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『転生しても憑いてきます』#53
「死ねかりゃあああぁぁぁぁぁ………」
コナの声が投げ棄てられたように遠ざかっていった。
ふといきなり身体に覆いかぶされた。
「うわっ!」
僕は反射的に跳ね除けるように起き上がると、首のない身体が力無く横たわっていた。
その近くに番兵が立っていた。
どうやら彼がコナの首をちょん切ったらしい。
「ありが――グッ!」
番兵にお礼を言おうと思ったが、首なし身体がひとりでに動き出し、僕の喉に掴みかかったのだ。
「ハハハハハハ!!! 死ねぇ!!」
遠くの方でコナの罵声が聞こえる。
僕はしがみついている上半身を力強く引き剥がそうとしたが、両手が通り抜けてしまい引き剥がせなかった。
番兵が絶妙な斧さばきで真っ二つにした事により、下半身が落ちた。
「排除」
番兵がそれを蹴飛ばした。
「グギュっ!」
命中したのか、コナが断末魔みたいな声を出していた。
番兵は続けて上半身も手掴みで取ると、ポーンと投げ棄てた。
(どうして、番兵は怨霊に触れる事ができるんだ?)
そんな疑問が浮かんでいたが、緊急事態である事を思い出し、慌てて走ろうとした。
「ぎゃあああああああああ!!!!」
が、背後から悲鳴にも近い叫びが聞こえてきた。
瞬時にジャーメラの研究室で聞いた時のと同じだったので、気になって振り返った。
バラバラになったコナの上半身と下半身が廊下に転がっていて、その向こうで誰かがコナの頭部を掴んでいた。
そいつは海外のアンティーク人形みたいな容姿をしていた。
黒いドレスにボタンがドクロになっていて、フリルの付いたカチューシャを付けていた。
ゴスロリというファッションスタイルだろうか。
顔立ちは他の怨霊に比べて、非常に綺麗に整っていた。
全ての部位が揃っていて、額からカーブを描くように縫った痕があった。
ゴスロリはコナの頭部を黒い手袋で掴んでいた。
「ご、ごごごごごめんなさい。ごめんなさい……」
コナは何故かゴスロリに怯えていた。
歯をガタガタ震えている姿は、先程までの僕に対する高圧的な態度とは正反対で、コナとそいつには上下関係があるように感じられた。
「ご、ごめんぶひゃっ!」
ゴスロリは無言でコナの頭部を掴んだまま地面に激突させた。
コナの額から血が流れていた。
「ゆ、ゆるじばぎゃっ! ぐじゃっ! べぎゃっ!」
半泣きになりながら許しをこうコナだったが、ゴスロリは容赦なく彼女の頭をボールみたいに何度もバウンドさせていた。
コナの顔は回数を重ねる度に崩れていき、ドンドン異様なものへと変形していった。
今のうちに逃げる事も出来たが、まるで金縛りにあったみたいに、姉の顔面が潰れていく様を見届けていた。
それは番兵も同じで、斧を構えたままジッとしていた。
コナの鼻は折れ、眼球がダランと飛び出てしまった。
ゴスロリはそこで止めて、だらしなく飛び出た目玉をもぎ取った。
すると、どこからともなくグレイ型の怨霊が五、六体整列して現れた。
見た目が少し違っていて、ゴスロリと同じように縫った痕がある他、メイドや執事の服装をしていた。
彼らの手には少し大きめの木箱を抱えていた。
ゴスロリは真ん中の木箱を開けた。
色んな種類の目玉が陳列されていて、奴はその中からカエルみたいな目玉と交換していた。
「や、やだああああああ!!!!」
すると、コナが急に狂ったように叫び出した。
切り離されたコナの肉体も急に動き出し、上半身は地面を這うように、下半身は立ち上がって走った。
こっちに向かっているので、番兵と僕は身構えた。
が、ゴスロリが何かを飛ばした。
赤い糸のようなものが急接近し、大きめの裁縫に使うような針がコナの脚と背中を貫通した。
漁師が船で撒いた網を回収するかのようにスルスルとゴスロリの元へと戻っていった。
「イヤ、いや、化け物の奴らと合体したくない!」
グチャグチャに潰れたコナが喚いていたが、ゴスロリはお構いなしに引き戻したコナの肉体から針を縫いた。
すると、鼻の欠けた怨霊が現れた。
奴は僕に襲い掛かる事はなく、大人しくしていた。
ゴスロリは目玉の箱を持ったグレイ型の怨霊の隣の箱を開けた。
そこには様々な鼻が並んでいた。
ゴスロリは魔女みたいな曲がり鼻を取り出すと、空っぽの穴にあてた。
「ヌイヌイヌイ……」
怨霊とは思えない可愛らしい声で赤い糸の付いた針を動かした。
『ヌイ』という言葉は呪文なのか、針が手を使わずに動き、鼻のない怨霊に魔女の鼻が縫われていた。
「あーーーーー」
魔女鼻の怨霊は嬉しそうに蜘蛛みたいな腕をワサワサ動かしていた。
「ヌイヌイヌイ……」
今度はコナの潰れた頭部を魔女鼻の怨霊の頭の隣に縫い付けた。
「あぁ……やだ……やだ」
コナはなお拒否していたが、ゴスロリは続けて切断された上半身と下半身を持ってきた。
執事の服を着たグレイ型の怨霊は、大きなハサミを奴に差し出していた。
ゴスロリはそれを受け取ると、まるでキッチンバサミで鶏肉を切りとるような感覚で、コナの手脚をちょん切ったのだ。
「ああぁぁぁぁ……」
悶えるように声を上げるコナ。
ゴスロリは容赦なく「ヌイヌイ」と言いながら魔女鼻の怨霊にコナの手脚を付けていた。
そして、頭が二つで八本の手脚の付いた異形の怪物が出来上がった。
ゴスロリはこの出来に満足したのか、ウンと頷いた。
メイド服を着たグレイ型の怨霊が今度は鞭を差し出していた。
ゴスロリは手に取り、奴の怪物めがけてパンッと鞭を叩いた。
「グオオオオオオオオ!!!!」
二又の怪物は咆哮して、無数の手脚で走り出した。
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