面会禁止の病棟に入院した話3
手術が成功し一週間ほど入院生活をした後に自宅へ戻ってきた。体力が術前に比べると十分の一位に減ってしまった少しだけではあるがリハビリも兼ねて手術当日からの出来事を以下に記す。
不安で眠れなかったので、眠剤の力を借りて手術当日の朝になった。朝5時頃看護師さんがベッドの傍にやってきて採血をされ、手術着に着替えるよう指示された。また便を体外へ排出すべく、座薬を入れてもらった。前日に飲んでいた下剤の効果も相まってか、座薬を入れてから15分程で強烈な便意を催した。急いで大部屋の向かい側にあるお手洗いに駆け込んだ。すぐにでも排出したかったが、手術着を着ていたため、少し手間取った。なんとか態勢を整え一気に噴出しようとした。しかし出るものは出なかった。液が駄々洩れになっただけだった。腹痛が収まる気配はないがとりあえず液を出すという作業を繰り返していたら、水分を取ってよい時間帯を逃してしまった。これが術後の脱水症状に繋がった。家族や友人と念の為のお別れの挨拶をした。万が一困難を極めたら戻ってくる保証はなかったからだ。またこの時の自分は相当精神的に追い詰められていたと思う。夜更かし常習犯とはいえども、手術の10日前の診察から入院までまともな時間帯に寝起きすることはなく現実逃避の夜更かしばかりをしていた。何を考えても、術後の恐怖をイメージしてしまっていた。出すものを出した後、看護師さんに荷物一式を預け、手術室に向かった。途中家族とあってパネル越しに記念撮影と挨拶をした。病棟看護師さんと手術室に到着した。新人さんだったからか、他愛もない会話もすることなく手術台へ行き、病棟の看護師さんとお別れした。元気なオペ看護師さんと担当の外科医の人に麻酔の簡単な説明を受けた後、点滴をさしてもらった。段々と体内に麻酔が入っていく、意識があるうちは結構話していた記憶がある。ただ気が付かない内に意識が無くなった。そこから、だいたい6時間程手術だったらしい。手術後はICUに運ばれ、全身麻酔から目を覚ました。ただ身体中管だらけであったこと、痛みもそうとう酷かったことから、眠剤を点滴から投与されたようだった。麻酔から目を覚ました直後の看護師さんとの筆談が残っていて意識がちゃんと戻ってから読んでみたが解読困難であった。次に目が覚めたのは真夜中で筆談で水を飲みたいだとか、辛いだとか、今回の手術が複数回目であることを書いていた。そこから12時間以上も寝てきちんと目が覚めたのはオペをした次の日の13時過ぎであった。今自分がどういう状況であるのか、何日経ったのかというのを上手く飲み込むことができなくて怖くなった。身動きもほとんどとる事ができなった。うっすら筆談をしたことをしって頭の中がパニックになった。悪夢だと思っていた出来事が実際に起きていたのだから。よくよく考えると3日間くらいほとんどぶっ通しで寝ていたのだから仕方がないのだ。しかし術後の痛みは麻薬を使って和らげる事が多い。痛くなったらボタンを押して身体に投与するといった類のものである。前回の手術でこれを押しすぎて気持ち悪くなったので押さないようにしていたが、痛みに耐えきれず何回も押した。そして、寝たきりの体を電動ベッドや看護師さんの力を借りて起こした。味わったことが無いほどに、身体がグワングワンした。リハビリの人の力を借りて体重計に乗ることに成功した。しかし気持ち悪さが頂点に達し、戻してしまった。緑色の吐瀉物だった。吐いた後は少し落ち着いた。意識が安定して戻ってきたので、病院に用意してもらったiPadでZoom面会をした。家族はデジタル機器に疎いので心配したが何とか繋がって安堵した。デジタルネイティブなので背景を変えたり、フェードアウトして笑わせようとしたが、家族は自分の声を聴いただけで涙を流しそうな様子だった。意識を取り戻した事、リハビリで起立をしたこと、その時身体に刺さっていた管について話した。記念撮影をZoom経由で済ませ、すぐに退院をする事を宣言しオフラインへと戻っていった。ICUにデジタル機器を持ち込めない決まりになっているので、ノートの一ページに日記を書こうと思いペンを持った。しかし気持ち悪さや貧血のような症状が酷くて簡単な文しか書くことできなった。この時はどうやら、術前の下痢等が原因で脱水症状に陥っているようだった。