【戯曲】余白
天使:羽をどっかに落としてきちゃったんだ。
もう、みんなの天使では居られない。
こんな私でも、人間のみんなに何かしてあげられるのかな。
流礼:天使ちゃんがいなかったらきっともっとつらくて、寂しくて、僕はきっと一人っ きりだったと思うし、まあ僕にはお母さんがいるから一人っきりとか天蓋孤独で は無いんだけどさ、そうなんだよね……。
天使:ん。
流礼:つまり天使ちゃんはね、僕にとっては、恩人っていうか、ヒーローなんだよ。
だ から……えっと……みんなの天使でいる必要は最初から無かったんじゃないかなって思う。
天使:えっへへ。そうかな。
流礼:でもね、僕はもう、精一杯頑張ったと思う……んだ。
こんな世界、今更生きようとか思えないんだ……。
天使ちゃん、僕、ものすごく頑張ったよね?
これから どう生きていけばいい。
天使:それなら、殺してあげる。
君はもう、自由に羽ばたいていいんだよ。
流礼:そういうと思った。
天使ちゃんは、優しいんだね。
こんな世界から解放させてく れるなんて。
それじゃあ……連れて行ってよ、君の元いた世界に。
君が『先生』と呼ぶ人と出 会った、 故郷に。
天使:私の故郷なんかに行ってどうするの?
流礼:君と君の先生のお墓を作って、毎日墓参りに行くよ。
天使:そっか、ありがとう。
先生:自由を知らない自由な鳥よ。
自由を手にしたかの鳥は、地上に堕ち、二度と空を 飛ぶことができなくなった。
それでも君は、生き方を改めたいと思うか。
人間への憧れ、それは翼を、そして自由を、手放すということだ。
天使:先生、自由とはなんですか。
先生:風に乗り、空高く舞い、自在に今を生きること。覇者であること。
そして、それ を知らないでいること。
私もかつては彼らと同じ、自由に空飛ぶ鳥だった。私のようにはなって欲しくな い。
自由を知らない自由な鳥よ。
夢幻に悩める君であれ。
天使:それでも私は、生きてみたいのです。
仲間たちからどんなに蔑まれようと。
先生、私の羽を切り落としてください。
天使:先生はね、私に色んなことを教えてくれたんだ。例えば、この星で生きること、その意味について。
先生は『有限の愛を知ることで、永遠の苦しみに囚われる』って言ってたけど、 私にはこの意味がよく分からないんだ。
君は何か分かる?
流礼:それはつまり、そうだなえっと……。
僕がさ、ほら、天使ちゃんに思ってるのと 一緒なんだよ。
だからさ好きになっちゃったものは仕方ないというか、えっとつ まりね、この星が、愛する人ともいつか離れ離れになってしまうことを罰とした 箱庭ってことなんじゃないかな。
へへえ、なんかかっこいいこと言っちゃった。そんな感じ、かな。
天使:うーん……。
やっぱ難しいや。
君は先生に似てるね。
流礼:でも、君の先生はもう消えちゃったんだろう?
僕はまだここに、君の目の前にいる。
ほら、愛して。
死ぬのが怖いなら、それを忘れるくらいに、愛して。
天使:死ぬことへの恐怖、とかは無いよ。
私は天使だから、この世界で死んでしまった ら最期、泡末となって消えるだけ。
それでも、今を生きようとする人、死にたい と嘆く人、価値ある何かに縋ろうとする人。みんなとても美しいよね。
お空にいたら気づけなかった。
地上にいられるのも長くてあと数年だろうな。
それでも、私はここに来て良かっ たと思ってる。
君たちに出会えて良かったと思ってる。
はぐれ者の私を受け入れてくれたことが、とても嬉しかった。
本当に、ありがとう。
私と一緒に生きてくれて、ありがとう。
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