ひたむきな星屑 夏の気配
階段を上るにつれ明るさが増してくる。踊り場の大きな窓から差し込む光は白くて埃っぽい。会議室5のブラインドから差し込む光。プールの中から見た外の景色みたいだった。まだ少し水の冷たい、塩素じみた夏のはじめの匂いがする。
会議室1からは合唱が聞こえてくる。
はじめ、聖歌かと思った。
ガラスの窓をのぞくと大人がたくさんいて、口を大きく開けて高い声を出していた。
各部屋の使用団体名が書かれたホワイトボードには「合唱団」と記載があったので、きっとあれは合唱なのだと思う。
合唱の聞こえる午後というのはなんだかぜいたくな感じがする。
自分が小・中学生だったころを思い出すのだが、学校に通って合唱をしていたことではなく、ふしぎと母のことが浮かんでくる。
実家の裏が学校だった。
合唱の声や吹奏楽の練習の音を聴くと、私や妹が学校に行っているあいだ、専業主婦だった母はこういう音を聴きながら洗濯をしたり掃除をしたりしていたんだなといつも思う。
窓から光が差していて、グラウンドから風で運ばれる砂で、窓を開けた日には床がすこしさらさらする。
私は見たことのない風景のはずなのに、なぜだか懐かしく、あたかも大切なもののようにに思う。
かつてあたりまえの日常だった風景が、今ではとてもうつくしいものに見える。
感傷的でダサくてサイアクだけど、大切なものやうつくしいと思えるものがこれからも増え続けていくんだなと思うと、それはそれでアリ、生きる価値がある。