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“普通”なようでちょっと“普通”じゃないわたしたち

「あなたはさぁ、どういう経緯でわたしと結婚する気になったの?」

同じ質問を度々訊いてしまうのだけれど、その度に夫は面倒がらずに答えてくれる。

「一緒にいて自然体でいられたから」「きみが楽しそうにしてるのを見ていると自分も嬉しくなったから」等々。

そこでわたしは次の問いを投げかける。

「でもさぁ、わたしが子供産めないってのははじめから分かってたわけじゃない?」

普通なところその1:出会いは会社

同じ会社の内定者同士として夫と初めて会った時、夫もわたしもお互い違う人とお付き合いをしていた。

その後ほどなくして夫は当時お付き合いしていた人とお別れし、社会人になってすぐにわたしも当時の彼とお別れした。

彼とお別れするかどうか悩んでいる時に、将来の夫となる人だとは夢にも思わず、研修所の自販機前のスペースでめがねの同期男子をつかまえて

「もう6年も付き合ってるのよ!別れても今更新しい相手なんか見つけられる気もしないしわたしなんかと付き合ってくれる人がいる気もしないよ」
などと昼間から素面でクダを巻いていた。

何を血迷ったのか、そのめがねに向かって

「お互い30歳になっても独身だったらもう結婚しよ!ね!」

などと言い放って一人で勝手に納得したりしていた。そしてそんなことを言っておきながら、当時はめがねのことは全くタイプではなかった。

普通なところその2:お互いの誕生日に急接近する

同期が200人を超える大所帯の中、めがねとわたしは仲の良い同期グループの一員として一緒に遊びに行くことが多かった。

生誕四半世紀を1週間後に控えたある日、同期数名で晩ごはんを食べながら、わたしは同期たちにお願いをした。

「わたし来週誕生日なんだけど、一緒に過ごす人がいないんだよね。良かったら来週も一緒にごはん食べに行ってくれない?」

彼氏のいない誕生日が久しぶりすぎて、他に誕生日の過ごし方を知らなかった。
一緒にごはんを食べていた中には、いつも通りめがねの姿もあった。

誕生日当日のわたしを待っていたのは、その1週間の間にめがねをはじめとする同期たちが用意してくれたサプライズパーティーだった。

びっくりしすぎて、涙で化粧がすべて取れてしまった。

あとから分かったことだけれど、日ごろ他人に興味のないめがねがこの時はものすごく頑張ってくれていた(もちろん仕掛け人“たち”や、当日参加してくれた全ての同期・友人がいてくれてこその成功である)

さてその4日後は、めがねの誕生日である。

わたしのサプライズパーティーを仕掛けてくれた同期の一名が、めがねのサプライズパーティーも企画していて、わたしに声をかけてくれた。

「わたしもめがね君のために何かやりたいんだけど、やれることないかな」

そう尋ねると、彼は言った。

「じゃあかきざきさんはめがね君を晩ごはんに誘ってあげて。めがね君は誕生日当日は俺とごはんを食べるだけだと思ってる。だからかきざきさんが別でごはんに誘っておきながら当日パーティーにいたらあいつびっくりすると思うんよね」

そのくらい造作もないのでめがねをごはんに誘ったところ、なぜか誕生日翌日に本当にふたりでごはんに行くことになってしまった。

めがね誕生日当日のパーティーは楽しかった。

翌日、丸ビルでふたりでごはんを食べた。
食べながら、お互い
「前の人と付き合っていた期間が長すぎて今更あたらしく恋愛を始める方法が分からない」
「あの信頼関係の構築をまたゼロからやるのかと思うと気が滅入る」
「でも結婚はしたい」
というとりとめのない話をしたり、
合コンに行ってみたけれど全く何の収穫もないし気疲れだけして終わった、合コンは向いてない、
という報告をし合った。

