20分程度の徐行運転が続く場面もあった。
列車名にもなっているサロベツ原野に差し掛かる頃には日没。程なくして左車窓に稚内の街明かりが見えたときには、やっとここまで来れた……という感動すら覚えた。まるでこの旅の真のゴール・新大村駅に辿り着いたかのような感情だった。
列車は線路内動物侵入の影響で25分程度遅れ、17時50分頃、稚内駅に到着。写真でしか見たことのなかった、日本最北端の駅を示す看板や標柱が今、目の前にある。最北端の地に来たのだと実感する瞬間だ。
筆者が乗ってきたサロベツ1号は、定刻ならば17時44分発の札幌行き宗谷号となって折り返す。到着時点で発車時刻を過ぎており、乗客を乗せるとあっという間に発車していった。
もしこの折り返し宗谷号でとんぼ返りするつもりだったら、稚内の滞在時間は20分もなかったことになる。当地に一泊する形にして正解であったと改めて思った。
とは言え当初予定から3日遅れである。もし仮に今ここで最長片道きっぷの有効期間を3日後ろ倒しできるのであれば、それに越したことはない。私は駅の窓口で、ダメ元で有効期間変更ができないか訪ねてみたが、やはり運賃や経路の再計算などが必要となるため、単純に日付を変更するだけでは済まないようだった。係の人の手を煩わせてまで変更するつもりはなかったので潔く諦めたが、行程を再検証しなければならない。
後日、鉄道趣味繋がりの友人に聞いた話では(あくまでこの友人の体験談ではなく伝聞の話であるが)、払い戻しの際にも同様の手続きが必要なため、最長片道きっぷを買い求める際に「払い戻しはご遠慮ください」と念押しされた人がいたとのことだった。この対応の是非についてはここでは論じないが、最長片道きっぷは購入手続きと同様に、変更や払い戻しが容易にできないものであるという点は念頭に置いておいた方がよさそうだ。
駅の外に出る。現在の駅舎は2012年に開業したもので、道の駅や映画館を併設した複合施設になっている。
上映スケジュールを見ると『ゴールデンカムイ』は20時からの回があったが、この日は既に映画を1本観たばかりだし、限られた滞在時間を2時間使うのも惜しかったので見送った。
ちなみにこの映画館では当時、『ゴールデンカムイ』は1日6回も上映されておりびっくりした。やはり北海道ゆえなのか!?ここまで推されているなら北海道滞在中の何処かで時間を取って観たいものだ。
駅前の温度計が示していた気温は-0.5℃。もっと寒いのを覚悟していたが、それほどでもなかった。
この日の宿は、稚内駅からも程近い「ドーミーイン稚内」だ。温泉大浴場や夜鳴きそば、美味しい朝食などで人気のドーミーインだが、当然私もファンである。間違いなく日本最北のドーミーイン、この地に来たからには泊まってみたかったのは言うまでもない。
チェックインの後は夕食のため再び街へ。しかしこの時間、営業している飲食店は居酒屋ばかりであった。
……いや別に居酒屋が嫌なわけではないのだが、私自身あまり酒を飲まない上、余所者が一人で入りにくい雰囲気もあり(筆者の勝手な偏見であり、別に問題ないだろうが)、どうにも苦手なのである。
駅周辺はチェーン店も少なく、マクドナルドの有名な日本最北店舗も歩いて行ける距離ではない。北海道の人気コンビニチェーン「セイコーマート」は駅にあるので、そこでお弁当を買うのも良いかと思ったが、そんな中「隠れた名店」を見つけたので入ってみることにした。
夕食の後、私は自室に戻り旅のスケジュールを引き直した。一応事前にバッファは設けていたものの、初っ端で使い果たしてしまったのは以前にも述べた通りだが、果たしてあとどれほどの余裕があるのか確認したかった。
私は事前にExcelで簡単なカレンダーや時刻表を作成し、各日に何処から何処まで進むか、どの列車に乗るか、また用事のため帰宅する日などのスケジュールを管理できるようにしており、これを用いて再検討した。
1日あたりの移動距離を増やしたり休養日を削ったりなどいろいろ検討したが、それでもその結果は……正直に言って殆ど余裕がない。元々多少の無茶があるスケジューリングの旅であり、予定が狂えばその分苦しくなるのは自明の理である。たとえスムーズに進んでも、おそらくゴールの新大村駅到着はきっぷの有効期限である3月20日ギリギリになるだろう。もしまた数日足止めを喰らうような事態になったら……もう考えたくもない。
この先の不安要素を明らかにして安心感を得るための再スケジューリングで、却って余計に心配事が増えてしまった。
不安を抱えたまま、翌日いよいよ私の最長片道きっぷの旅が始まる……
現在、稚内から 0.0km
新大村まで あと 10,855.6km