【SS】異世界観光日帰りバスツアー
【午前4:00】
皆様、本日は異世界観光日帰りバスツアーにご参加頂きまして、誠にありがとうございます。
本日皆様の案内をさせていただきます添乗員のキミコと申します!
……はい、乾いた返事をどうもありがとうございます。
乗客の皆様はあまり女性と話す機会がないのか、小声か無視が多いので、少しでも意思疎通ができて嬉しいです。
さて、当バスツアーはその名の通り、異世界に行って有名な観光地を巡るという『日帰り』バスツアーです。
いいですか、皆さん。日帰りですよ。
午前中に異世界を見て帰るだけですから……文句言わないでください。
前に宿泊をやったら翌朝行方不明になったり、殺傷・傷害・強盗・不同意わいせつ罪――など、あらゆる蛮行が行われてしまった前例があるので、仕方なく日帰りのみとなりました。
皆さんの今日の行いで宿泊が可能――になるかもしれないので、くれぐれも大人しくしててください。
では、異世界へしゅっぱーーつ!!!
[ワープホールを使って異世界転移]
【午前4:30】
はい、やってきました! 異世界!
今日は『エルフの里』で野菜の収穫体験でーーす!
皆さん、早く降りたそうですが、まだ駄目です。
まずは各自荷物を置いてから身体検査を行っていただきます。
あ、もし私に良からぬ事をしたら正当防衛として手を出しますよ。
こう見えて、ボクシングとテコンドー経験者なんで、甘く見てると痛い目にあいますよ。
はい、では各自その場で待機してください。
私が見て回りますね。
はい、立ち上がってください……ちょっと触りますね。
……ん? 坂田さん、なんですか。
コンドームの箱なんて野菜の収穫に必要ないでしょ。
没収です……はい、次の方。
スタンガン、ロウソク、網タイツ……問答無用で没収です。
はい、媚薬も、ナイフも、手錠も……皆さん、野菜の収穫よりもエルフの収穫を楽しみにしていたんですか?
言っときますけど、もしこの世界でエルフに暴行をくわえた場合、この世界の法律で処罰されます。
現代みたいに甘くないですよ。
鞭打ちか死刑は確実ですね。
死にたくなかったら、余計なものは置いてください……はい、素直でよろしい。
では、全員の身体検査が終わったので、早速野菜の収穫にまいりましょう!
【午前5:00】
こちらがエルフの里に住むフューリアさんです!
ピピーー!! 駄目です!
下がってください! はい、黄色い線まで下がって!
よし、いいです。ご協力ありがとうございます。
生のエルフに興奮するのは勝手ですが、ルールをキチンと守ってください。
フューリアさん、ごめんなさい。
では、野菜の収穫の説明をお願いします。
【午前5:10】
では、こちらの畑で『モキュモキュキューカンバー』という野菜を収穫しましょう!
フューリアさんは私の側から絶対に離れないでください。
どんな事があっても絶対に……では、お願いします。
うんうん、皆さん、きちんと……あっ!
ちょっと! 坂田さん! 松井さん!
どこに行くんですか?
あぁっ、もうっ! こうなったら……足枷モード発動!!
いかかです? 全然動けないでしょ?
これは我が社が作った参加者を拘束させるための靴です。
バスツアーに参加する前に着替えましたよね?
配られたジャージとスニーカーは私の脳内にあるマイクロチップと連動して暴走や逃走をしようとした参加者を止めさせる事ができるんです。
あ、脱がそうと思っても無駄ですよ。
それツアーが終わるまで脱げないようになっていますから……はい、大人しくなってくれて感謝します。
さぁ、皆さん、気を取り直して……野菜を収穫しましょーーう!!
楽しい♫ 楽しい♫
野菜の収穫♫
ほら、歌ってください!
楽しい♫ 楽しい♫
野菜の収穫♫
おっと、ここでエルフさん達からのサプライズで、ダンスを披露してくれるらしいですよ!
皆さん、食堂に向か……早いですね。
こういう時は急にやる気になるんですね。
【午前5:30】
では、収穫した野菜を食べながらダンスの観賞しましょう!
もちろん、生で食べてください。
前にキチンとした料理を出していたのですが、配膳する際に身体を触ったり、アーンしろとか駄々をこねる人がいたので、中止になりました。
皆さん、黙って食べてください。
では、双眼鏡渡しますねーー!!
これで丘の上で踊っているエルフさん達のダンスを楽しんでくださーーい!
もうなぜこんな事になっているのを言うのも面倒なので、文句言わずに従ってください!
【午前6:00】
いやーー、エルフさん達のダンス、最高でしたね!
では、最終目的地につくまでの間、異世界にあるお城や町並みの様子を観賞していただきます!
あ、皆さん、だいぶ素直になってくれて嬉しいです!
そういう方達が今後増えてくれたら制限も緩めますので、今は我慢してください!
【午前7:00】
では、最終目的地である温泉にやってきました!
ここでは……ちょっ、おーーーい!!
あぁ、観光客に手を出そうとしたり、暴飲暴食したり、やりたい放題ですね。
あの人達は温泉というだけではしゃいで……色々鬱憤も溜まっていたんでしょうね。
すごい、散り散りに逃げていきますね……まぁ、いいや。
私には最終奥義があるんで。
すぅ……『強制帰還モード』発動!!
【午前8:00】
はいっ! 現実に戻ってまいりました!
皆さん、楽しかったですか?
……無反応ですが、強制的に『楽しい』と解釈します!
では、この異世界観光日帰りバスツアー、以上となります!
またぜひご搭乗くださいませ!
では、各自着替えてからバスを降りてください。
それでは〜!