嘘つき
今思えば、あの子めちゃくちゃ嘘つきだったな。小さい頃よく遊んだあの子。
人気の漫画の最終回を知っているとか、毎朝あの美容院に行っているとか、今考えると全然嘘だったなということも私は何故だかどこか信じていた。私のそういうところに安心していたのか、はたまたカモと思われていたのかはわからないが、その子は私のことが大好きだったのだと思う。
当時そう思っていたというわけではないが、人が他人の気を引こうとしてつく嘘には微量の可愛らしさが混じっている。何故それを言おうと思ったのか、どう思われたかったのか。嘘と言っては仰々しいが、ちょっとした見栄ととるとその愛おしさも分かるのではないだろうか。自分だってそうで、つく必要もないような微妙な嘘を、嘘とも思わずに零している。あぁ、よく思われたい!カッコつけたい。君に少しでも私のことを考えてほしいよ。なんてね。
君にもあるでしょう。大好きなあの子に見栄を張ってしまったことや、なかなか言えない本当のこと。私はそれもちょっとは信じるし、愛してあげるよ。簡単にちょっとは救われちゃいなよ。今どき嘘くらいじゃあ地獄には落ちないよ。そんなふうに自分も言ってほしいのかもな。
SNSも繋がっていないし、いま何をしているのかもわからない、私の中では時間の止まった女の子。嘘をついたときの心の中を教えて。
この町では一番多い薄曇の日に、オレンジの看板の美容院の前を通るとふとあの子のことを思い出すのだった。