今宵吐く息は白いか
夜中。某チェーン店にて、珍しくイートインを選ぶ。席を見渡すと、(はっきりとは確認できないが)なんとなく以前少しだけ話して苦手に思った人が、同世代の友人らと座っているような様子が見える。そういった時の自分の視線の滑り方は尋常ではなく、本当に何も見ていないんだという目の動きとともに、渡された番号札に視線が戻る。迷いなく入口の一番近くのテーブルに座る。もちろん、件の人のグループには背を向けて。こういったチェーン店の限定メニューは大抵頼んで微妙な気持ちになるが、頼まずにもいられない。案の定味が濃すぎるなぁと思っているうちに食べ終えてしまう。なんとなく居づらいような気がしてしまい、セットで頼んだホットコーヒーはまだ半分残っていたけれど、それを持って席を立つ。トレイを返却するとき、再度そのグループの机をちらりと見た。
以前話した人だと思っていた人は、全く知らない別人だった。
滞在時間は約15分。その間の微妙な居づらい気分は、全て空虚であった。安心したような、悔しいような気がしてくる。というか別に、苦手な人が居ようが居まいが勝手に寛げばいいだろうがと、自分自身に怒りさえ湧いた。立ち上がった席に戻る気にもならず、そのまま飲みかけのコーヒーを片手に店を後にする。
なんとなく惨めだ。
結果として何も起きていないが、それ故に自分の矮小さというか卑屈さのようなものがより強調されている。車にそそくさと乗り込んで未だ温かいコーヒーを飲み、窓を開けて煙草に火をつける。
煙草を吸いながら、飲みたかったんだ、コーヒーを。そういうことにしよう。自分自身に対しても言い訳をする。ファストフードの食事ひとつでこの憂鬱。いや、憂鬱にも満たない滑稽な一人芝居だ。
ひんやりとした空気に吐き捨てた溜息はきっと白かったんだろうが、そんな情緒を感じる余裕すらない。ドンキで買った車用の灰皿は、こんな夜にも馬鹿みたいにピンク色に光っていた。