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母は独りで病院へ行った

以前、母が帯状疱疹で苦しんでいたときのことである。91歳になる母はアナフィラキシーの既往症があり、痛み止めを飲むことができない。

若いころから、薬の反応を恐れて風邪薬はおろか、ビタミン剤すら飲まない人だった。しかし、70歳を過ぎたころにパニック障害から鬱を発症し、さまざまな薬を飲まざるを得なくなった。だが、痛み止めは飲んでいなかった。

アナフィラキシーと一口に言うが、薬のどの成分に反応するのかがわかれば、安全に使える痛み止めもあるはずなのである。現に、50代のころに子宮筋腫で手術を受けているので、痛み止めも使ったはずである。

それでも、薬の反応で死ぬ思いを経験しているため、「痛い」くらいでは薬は使わない習慣になっていた。

「お母さんのアレルギーって、薬のどの成分に反応しているかがわかれば、痛み止め使えるはずだよ。手術のときにも使っているはずだし」

私は40年ほど母の元を離れていたので、母の暮らしの事情をあまり知らない。母は91歳の現在でも日常生活はすべて自分でこなせるし、病院へも一人で行く。冷蔵庫には次に通院する「日付と時間」を大きく書いた紙を貼っている。

通院に付きそうのを嫌がり、一人で行けるうちは一人で行かなくてはだめだと言う。

「痛み止めを飲むとね、30分から1時間くらいで、す~っと痛みが退いていくんだよ。先生に相談してみたらどうかな」

翌朝、母からlineが入った。母と私はマンションの違う階に住んでいるので、急がない連絡はlineだ。

「今日は病院に行ってきます(#^.^#)」

おや、元気になったのかな?老人が病院へ行くのは「調子の良い日」だもんね。

「行ってらっしゃーい!(^^)!」

しかし、母は痛み止めをもらうために、頑張って出かけて行ったのだった。私の「す~っと痛みが退く」という言葉を信じて。だが、持って帰ったのは漢方の痛み止め。

漢方薬は効かないわけではないけれど、何日も飲み続けてようやく効果が出るというものだ。漢方薬を処方した医師も、今まで痛み止めを飲んだことがない人に対して、西洋医学の痛み止めを出すのは躊躇われたのだろう。

母にとっては、体調の悪いときに病院へ行くのは一大事業だ。やっとの思いで診察室に入り、おそらく初めて「痛み止めが欲しい」と口にしたに違いない。その挙句、手にしたのが漢方薬だなんて。

私は自室で泣いてしまった。どれだけ痛かったのだろう。私、役に立たなくてごめんね。


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