帰り際に、めがねは

「30歳になってもお互い独身だったらほんとに結婚しよっか」

と笑いながら言ってきた。

わたしも笑いながらめがねに言った。

「わたし子供産めないからやめといたほうがいいよ。」

普通じゃないところその1:子供が産めない

先天性心疾患を持つわたしは、心臓の中にある弁をひとつ人工のものに変えている。
なかでも機械弁と呼ばれるそれは、一度取り付けると半永久的に機能してくれる代わりにワーファリンという抗凝血剤を飲み続ける必要があり、そして妊娠出産が原則不可能になる。

お付き合いだけならともかく、結婚するにおいて「子供が産めない」ことは大きなハードルになるというのがわたしの見立てだった。

正直、元彼とお別れする時に躊躇いがあったのも、このハードルを踏み倒してまでわたしと結婚してくれる人がのちのち現れるのかいまいち自信がなかったからだ。

自分が子供を産めない身体であることを将来の夫に告げたのは、なぜかふたりで晩ごはんを食べに行ったこの時が初めてだった。

けれど、この時にカジュアルに告げておいたからこそ、その後お付き合いする時になってもわたしの中には逆に無敵感があった。
男女の関係を発展させていくにあたり、一番大事なことをただの友人だったうちにスルっと伝えてしまっていたのだから。

普通なところその3:そこらへんにいる妙齢カップル

めがねとお付き合いするまでに至った経緯はとても平凡で、集団で遊んでいたのがいつのまにか2人で会うようになり、ある日ついにめがねが一人暮らしのわたしの家に上がり込んできて、しれっと終電を逃したというものだ。

お互い結婚願望があることは分かっていた。

ただし彼は健康優良児できょうだいも多い。結婚したら子供を複数人もつことを“普通”だと思っている、ごくごく“普通のひと”だ。

わたしのように、世の中の“普通”から逸れた人生を送ったことがなく、送るとも思ったことがないひとだ。

お付き合いをして1年が経った頃、わたしは彼に言った。

「わたしと結婚してくれるなら、結婚自体は急がなくていい。けれど、わたしと結婚する気がないなら早めに言って欲しい。わたしは結婚したいけれど、知っての通りハンデがある。次の人を探さないといけないなら、一日でも早く始めないといけない。」

本当はこの人と結婚出来たらいいなと思っていたけれど、彼は子供を持つ人生とわたしのいる人生を天秤にかけてどちらかを選ばないといけない。
その選択について口出しをする権利はわたしにはないと思った。
わたしには、わたしと一緒に過ごすことに価値を感じてくれることを祈ることしかできない。

彼は「分かっている。もう少し時間を欲しい」とだけ言った。

そして自分の中の“普通”と折り合いをつけた彼は、その数ヶ月後、旅行先でプロポーズをしてくれた。

彼は「幸せにする」「結婚して欲しい」とは言わない。
「幸せになろう」「結婚しよう」と言ってくれる人だった。

家族だけで海外挙式をし、職場の方からはたくさんのお祝いをいただき、友人を呼んでパーティーをした。

普通じゃないところその2:妻がひ弱

結婚してから、既に2回ほど入院した。
夫は会社を休んで救急外来まで付き添ってくれたり、残業後に入院先まで飲み物を買って持ってきて洗濯物を持って帰ってくれたりする。

この人と結婚して良かったなぁと心から思っている。夫も同じ気持ちでいてくれていることも感じる。

結論:普通だけど普通じゃない、ただの幸せ夫婦

夫に尋ねる。

「わたしが子供産めないってのははじめから分かってたわけじゃない?なんでわたしと結婚する気になったの?」

夫は答える。

確かに昔は結婚したら子供を持つのが普通だと思ってたけど。
でも仮にきみが健康体だったとして、結婚しても必ず子供が出来るとは限らないじゃない。不妊の人だって世の中にはたくさんいるんだし。
じゃあもし結婚してから不妊が分かったら離婚するんですか?って聞かれたら、俺はそれは違うと思った。
だったら初めから子供が産めないことが分かっていても、それって結婚しない理由にならなくない?って思ったんだよね。


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