雪の音 闇の深きに雪舞へり
雪が降っています。
寒冷地に住んでいるので、雪は珍しくはありません。明日の午前中まで降り続くらしいので、しっかり積るでしょう。
いつもは車の音、電車の音が聞こえて、夜9時でも無音というわけにはいかないのですが、今日は静かです。
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昔、本だったか芝居だったか忘れてしまいましたが、「雪の音」について話している場面がありました。雪に閉じ込められた旅宿で、行きずりの二人が話しています。
老人「雪の音が聞こえるかい?」
若者「いや。雪に音があるのかい?」
老人「聞こえないなら、聞こえないさ」
こんなやりとりだったかと思います。
老人「何か背負いこんでいる顔だな?」
若者「そうみえるかい、忘れたいんだがね」
老人「忘れたいと思っているうちは、忘れられないさ」
何を忘れたいと思っているのでしょう。
気づかずに人を傷つけてしまったこと? 愛してくれた人を裏切ったこと?
いたたまれない思いを抱えて生きていて、どうにもならないときに忘れてしまいたいと思うのでしょう。
ないものをあると思えるか、あるものをないと思えるか。
解決できることではありません。
ずっと苦しみ抜いてようやく何も感じなくなるときに、忘れることができるのでしょう。
人間は忘れる能力を授かっています。
どんなに酷いこともいつか忘れさせてもらえます。ずっとずっと忘れたいと思っていたことを、ふいに思い出して驚くにちがいありません。忘れていたことに驚くのです。
だから、無心に耳を澄ませていればいつか、雪の音がきこえるのではないかと思います。
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タイトルの「雪の音 闇の深きに雪舞へり」について。
後半の「闇の深きに雪舞ヘリ」は「プレバト」の横尾渉さんの作品
「風やみて闇の深きに雪舞へり」から拝借しました。
すんなりとつながってくれて、まるで自分が詠んだかのような錯覚があります(笑)。すみません。
番組では夏井先生の添削が入り、最後の「舞へり」が「静か」に直されていました。風がないのなら雪は舞わないでしょうとのことですが、寒冷地の雪は軽いので風がなくても舞うのです。きっと横尾さんはそんな光景を詠んだのだと思います。