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『転生しても憑いてきます』#27

 だが、それは叶わなかった。
 僕が意識が薄れる寸前に誰かに抱きかかえられ、そのまま崖に戻ってきてしまったからだ。
 回復魔法の呪文が聞こえ、身体の全身の血液がドクドクと流れるのを感じ、瞼を動かせるようになった。
 目を開けてみると、カローナがいた。
「ね――」
 しかし、いきなり頬を叩かれてしまった。
「馬鹿!」
 カローナは僕の両肩をしっかり掴んだ。
 怒りで満ちた眼差しが、次第に歪んでいき、瞳から悲しみの雫が流れ落ちてきた。
「どうしてもっと自分を大切にしないの!?!」
 カローナの言葉に、僕は今にも途切れそうな声で言った。
「僕は……僕は……呪われた子だって」
「関係ない」
 カローナが震える手で僕を抱きしめた。
「血は繋がってなくても一緒に同じ家で暮らしてきたじゃない」
「でも、母さんもクーナもビーラもみんな……」
「あれはあなたのせいじゃない。運命だったのよ」
「運命?」
「そう」
 カローナはまた僕と目を合わせた。
「たとえ今が絶望のドン底だとしても、生きていれば奇跡は必ず起きるから。お願いだから、自分を嫌いにならないで」
 そう言って、また抱きしめた。
 身体は水に濡れて冷えているはずなのに、少しも寒く感じなかった。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
 僕も力強く姉を抱きしめた。
 カローナはヨシヨシと背中を撫でてくれた。
「シシシ!!」
 だが、この貴重な絆が深まっている時間をぶち壊すような奇怪な笑い声が聞こえた。
 その正体は分かっていた。
 僕が見つめる先に、おかっぱの怨霊が立っていたからだ。
「シシシ!!」
 ヤツは例のキツネ風ポーズをすると、周りにある雪を掻き集めた。
 背後から雪の冷気を感じたのか、カローナはすぐに僕から離れて、正面を向いた。
「な、何?!」
「姉さん、早く逃げよう!」
 僕は彼女の手を引こうとしたが、逆に掴まれてしまった。
「手、離さないで」
 そう言うのが聞こえたかと思えば、猛烈な勢いの風が僕の顔面に直撃した。
 カローナの脚の速さは尋常ではなかった。
 僕の魔法で雪が溶けているとはいえ、濡れて滑りそうになっている地面をものともせずに、猛ダッシュしていた。
 僕は脚を動きが間に合わず、所々フワッと浮かんでしまう事があった。
 これにヤツは驚いたのか、慌てた様子で雪玉を投げた。
 が、カローナは軽やかにかわしていた。
 今度は雪の壁が現れたが、猪突猛進ちょとつもうしんの如く突き破った。
 あられみたいに巨大な雪玉が次から次へと降ってきたが、全てかわしていった。
 僕は手を引かれながらカローナの身体能力の高さに驚いた。
 これが王国の歴史史上最年少で騎士団長、一領土の領主にまで出世した実力か。
 そんな事を思っていると、森を抜けた。
 すると、ピタリと雪玉が来なくなった。
 それを感じたのか、カローナは足を止めた。
「……大丈夫?」
 カローナは掴んでいた腕を指して言った。
「うん、平気だよ。ありがとう」
 本当は力強く掴まれていてかなり痛かったが、余計な心配をさせたくないので、黙っておく事にした。
「キシィイイイイイイ!!!」
 突然背後から耳をつんざくような叫びが聞こえた。
 明らかに鳥や獣の雄叫びでない事は分かった。
 恐らくヤツが全ての攻撃をかわされて、悔しがっているのだろう。
「……本当に大丈夫?」
 カローナは心配そうに聞いていた。
 やはり、彼女にはあの声は聞こえないらしい。
 僕は少しだけ口角を上げると、カローナは少し安心した顔を見せて歩き出した。
「でも、いきなり雪玉が出てくるなんて……魔物や魔術師の気配も感じなかったのに……」
 カローナがブツブツと独り言を言いながら歩くのを聞いて、思わず「怨霊がやったよ」と言いそうになったが、どうにか口をつぐんだ。

 その後は、ケーナのお店に寄ってスープを呑んで温めた後、屋敷に戻った。
 が、なぜか騎士達が何人か来ていた。
「団長!」
 騎士達は彼女を見るやいなや、すぐさま駆け寄ってきた。
「何があった?」
 カローナは途端に騎士団長の顔になり、部下の騎士に事情を聞いた。
 騎士の一人が青ざめた顔で言った。
「何者かが武器庫に潜入し、全ての武器を盗みました」
「はぁ?!」
 カローナが目を丸くしていた。
 それも無理はない。
 この領土にある武器庫は、万が一王都の武器庫が襲撃された用の予備として扱っていたからだ。
 具体的には、王都を護衛する兵士や騎士達が使う武器――剣や盾、槍、弓矢、火薬や毒薬、ポーション――などが所蔵されていた。
 持ち出されたら危険な武器もあるので、何重にも及ぶセキュリティーと24時間見張りを付けたりして、厳重に管理されていた。
 それを誰かが突破して全て盗み出したのだから、騎士団長が動揺するのは当たり前だった。
「まさか領民達の反乱?」
 カローナが血の気が引いた顔で聞いた。
「いえ、違います。犯行声明とも見られる紙が見つかったので……」
 騎士の一人が首を振って、彼女に一枚の紙を渡した。
 カローナは受け取って見るやいなや、落とすように手を離してしまった。
 僕はキャッチして、それを一目見た瞬間、なぜ彼女が瞬時に読むのを止めたのか、分かった。
 紙にはこう書かれていた。

『母とクーナを殺した人に報いを受けさせる。
 コナ』

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