変化するネットの誹謗中傷 ~対立煽りの手口~
フジテレビのテラスハウスに出ていたプロレスラーの木村花さんが誹謗中傷を苦に自殺して以降、匿名での誹謗中傷についての関心が高まった。
テラスハウスの一件は結果として何人かが逮捕された他、誹謗中傷に関する訴訟関連手続き(IP開示要求)が簡略化されるなど、一応国も動きを見せている。
しかし、法の目を掻い潜るように、ネットでの誹謗中傷の手法は変わりつつある。
誹謗中傷の変化
誹謗中傷の従来の手法は、標的に対して直接「死ねば?」「生きてる価値ないよ」などの誹謗中傷をぶつけて精神的なダメージを与える行為であった。しかしここ1年くらいで、標的を囲むファン全体に対して誹謗中傷とまでは言えないギリギリの言葉をぶつけて間接的にダメージ与える手法が主流になってきた。
ピンと来ない人もいると思うので具体例を挙げる。ある人物Aに対して間接的な誹謗中傷をしたい場合、誰に向かってでもなく「Aのファンとかきっしょw」「Aのファンがこんな酷いこと言ってました!」などととにかく拡散する。もしそれが広まってしまうと、Aについてよく知らない人がAに対してネガティブなイメージを持ち、結果としてAは嫌われてしまう。これが、最近主流の間接的な誹謗中傷である。
(実際の例1、赤塗り部分はファン名)
それって誹謗中傷か?と思う方もいると思うが、誹謗中傷とは根拠のない悪口を言いふらして、他人を傷つけること。であり、充分に成立していると考える。
この間接的な誹謗中傷を応用したのが本稿のメインテーマである対立煽りである。
対立煽り
あなたはこんなことを思ったことはないだろうか?
「○○のファンは民度が悪い」
「○○のファンは批判されるとキレる」
「○○は名前を出すとすぐファンが荒らしに来る」
これらを思ったことがあるあなたは、見事に対立煽りに踊らされている。
対立煽り自体は古来からアフィリエイトブログによって企業を標的にして頻繁に行われてきたが、不特定多数の人が人気のある個人を標的にして行われるようになってきている。目的はただの嫌がらせや自分の承認欲求を満たすためである。
具体的には以下のような方法で行われている。
①ツイッターなどSNSでAのファンを装って、Bのファンを批判する。
②先とは別のアカウントでBのファンを装って、AのファンがBのファンを批判していることを拡散する。
この結果、Aのファンは民度が悪いという風潮と、AのファンとBのファンは仲が悪いという構図が出来上がる。本人とファンの評判を同一視している人が多いためAはイメージが悪くなり、AとB本人達も気を遣う間柄になってしまう。
(実際の例2、原文は個人標的ではなかったがこういう具合である)
更に悪質な場合、
①Aのファンを装って、Bのファンを批判する。
②別のアカウントでBのファンを装って、Aのファンを批判する。
③さらに別のアカウントで中立を装って、AのファンとBのファンの喧嘩そのものを批判する。
この場合、イメージが悪くなるのはAとB、場合によってはその業界全体となる。想像しやすいように、このパターンについて現実的な例を以下に示す。
Foo👻オバケ推し@abcde
テング信者きもすぎ
どこにでも沸いてくるし完全にゴキブリ
ガラクタ👺テング推し@fghij
オバケ信者ってなんかあるとすぐ他人のせいにしてキレるよな
結局自分が悪い癖に責任転嫁しまくるとか民度悪すぎでドン引きだわ
幻想都市@klmno
オバケとテングのファンが喧嘩してるとかきっっっっっっっしょ
やっぱこどおじしかいないわあのコンテンツw
このように1人3役以上で対立を煽り、最終的には両方ともを貶す。
ここで大事なのは対立が発生しそうなタイミングで的確に煽ることである。(例えば鳩が飛んでしまったタイミングなど。このために普段からフォロワー数や視聴者数の数字でムシキングをしている人もいる。)何も火種が無いところに唐突に煙を上げてもなかなか相手にされない。静電気のようなほんの僅かな火花を見つけては偽物の煙を大量に作るのである。
対立煽りの証拠
対立煽りが指摘されると必ず「妄想乙」と返ってくる。ましてこちら側に標的のファンであるとみなせる証拠が少しでもあれば、「やっぱり○○ファンは糞w」と対立煽りを助長させてしまう。(ツイッターだと標的になっている人をフォローしている、いいね履歴があるだけでもアウト。)対立煽りは基本的にアカウントを分けて行われる以上、対立煽りをしている本人以外は基本的に証明する術がない。
ツイッターであるアカウントで誹謗中傷を行った場合、その人サブアカも凍結されるという措置を取られることが最近話題になった。まさしくツイッターでは、このように複数のアカウントを使って誹謗中傷しているケースが増え、対応が必要になってきていると思われる。
また、以下は配信中のチャット欄で発生した対立煽りを成敗した切り抜きである。
https://www.youtube.com/watch?v=93Nlk0kK9Ec
簡単に説明すると、加藤純一のファンと釈迦のファンを装って対立を煽っていたが、同一アカウントで行っていたため釈迦本人がログを遡ることで煽りが発覚し、該当アカウントに発言停止措置を取ったというものである。
対立煽りへの対策
