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『転生しても憑いてきます』#19

 それから大勢の騎士達による捜索が行われたが、怪しい人物を捕まえる事はできなかった。
 それもそうだ。
 だって、僕を襲ったのは怨霊なのだから。
 怨霊というと、あれは一体なんだったのだろう。
 目のないおかっぱ頭の怨霊――今までのとは容姿も攻撃の仕方も違っていた。
 物を浮遊させてるなんて、ヤツはしてこなかった。
 という事は、別の怨霊?
 でも、僕が前世で見た時のビデオにあんなのはいなかった。
 もしかして、ヤツが変化した姿なのだろうか。
 謎は深まるばかりだ。

 裁判後、僕らマークシャー家改め、カーメラー家は新たな地に引っ越す事になった。
 北の領地、カーメラーは非常に自然が多く、のどかだった。
 山々に囲まれ、牛や羊っぽい家畜が放牧されている光景を見ていると、心が穏やかになりそうだった。
 その土地をマロー……いや、カローナが新たな領主となった。
 また、彼女同様に他の姉達の名前も変わった。
 ミャーラはキャーラ。
 ムーナはクーナ。
 メローナはケーナ(何故か『ロ』はなくなった)。
 モナはコナ。
 けど、僕の名前は変わらずカース。
 どういう基準で名前が変更されるが、わからないけど、あんまり気にしない事にした。
 新天地には、すでに住民がいた。
 新参者の貴族を領民達は快く歓迎してくれた。
 この地で採れるブドウに似た果実で作られた酒とチーズとパンを愛している彼らの気性はおっとりとしていて、とても優しかった。
 だからと言ってダラダラ過ごしている訳ではない。
 鐘の音が始まるとしっかり仕事をし、日が暮れると皆仕事を切り上げて、酒場でどんちゃん騒ぎをするのが日常だった。
 そんな彼らにカローナは聖母のように接した。
 彼女はよく「王都にいる時も空気も人柄もいいから好き」と口癖のように呟いていた。
 その様子を見ていると心なしか、久しぶりに対面した時よりも角が取れ、幼少期の時に見た12歳の彼女が戻ってきたような気がした。
 ちなみに次女のキャーラと三女のクーナ、四女のケーナはまだ王都に住んでいた。
 クーナとケーナはまだ学園の生徒という事もあり、通学距離等を考えた結果、キャーラの家に住み込みで通うらしい。
 ちなみにキャーラはランタンドン学園の教員をしていて、たとえ爵位が剥奪されても手続きをすれば継続して勤務できるらしい。
 ケーナはいずれ学園に通う僕も一緒に住むように言われたが、カローナが即座に却下した。
 裁判所の襲撃を受けて、治安の良いカーメラーに住んでいた方が安心だし、騎士団長である自分がいるから何があってもすぐに駆けつける事ができるからだそうだ。
 ケーナは内心残念そうだったが、僕の身の安全を優先してくれた。
 代わりにコナがキャーラ達に付いていく事になった。
 僕はどうしてここまで距離を取りたがるのか理解できなかった。
 いつかまたあの頃のように接してくれるのを願った。
 
 カローナはこの地に騎士の養成所を作った。
 すると、領民達はぜひうちの子をと、続々と我が子を入所させた。
 僕もなかば強制的に入れさせられた。
 訓練はハードではあったが、訓練生が何か失敗をしてもカローナは叱責するなく、穏やかにアドバイス等をしていた。
 たぶんこの地の人柄に合わせた教育をしているのだろう。
 僕より歳上の青年は早くも訓練生のリーダーとなって僕みたいな未熟な者を指導していた。
 僕はビーラやコナのおかげで、そこそこ良い成績を取る事ができた。
 カローナは褒めていたが、僕はあまり嬉しくはなかった。
 騎士になってもヤツらを倒す事はできないのだから。

 三年の月日が経ち、僕は12歳になった。
 クーナ(20)がランタンドン学園の教員になったという知らせが入った。
 ちなみに王都に継続して住むとの事。
 コナ(16)は二年生になっていた。
 カローナ曰く、コナは卒業した後、変わらずキャーラとクーナと一緒に住むらしい。
 その話を聞いた僕は姉には話せて、弟には話さないという状況に胸がキュウとなった。
 ケーナ(18)は卒業後すぐにカーメラーに引っ越してきて、カフェをオープンした。
 この土地の乳製品や果実を使ったスイーツはたちまち若い子に受け、カフェは大繁盛した。
 僕はオープン前に一度ケーナの自信作であるチーズケーキを食べていた。
 濃厚な味わいがすぐに気に入った。
 素直に美味しいと感想を言うと、ケーナは嬉しそうにおしゃぶりをチュパチュパしていた。
 また夜は酒や料理が提供されるレストランに変わり、グルメな領民の舌を唸らせた。
 僕も一度食べた事があるが、本格的なスパイスを使ったハンバーグが美味だった。

 ちなみに怨霊はあの裁判所の襲撃以降、現れなかった。
 独りになっても一向に出てくる事はなかった。
 ヤツが出てきた時は24時間365日現れて、僕の命を狙ってきたはずなのに。
 本当に訳が分からない。
 けど、前世以来の独りで過ごす夜は快適だった。

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