『転生しても憑いてきます』#23
どうにか条件付きで屋敷に帰る事が出来た僕達は、早速家族会議を開いた。
いつもはカローナと貴重な団欒する食堂が、今日は重たくどんよりとした空気が充満していた。
細長いテーブルを正面から見て右側にカローナ、キャーラ、クーナ。
左側にケーナ、僕が座っていた。
皆、顔が沈んでいた。
「……大司教様の話は本当なの? クーナ」
カローナがこの状況に不釣り合いなほど穏やかに聞くと、クーナは少しだけ沈黙した後、小さく頷いた。
これに皆の顔がさらに暗くなった。
クーナの前には紙とペンが置かれていた。
彼女はそれを手に取り、何か書いた後、見せてきた。
『母から聞いた話ですが、母はセイレーン族の男と親しくなって一緒に寝て出来た子だそうです』
なんて事だ。
まさか、母が魔族と不倫していたとは。
これにカローナは「アイツ……」と舌打ちをした。
すると、キャーラがフゥと何か覚悟を決めた様子で息を吐くと、カローナの方を向いた。
「姉さん、この際だからムーナ……クーナが生まれた日のことを言いましょう」
「あぁ、そうだな」
カローナは一旦深呼吸してから口を開いた。
「ムーナが生まれた日、産声を上げた時、窓ガラスが割れたんだよ。
最初は窓が脆くなったのかなと思っていたけど、泣く度に家具が散乱したり物が壊れたりするから……これは変だなと思っていたが、まさか魔物の子だったとは……」
という事はつまり、あの大司教の言うとおり、魔物の子だったという事?
「じゃあ、クーナはどうなるんですか?」
僕がそう言うと、皆急に言葉を失ったみたいに黙ってしまった。
僕は察した。
処刑されるんだ。
「嫌です」
僕は口から溢れ出てしまった。
「嫌だ! もうこれ以上、家族を失いたくない!」
僕はもうこの場を一刻も早く出たい気持ちに駆られ、衝動的に食堂を飛び出した。
背後からカローナが僕を呼び止める声が聞こえたが、無視して走った。
かと言って、どこかに行くあてもなく、僕は自室にこもった。
その直後、背筋がゾクリとした。
上の方に気配がしたので、恐る恐る見上げると、髪の長いアイツが天井から首だけ出していた。
嘘だろ。
ビーラに殺られたんじゃなかったのかよ。
僕は外に出ようとしたが、ヌメっとした感覚が首に巻きつかれ、あっという間ベッドに叩きつけられてしまった。
動こうにも金縛りにあって、指すら動かせなかった。
ヤツは仕留めたと思ったのか、首だけだった姿が徐々に胴体をのぞかせ、最終的には五体満足で僕に覆い被さった。
「ケケケケ……」
無数のギザギザな歯を見せ、今にも噛みつきそうだった。
「シシシ!」
すると、またしても別の声が聞こえてきた。
ヤツが少しだけ移動し、目の無い怨霊が姿を現した。
「シシシ!」
ソイツはまたキツネ風の手のポーズをすると、近くに置かれていた花瓶が浮かんだ。
それが僕の目の前に止まる。
まさか、落とすじゃあないだろうな?
僕の不安を見透かしたように、二人の怨霊は気味悪い声で笑った。
目の無い怨霊が腕を振り飾ろうとした瞬間。
ドアをノックする音が聞こえてきた。
そして、ガチャっと開けて出てきたのは、クーナだった。
これを見た二人の怨霊は一瞬で消えた。
が、花瓶が落ちる事は変わらなかった。
「うわっ――!」
僕が避けようとした瞬間、パシっとクーナが受け止めてくれた。
クーナが『大丈夫?』と言っているかのように首を傾げてきた。
「あ、ありがとう……」
クーナと目があった。
見た目は完全に人間だった。
とても魔物みたいには思えない。
「さっきの話は本当?」
僕がそう聞くと、クーナはコクンと頷いた。
しかし、お互いにだんまりな状況が続いた。
どう話をしたらいいのか分からなかったからだ。
あれは怨霊がやった――なんていえば、ビーラの二の舞いになる。
悶々としているとと、クーナが突然窓の方に近づいて、ソッと指を撫でた。
外は冷えているのか、キュッと指の跡が出ていた。
そこに彼女は何か書き始めた。
僕はジッと見ていると、クーナが振り向いた。
『一緒に本を読んだよね』
突然何を話しているのか分からなかったが、小さい頃に図書室で読んだ時の事だと思い出し、頷いた。
「うん。色んな本を読んだよね」
すると、クーナはまた別の箇所で文字を書き始めた。
『楽しかった』
そして、その隣にはこう書かれていた。
『もっと一緒にいればよかった』
それを書いた後、なぜか僕の方に背中を向けてしまった。
何か文字を書く訳ではなく、立ったままだった。
でも、僕には分かっていた。
部屋の明かりで反射された窓には、涙を流しているクーナが写っていたからだ。
僕はたちまち胸が張り裂けそうになった。
とても苦しい思いをしているのは、間違いなく本人だ。
どうにかクーナを慰めてあげないかと思った僕は、彼女が酒場の時に歌った歌を思い出した。
「春がなれば〜♫」
僕が歌うや否や、クーナはバッと振り返った。
目が充血しているのは言うまでもなかった。
僕は音痴ながらも何とか最後まで歌った。
それが可笑しかったのか、クーナはクスッと笑っていた。
すると、また何か書き始めた。
『ありがとう。元気が出た』
そして、続けてこう書いた。
『あなたは私にとって最高の弟よ』
そして、いきなり頬にキスをした後、足早に部屋を出て行ってしまった。
僕は何がなんだか分からず、ジッとドアを見ていた。
しかし、背後から奴らが迫ってきたが、入れ替わるようにケーナが入ってきて、一緒に寝た事により、また襲われずに済んだ。
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