このように素知らぬ顔で公然と行われている対立煽りに有効なのは1つだけ、無視することである。相手の神経を逆撫でしたい、みんなに構ってほしい、という心理で行うものであるため、怒ったり咎める発言でもしようものなら、対立煽りは大喜びでさらに煽りを激化させるだろう。飽きてどっか行くまで無視し続けるしかない。(結局どんな対応をとっても「効いてるw」と一方的な勝利宣言が発せられるのだが、反応があったかどうかで満足度は段違いだろう。)
1番良くないなのが、標的となっている本人が言及してしまうことである。「自分の推しマークを付けている人が誹謗中傷してるのを見て悲しくなりました。絶対にやめてください。」などと表明する方がいるが、その人は9割5分あなたのファンではない(ファン失格という意味ではなく)。あなたとあなたのファンの評判を下げようとしているだけである。むしろそうやって表明してしまうことで、「あそこのファンはそんなこともやってるのか…」と何も知らなかった人にまで対立煽りの存在を広めて、対立煽りを助長させてしまっている。
ツイッターなどのSNSだとブロックして無視すればいいが、こと配信中のチャットに関しては、対立煽りに占拠されると配信が成立しなくなるため、少し事情が異なってくる。もちろん無視が最も効果的なのだが、この場合、その場で見ている人全員が同時に無視をする必要がある。ファン側が1人でも反応したら対立煽りの勝利となるが、この1人でもというのが非常に厄介になる。というのも前述のとおり対立煽りは複数のアカウントを使って行われるものであるため、煽りとは別のアカウントが反応しているからといって別人が反応しているとは限らない。つまり、1アカウントでも反応したら、というわけではないのである。
配信のチャット欄では以下のアカウントで対立煽りが行われる。
・荒らしコメントを打つファンAを装ったアカウント
・荒らしに反応するコメントを打つファンBを装ったアカウント
・ファンAとファンBを批判するコメントを打つ中立を装ったアカウント
(ただし対立煽りが行われるのは配信者Bのチャット欄とは限らない。全く無関係の配信者のチャット欄で、ファンAとBの対立煽りが行われることも少なくない。)
この真ん中の荒らしに反応するアカウントが存在するというのが肝である。伝書鳩を例にとると、鳩連投と鳩反応連投の2種類のアカウントが存在する。
Foo【オバケ推し】 オバケがテングについて話してるよ!
ガラクタ【テング推し】 オバケ信者鳩やめて!
というようなコメントを連投する。ガラクタ【テング推し】までの反応であれば、結局反応しているのは対立煽りのみであるため問題ない。これに釣られて本当のファンまでもが反応してしまうと、対立煽りの勝利となってしまう。
【参考】
対立煽り側のタスクとして、煽っているときにどれが本当のファンの反応か見抜く必要があるが、それっぽいアカウントから反応があればそれで満足する。メンバーシップに入っているなど。ただし、本当のファンが反応していると見せかけるために自分でメンバーシップに入って対立煽りする者もいると思うので、メンバーシップに入っているからといって本当のファンとは限らない
荒らしを無視するというのは相当な忍耐力がいる行為だが、誰か1人でも反応してしまったら、それまでの我慢が無駄になってしまうため連鎖的に反応してしまいがちである。それを利用して、同じファンの中にいる我慢の限界に達した人という存在を作り出し、対立煽りを連鎖させていくのである。
さらに、その場に複数人の対立煽りがいた場合、1人が煽った瞬間、それに呼応するように他の対立煽りが一斉に反応し始める。その場面には全く無関係なのに、民度が悪いとされているファンとそれを批判するコメントが一瞬にして大量に沸いてきた、なんて状況に出くわした人も多いのではないだろうか。荒らしのアカウントも大量にあるのでブロックするだけでも相当時間がかかる。そんな状況でも、こいつらはただ対立煽りをしたいだけという感情を持ち続けられればよいのだが、相当な忍耐力が必要である。
アイコンや自己紹介などで誰かのファンだとすごく分かりやすくしていたり推しマークを付けている状態で、どこかのファンを延々と批判しているようなアカウントは、誰のファンでもなく対立煽りがしたいだけ、ということがネットにおける常識になれば多少は平和になるのではないだろうか。
法対応
これだけ悪質な行為でありながら、現在の法で取り締まろうと思っても、本人に対する直接的な誹謗中傷ではないため侮辱や名誉棄損には当たらない。営業妨害とか偽計業務妨害とかに当てはめることができないわけではないと思うが、具体的な被害額の算出なんてネットで活動している個人には到底不可能だろう。
つまり、先に述べた簡略化された訴訟手続きを踏んで個人を特定したところで、ほぼ意味がなく泣き寝入りするしかない。いま現在も野放しになっており、また、この執筆時点では何の対策も練られていないというのが現実である。
最後に
世の中には、月額550円の過疎掲示板を乗っ取ってまで誹謗中傷を繰り返す人がいる。また、過疎って各界隈のアンチだけが残って濃縮された結果、誹謗中傷動画しか投稿されてないのに何ら対策を打つ気がない動画投稿サイトもある。さらに、あえてIDを消して対立煽りし放題にしている掲示板もある。国を挙げてネット実名制にでもしない限り誹謗中傷なんてなくならない。自分や推しを誹謗中傷からどう守る必要があるか、今一度対策を考えてみるのも良いと思う。