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2019年10月・ハードモードな香港旅行記

【注意※こちらは「香港版iPhone〜完全ガイド」noteの無料部分:自己紹介の欄でチラッと触れた、2019年の香港民主化デモの真っただ中にiPhoneを入手した昔話となります。リアルタイムの話題ではございませんので、ご注意ください。】


…2019年10月18日夜、私は香港国際空港に降り立った。

着陸間際の飛行機の窓の外に広がる夜景は紛れもなく「東洋の真珠」の輝きだったが、到着ロビーに出たとたん、どこかピリリと張り詰めた空気が漂っているようにも思えた。

そう、この旅行はただの観光ではなく、2019年半ばから激化する香港民主化デモの最中にあって、放水銃や催涙弾が飛び交う「ハードモード」な香港を体感するものだった。


高揚感と不安が入り混じる中、空港からのシャトルバスに乗り込み、今夜の宿である空港近くの「香港スカイシティマリオット」へ。

車窓からは、以前空港が封鎖された時の名残を感じさせる、工事現場の脇に打ち捨てられたバリケードの数々が目に入った。
他にも空港で見かけた、スプレーで殴り書きされた抗議文、剥がれ落ちたポスター、そのどれもが、この街で起きている出来事の深刻さを物語っていた。


翌19日、今回の旅の目的の一つである「iPhone11」を入手すべく、尖沙咀のApple Storeを目指す。

しかし、その前に寄り道。
ホテルからのシャトルバスで地下鉄東涌(トンチョン)駅に降り立つと、そこはまるで先月までの激闘の爪痕が生々しい、戦場の跡地の様だった。

自動券売機は粉々に破壊され、鋭利な細かい破片が床に散らばり、あたりには火炎瓶の残骸のようなものが無造作に転がっている。

さかのぼること9月初旬、デモ隊の一部が空港へと続く主要道路や鉄道を封鎖し、空港ターミナルを包囲する事態が発生。
警察との衝突も相次ぎ、空港からほど近い東涌駅周辺でも、激しい破壊活動が行われたと聞いていたが、その傷跡は深く、生々しかった。

東涌駅そばのショッピングモール「シティゲートアウトレット」は、表向きは通常通り営業していたが、シャッターを閉じた店もあり、客の姿はまばらだった。

モール内にあるHSBC香港の支店で日本円の入金と事務手続き。
古いパスポートから先日更新したばかりの新しいパスポートへの登録情報変更を済ませる。
張り詰めた空気の中、銀行員はプロフェッショナルな対応で淡々と業務をこなし、少しだけ心が安らいだ。

ホテルに戻り、スマホでデモの状況をリアルタイムで確認する。

警察の動きやデモの状況を追跡できる
アプリ「HKmap.live」では
地図上のアイコンで状態がわかる

香港島側の金鐘(アドミラルティ)や湾仔(ワンチャイ)周辺で、パトカーが集まったり、警察とデモ隊との小規模な衝突が発生しているようだ。

刻一刻と変化する状況に緊張感が高まる中、今夜の宿を九龍側の「ザ・ミラ香港」にすることを決断。
荷物をまとめ、ホテルを後にした。

デモの影響で交通機関は一部混乱していたが、地下鉄を乗り継いで尖沙咀(チムサーチョイ)の「ザ・ミラ香港」に何とか到着。
扉を開けると、今までの緊迫した空気とは一変、スタイリッシュでラグジュアリーな空間が広がっていた。

チェックインを済ませ、一息ついた後、目的のApple Storeへ徒歩で向かうことにした。

目指すは、香港きっての繁華街・尖沙咀の西側にある廣東道(カントンロード)のApple Store。

Apple Canton Road

街は騒然としていたが、Apple Storeは別世界のように静かで、洗練された空間が広がっていた。
直前にピックアップ予約していたiPhone11を受け取る。
手にした時の高揚感は、これまでの苦労を一瞬で吹き飛ばすほどだった。

iPhone11と、別途購入したSuperdryのTシャツ
(商標権の関係で税関で没収される可能性のあるやつ)

iPhone11を手にした高揚感も束の間、数キロ先の旺角(モンコック)ではデモ隊と警察隊の衝突が発生しているようだった。
遠くに街を覆ううっすらとした煙が立ち上り、爆発音らしき音も鳴り聞こえる。
スマホからは、デモ隊と警察が衝突する現場の情報がリアルタイムで次々と流れてくる。
それでも、街行く人々はどこか冷静で、デモ隊と警察、それぞれの主張が各所でぶつかり合う異様な状況の中、複雑な感情を抱えながらも日常生活を送っているようにも見えた。

その日は、ホテル周辺を散策。
日本では見かけないショップの数々に胸が高鳴る。

台湾発のスイーツショップ「王子神谷」
ユニクロやGUに混じって
Superdryの店舗も

7月に香港に初上陸したという「ドン・キホーテ」も訪問。
店内はデモの混乱とは無縁の空間で、買い物客でごった返していた。
しかし、日本のディスカウントストアを想像していた私は、その姿に驚きを隠せない。
所狭しと並ぶ日本製品の数々。
生鮮食品コーナーには新鮮な日本産の果物や野菜が並び、精肉コーナーには高級そうな和牛肉が陳列されている。
まるで日本の高級スーパーマーケットにやってきたかのようだった。
香港の人々の旺盛な消費意欲と、日本製品への信頼の強さを改めて実感した。


翌20日、辺りはまだ薄暗い早朝にチェックアウト。
ホテルのフロントから、今日は尖沙咀で大規模なデモ行進が予定されていることを聞かされていた。

デモ参加を呼びかけるポスター

空港へ向かうためホテルを出ると、昨日までとはうって変わって、街は異様な静けさに包まれていた。
滞在中に封鎖された主要道路や、一部ストップしたバスやトラムなどの公共交通機関もあるようだ。
地下鉄や空港へ向かうエアポートエクスプレスは午前中は通常運航の予定だったが、不安を感じつつ駅までの道を歩く。
街は静まり返っているが、緊張感は最高潮に達していた。
落書きだらけの壁、バリケードの残骸、そして、重装備の警察官の姿。
まるで映画のワンシーンに迷い込んだかのようだった。
駅に着くと、普段通りの運行状況を確認できたため、安堵の胸を撫で下ろす。

空港は、パスポートを持たない人々の入場が制限され、入口には人溜まりができていた。
私は、パスポートと紙で印刷していた航空券の予約情報を見せ、どうにか空港内に入ることができた。
出国審査を終え、搭乗時間まで半日ほどラウンジで過ごした。

ラウンジの窓から見える滑走路には、普段と変わらず飛行機が次々と離着陸を繰り返していた。
搭乗時刻になり、飛行機に乗り込む。
帰りの飛行機から眺める香港は、穏やかな海と高層ビル群が織りなす美しい景色が広がっていた。
しかし、あの緊迫感、人々の怒号、ツンとくるような催涙弾の残り香は、私の心に深く刻まれていた。
それは、iPhone11の輝きとは対照的な、忘れがたい香港のもう一つの顔だった。


今回の香港旅行は、iPhone11を手に入れるという目的は達成できたものの、香港の複雑な社会情勢を目の当たりにする旅ともなった。
デモ隊、警察、そして日常生活を送る人々。
それぞれの立場や想いが交錯する中で、私はこの街の未来を案じずにはいられなかった。
この旅で見たこと、感じたことは、私の中で今も生き続けている。

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May-Chang
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