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第7話「無邪気な無知」

  ソラたちは地下生活研究所に来ていた。 

「ようこそわが研究所へ。君に会える日を楽しみにしていたよソラ君」

 霧野 曇と名乗った老夫はしわしわの顔をさらにしわしわにして笑う。マヤはみんなを連れてくると「私より詳しい人がいるから」とクモリの部屋まで連れてきたのだ。彼はソラたちの困惑には気付かないように話を続ける。 

「表向きはあくまで地下で活かせる地上の研究。地上に戻るためではなく、地上のような快適な生活を地下で行うために、唯一地上生活の研究を許されている機関。それが地下生活研究所だよ。」 

 「私をここに置いてください!」

 クモリの話に皆が困惑している中最初に声を発したのはアカリだった。

 「私、地上のことをもっと知りたいんです。」 

 「ア、AKARI・・・?」

 信じられない発言に何も聞けずにいるミナミの代わりにミノルが口を開く。

 「アカリって現実主義なんじゃ・・・」 

「あれは事務所が勝手につけたキャラ設定。私はそれに嫌気がさして抜け出してきたの。」

 テレビやライブで見るアカリとは全く違う雰囲気にミナミは動揺を隠せなかった。本当のアカリはクールどころか情熱家で現実より夢を求めていたのだ。

 「まぁまぁ、そう焦らずとも。まずはコーヒーでも飲んで落ち着こうじゃないか。」 

 「すみません。私コーヒーはちょっと。」 

「あ、そうだね。みんなにはジュースか何か持ってきてもらおう。あったかなマヤ?」 

 「探してきます。」 

 そう言うとマヤは部屋を出て行った。 

 「あの、クモリさん。」

 やっとソラが口を開く。 

「そうそう、君たちに見せたいモノがあるんだよ。」

 クモリはソラの話を遮って1冊のアルバムをソラたちに広げて見せた。 

「わー」 

「きれーい」

 あまりに美しい空の写真にみんなが一斉に驚きの声をあげる。 

「美しいだろ?昨日マヤに地下で生まれた子どもたちは青空を知らないと聞いてね。教えたかったんだよ。空はこんなにも美しいんだとね。」 

 ソラはさっきまでの疑問が吹っ飛んでしまった。子どもたちは空の写真にすっかり見入っている。子供たちの明るい声で研究所が一気に賑やかになった。 


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 「どうしてパパの名前はクモリなの?」 

 子供たちを見ていたらクモリはマヤが幼かった頃のことを思い出した。 

「だって曇りの日は天気が悪いってみんな言うでしょ?パパは太陽みたいにいっつも笑顔で輝いてるのに。」 

「ははは、みんながみんな晴れの日が好きなわけじゃないんだよ?私は小さい頃、太陽の光を浴びられない身体でね。曇の日か真夜中しか外に出られなかったんだ。だから曇の日が楽しみでね。両親の遺伝らしいからきっと同じ気持ちで名付けてくれたんだと思うよ。直接聞いたことはないけどね。」 

「ふーん。でもマヤは晴れの日の方が好きだな。そーだ!マヤのパパだから真昼!マヤこれからパパのこと真昼って呼ぶね。」


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 無邪気に笑うマヤの顔を思い出すと、温かい気持ちになった。しかし、今のマヤのことを思うと哀しくもなった。あの日からマヤは1度も笑っていない。  


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