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『転生しても憑いてきます』#51
とにかく走った。
奴から距離を取らないと確実に死――と思っていた時、目の前に突然現れたものに慌てて脚を止めた。
キグルミの背中が見えたのだ。
そういえば、この無限廊下は一周グルリと回っているような構造だったっけ。
奴はそれを知ってか知らぬか、嘲るように笑っていた。
一、二歩下がって再び走り出す。
奴の姿が見えなくなった所で脚を止めた。
どうしよう。
何か策を見つけないと、体力が無駄に消耗して、鉈の餌食になるだけだ。
けど、周りにあるのはランタンだけ。
もし奴が体を通り抜けてこの校舎に来たとすれば、僕が脱出するのは不可能ということになる。
うーん、どうしよう……そうか。
ドアの時と同じように、火の魔法を使えば出られるんじゃないか。
そう思った僕は早速唱えてみた。
「ボラ!」
一発壁にあたった。
「ぎいああああああ!!!」
すると、どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。
やっぱり、そうか。
この調子で何度も――と思っていたが、背後から殺気がして振り返った。
「グヒヒヒヒ!!!」
キグルミが鉈を振り上げていた。
とっさにかわし、さっきと同じように地面に突き刺さった。
僕はまた走ろうとしたが、何かに躓き転んでしまった。
全身ボロボロのはずだが、生きたいという気持ちが強いからか、あまりダメージはなかった。
立ち上がってみると、何か落ちている事に気づいた。
これは……果物?
なんか見覚えがあるな。
あっ! そうか。
ケーナがお弁当に渡した果物だ。
三つあるという事は、僕の分のお弁当だ。
でも、なぜこんな所に?
入れていた鞄は教室に置いてきたはずだし、そもそも学園に来てから一回も鞄に触っていない。
僕が無意識に持ち出した?
いや、それはない。
うーん、どういうことだ?
頭がハテナでいっぱいだったが、キグルミが鉈を絨毯から離して襲い掛かってきたので、避ける事に専念した。
僕はとっさに落ちていた果実を投げた。
キグルミは見事にスパッと切る。
すると、夥しいくらい果汁が飛び出してきた。
「グヘァ!」
これに驚いたキグルミは少しだけ狼狽していた。
一体どんな果実かは知らないが、目くらましぐらいにはなるな――と思った僕は残りの二つも拾い、持ったまま走った。
「グオオオオオオオオ!!!!」
あの攻撃に怒ったのか、キグルミが雄叫びを上げた。
殺気が背後から迫ってきている。
僕を殺そうとしているのは間違いないが、いつの間にか奴の背後に立って振り返られてしまったら――と、最悪な未来が頭を過ぎった。
いや、気持ちを切り替えないと、本当に殺されてしまう。
そういえば、どうして床に果実なんか転がっていたのだろう。
教員の誰かがお弁当のデザートとして持ってきたのだろうか。
でも、どこから?
まさか天井から落ちてきた訳じゃないよね。
いや、ちょっとまって。
果物からどこから来たのかという疑問より、大事なことがあるじゃないか。
キグルミの怨霊が鉈で切った時に飛び出た果汁が目にあたって、悶絶していたことだ。
奴が苦しんでいたのは、単純にその果物が酸っぱかっらからか?
試しに一口かじってみるが、甘かった。
という事は、果汁の『汁』が重要なのではないだろうか。
そういえば僕は『怨霊は綺麗な水が苦手』という考察をしていた。
もしかして普通の『水』だけでなく、『液体』全般が弱点なのだろうか。
試しに振り返って、水の魔法の呪文を唱えてみる。
「ノラ!」
水鉄砲が奴の顔にかかるが、苦しむ様子は見られなかった。
奴が鉈を振り上げたので、再び走る。
うーん、魔法から出した水が平気で、果実は駄目なのか。
確か髪長の怨霊も水の魔法をかけても平気だったな。
もしかして、怨霊全般は光魔法以外の魔法は耐性があるのかもしれない。
逆に自然のもの(川や果実など)には耐性がない、つまり弱点なのではないだろうか。
そう考えると、やる事は一つ。
僕は全速力で走った。
チラッと見たが追いかける気配はなかった。
このままどうなるか、僕も奴もわかっている。
一か八かの大勝負だ。
予想通り、走り続けると奴の背中が見えてきた。
しかし、立ち止まらずに走った。
むしろさらに速度を上げた。
徐々に近づいていく無防備な背中。
それが罠だと分かっていても走った。
あぁ、心臓が痛い。
けど、やるしかない。
もう目と鼻の先――という所で、奴が振り返った。
「グヒヒヒヒヒヒ!!!」
奴は僕を愚か者と言うように嘲笑すると、鉈を横に構えた。
剣みたいにスパッと斬るつもりなのだろう。
だが、そうはさせない。
「うおおおおおおお!!!」
僕は雄叫びを上げながら二つの果実を奴の眼に目掛けて投げた。
「ガラッ! ガラッ!」
僕は魔法で二つの石ころを出現させた。
二つの小石は果実にあたった。
すると、皮が弱いのか、潰れてたちまち溢れんばかりの果汁が出てきた。
「グヒャオオオオオオオオオ!!!!」
それを至近距離で浴びたキグルミは鼓膜が破れるかと思うくらい大音声を上げた。
そして、眼がよく見えないのか、メチャクチャに鉈を振り始めた。
刃がランタンに当たり、蝋燭が絨毯に落ちる。
燃えやすい素材で出来ているのか、ドンドン大きくなっていき、規模も拡大していった。
僕はその炎から逃げるため、走った。
「熱い! 熱い! クソッ! 熱い!」
校内放送から奴の熱さに苦しむ声が漏れていた。
すると、さっきまでなかったドアを見つけた。
ガチャガチャとドアノブを回すが、開かなかった。
ならばと魔法で火にあたると、すんなり開いた。
「カーーーースぅううううううう……絶対に……絶対に……許さないからなぁあああああ!!!!」
校舎に自分の名前を言われてドキリとしたが、聞こえないフリをして、一切立ち止まらずにこの無限回廊から出た。
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