暇な趣味
8月に入ってようやく梅雨が明けた様子の北国。朝10時に「あっちぃ。」と言いながら起き上がる。部屋には昨日の晩に描き進めた油画のにおいが薄らと残っている。学生時代あんなにも不真面目で製作不精だったのに、いまはあの頃よりも絵を描くことが好きだ。
兎に角やれと言われると何もやる気が出ない学生生活だったが、やるべきことのある楽さに今になって気がつく。やる気なく課題をやっているだけで基本的な絵画技法を学べたり、色んな素材に触れる機会があったのだ。ただやっぱり課題に追われていると元々好きだった筈の絵も全く関心がなくなり、周りもみんな自分より絵が達者で、全く絵を描かなくなった。目の前には音楽があったり、友人たちがいたり、別に絵なんて暇なことする必要ないじゃん、とさえ思っていた。最近になってまた、少し暇になって、時々スケッチブックの空いているページに鉛筆で小さく絵を描いていた。
映画『ルックバック』を観た。わかりやすく影響された。というかもう、毎日絵ばっか描いていた時のことを突かれまくった。原作も以前読んだけれど映像のもつパワーはなんだかすごくて、なんのために描いてんだかもよくわかんねー顔の十字線とか、人体のパーツのある程度の決まりとか、そういうのに一生懸命になった中学生くらいの頃を思い出して、気絶しちゃいそうだった。高校時代も、人とあんまり話せなくなって絵ばっか描いて、美大志望が決まってからは毎日デッサン練習をして、自分って本当に絵下手だ、とか気がついた。左手の側面が真っ黒くなっている日々に疲れてしまったのか、折角美大に入ったのに自主制作はそれきりほぼしなくなった。理由は前述のとおり、挫折と誘惑だった。
しかしこんな初期衝動的なものを呼び起こされては、動かないわけにはいかなくなった。完全に影響受けていて草とか思う自分を、こういう些細なきっかけが大事なんだよと説き伏せてその足で足りない画材を買いに行った。兎に角好きなものを描き続けたあの頃の色々なものを思い出した。今はもう潰れちゃったけど、中学生の頃初めて入った画材屋。未だに持ち腐れている色鉛筆48本入。くすぐったくもなった。別に画家で生きていこうなんて気もないし、相変わらず暇だから描いていくだけなんだけど、それでもいいんだって気持ちになった。おんなじところを何度も描き直したり塗り直したりして、気がついたら時間が経っている感じは絵を描いている時にしかない。静かなのが好きだから、その時ばかりは音楽とか動画は何もかけない。懐かしい、懐かしい。かなり気持ちが豊かになった。疲れたらまたペースを落としたらいいし、これからものろのろと好きなものだけを描き続けよう。