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経理で叶えるタロットの夢 #6
幼い頃の記憶
一方で、SNSでの集客には着実に変化が見られた。占いコラムを毎週投稿することに加え、自身の学びをシェアするようにした。自分の成長過程をオープンにすることで、フォロワーからの共感を得ることができた。風香の素直な姿勢が、少しずつ信頼を集め、フォロワー数も増加し始めた。彼女の成長過程を見て、共感する人たちが増え、SNSのアカウントは徐々に活気を帯びてきた。馴染みの喫茶店での個人鑑定の申し込みも少しづつ増えていった。
その様子に風香は少しだけ安心感を覚え、このまま申し込みが増えてきたらもう一日、占いの館での仕事を減らしてみようか…と考え始めていた。
占いの館では空き時間には同僚とおしゃべりするのがやっとだが、家で待機する分には経理の勉強に充てられると考えたのだ。
まだまだ経理の壁を乗り越えるにはわからないことが多すぎる。具体的には何から始めたらいいのだろう…?考えても考えてもわからないことだらけだった。経理の難しさに直面し続ける中で、風香はふと一つの思いが湧いてきた。それは、もっと深いレベルで自分のビジネスを支える「力」を探し求めることだった。その力が見つかれば、経理もSNS集客もすべてがうまくいくのではないか?幼いころクライアントさんの事業を支えていたおじいちゃんの姿が思い出された。
その日の夜、風香はふと、幼い頃のことを思い出していた。風香はおばあちゃんっ子でいつもおばあちゃんと一緒に過ごしていた。おばあちゃんの家は、おじいちゃんが生前に経営していた税理士事務所があった場所で、今はひとりでその家に住んでいる。おじいちゃんが亡くなってからも、風香はよくその家に遊びに行き、あの古びた書斎に足を運んでいた。
おじいちゃんは、経理を「マジック経理」と呼び、数字の力で多くの会社の経営を立て直してきた。事務所の机には帳簿や計算機が並べられていて、風香にとってそれらは魔法の道具のように見えた。おじいちゃんが使うその道具が、なぜかすごく不思議で、数字を操る力を持っているように思えた。おじいちゃんは、どんなに困難な状況に陥った会社でも、あっという間に立て直し、経営者たちを驚かせていた。
「おじいちゃん、これなに?」と、幼い風香が尋ねると、おじいちゃんはにっこりと笑いながら答えた。
「これはね、数字の魔法を使って、会社を元気にするための道具なんだよ。経理の力を使えば、どんな問題でも解決できるんだ。」
風香はその言葉を聞いて、まるでおじいちゃんが本当に魔法使いであるかのように思えた。経理という言葉の響きは、風香にとってまるで秘密の扉を開ける鍵のように感じられた。その扉を開ければ、どんな問題も解決できる、そんな幻想に包まれていた。
小さい頃の風香は、よくおばあちゃんと一緒におじいちゃんの部屋で過ごしていた。おじいちゃんの机に座っては、帳簿を開き、計算機をカチャカチャと押して遊んでいる幼い風香の姿をおばあちゃんは嬉しそうに眺めていた。
おじいちゃんがたくさんの会社の経営を立て直してきた話は、幼いころから何度も聞いた。ある中小企業の経営が危機的な状況に陥ったとき、おじいちゃんはその会社の帳簿を一つ一つ見直し、問題点を洗い出していった。そして、おじいちゃんは「マジック経理」を使って、その会社の無駄な支出を削減し、適切な資金の流れを作り出した。最終的にその会社は再建され、経営者は感謝の言葉を述べて涙を流していたという。
「おじいちゃんは、経理を通して多くの人を助けてきたのよ」といつもおばあちゃんは話してくれる。そのたびに風香は「おじいちゃんみたいに、私も人を助けられるようになりたい。」と思っていた。
その思いはタロットというツールを使って叶っている…そう思ったとき風香にある思いが浮かんできた。
「もしかして、あの時のおじいちゃんの仕事が、経理の壁を乗り越えられるヒントになるかもしれない。」風香はそう考え、心の中で小さな希望の光が差し込んだ。
おばあちゃんの来訪
そんな時、風香の元に、おばあちゃんがやってきた。
おばあちゃんは相変わらず元気でやさしかった。風太と結に黒糖蒸しパンとキャラメルを持ってきてくれた。おばあちゃんの手作りだ。風太と結は大はしゃぎでキャラメルをほおばる!幼いころの風香はおばあちゃんのキャラメルが大好物だった。久しぶりに子どもたちと一緒に風香もキャラメルを口に入れてみた。懐かしい香りが口いっぱいにひろがった。
「おばあちゃん、このキャラメルの味、ちっとも変わらないね!おいしい」
風香はおばあちゃんに満面の笑みで話す。
「ふうちゃんが喜んでくれてよかったわ。この頃、ふうちゃんの元気がなさそうな気がして好きだったキャラメルと黒糖蒸しパンを作ってみたのよ!」
おばあちゃんはなんでもお見通しだ。
「ここのところ、仕事のことでいろいろ悩んでいるの。おじいちゃんが生きていてくれたら…たくさん相談したいことがあったのになぁ」風香はまた、幼いころのおじいちゃんとのやり取りを思い出していた。
「おじいさんに何を相談したかったんだい?」おばあちゃんに言われて風香は思わずおばあちゃんに事の顛末を話していた。
「そうなのかい。本当におじいちゃんが生きていたら風香の力になってくれただろうにねぇ。おじいちゃんはね,いつも経理初心者の方に領収書の整理と経理三行日記を教えてたっけねぇ」おばあちゃんは懐かしそうに言った。
「え?経理三行日記?」
「そうそう、今日どこでだれと何をしたっていう日記のことよ?それに加えてその日の領収書をまとめておくと後で見返した時に、どこに行ったのか。誰にあったのか。何に使ったのかがわかるでしょ?それが帳簿をつけるときに重要な資料になるってよく話してたわ」
おばあちゃんの来訪は風香に思わぬ安心感を与えた。もしかしたら経理も克服できるかもしれない!おじいちゃんの教え通りに経理の3行日記と領収書の整理を日課にしてみよう!
翌日、風香は早速近くの雑貨屋でノートを購入した。
◯月◯日
訪問場所:よろず商店
誰と:
何を:ノート購入
レシート1枚: よろず商店(ノート代)
こんな感じでいいのかな。風化の心のなかに広がった不安はまだまだ断ち切れそうになかった。おばあちゃんにもっとちゃんと聞いておけばよかった。
風香は少し後悔していた。
つづく