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経理で叶えるタロットの夢 #8
第3章「亡き祖父と帳簿の秘密」
祖父の精霊との再会を果たした翌日から、風香の中には新たな決意が芽生えていた。会計ソフトの操作を学び始めたことで、経理への恐怖心が少しずつ和らぎ、実際に数字を扱うことへの興味も湧いてきた。それでも、まだ経理という大きな壁を前に、完全に自信を持てたわけではなかった。
そんなある日、風香は祖父が使っていた古い帳簿が家に残されていることを思い出した。おばあちゃんに相談すると、「確か屋根裏にしまってあると思うよ」と教えてくれた。
風香はその帳簿に触れることで、祖父がどのように経理を通じて数々の会社を救ってきたのかがわかるのでは?と考え、その秘密を知りたいと思ったのだ。
風香はおばあちゃんの案内で、祖父が残した帳簿を探しに屋根裏部屋へ向かった。薄暗い屋根裏には、昔の家具や段ボールがぎっしり詰め込まれており、目当ての箱を見つけるのは骨が折れた。それでも風香は懸命に探し続け、ようやく一つの木箱を見つけた。埃を払って蓋を開けると、そこには祖父の懐かしい手書きの文字が目に飛び込んできた。一冊の分厚い帳簿には「K社 再建プロジェクト」と書かれており、さらにその下には「経理の魔法」という小さな文字が添えられていた。
「経理の魔法…?」風香はその言葉に引き込まれるように帳簿を開いた。
帳簿の中身をめくると、そこにはただの数字の羅列ではなく、カラフルなマーカーや丁寧な注釈がびっしりと書き込まれていた。売上や支出が表形式で記録されているだけでなく、特定の項目が色分けされていたり、グラフが挿入されていたりした。さらに、帳簿の中には祖父の書き込みがところどころに見られ、数字の裏にある物語が描かれていたのだ。
たとえば、「売上の推移」というページには、赤いラインで「売上が急激に減少した時期」が示され、その下には祖父のコメントがあった。
「この時期の原因→主力商品の競合出現による影響。新規商品投入が鍵。」
その横には、青いマーカーで「新規商品の売上増加時期」が明記されており、「プロモーション費用を集中させた結果、顧客層が拡大」というメモが添えられていた。
また、支出のページには、赤い星印がつけられた項目がいくつもあった。これらは「不要な固定費」として特定されたもので、「オフィスの賃貸契約更新を停止」「広告費のコスト見直し」など、具体的なアクションプランが書かれていた。そして、これらの改善の結果、どれだけの費用削減が達成されたのかが、明確に記録されていたのだ。
ノートには、祖父の経理に対する哲学が詳細に書かれていた。
「数字は嘘をつかない。だが、それをどう見るかで未来は変わる。経理はただの記録ではなく、事業の命を育む地図であり、経営者の羅針盤だ。」
また、別のページには、こうも書かれていた。
「経理を武器に変えるためには、単なる事実の羅列ではなく、そこにストーリーを見出すことが大切だ。」
祖父が遺した帳簿とノートを読むうちに、風香の中には次第に確信が生まれてきた。それは、経理を克服することが自分の夢の実現に繋がるだけでなく、自分の未来を切り拓くための最強のツールになるということだった。
祖父の「経理の魔法」は、単に数字を扱う技術だけではなく、未来を見通すための視点と工夫に満ちていた。それは風香にとって、未知の世界への扉を開く鍵となるのだった。これこそが求めていた『力』なのかもしれない…。
気が付いたらあたりはほの暗くなっていた。いけない!風太と結は保育園に預けたままだった。慌てて階下に降りて行った風香はそこでおばあちゃんにおやつを食べさせてもらっている風太と結に目を見張る。
「風太!結!どうして…?」
「あら、ふうちゃん。やっと気が付いたのね!私がお迎えに行きますよって声かけたのもわからなかった?あまりにも集中していたからねぇ。」
「それで?おじいちゃんの残した帳簿はふうちゃんの役にたちそうなのかい?」
「おばあちゃん、ありがとう。今びっくりしてあわてて降りてきたところだったの。風太、結よかったね!おばあちゃんがお迎に来てくれて…」
「うん!ママ帰り道におばあちゃんと公園に寄って結と三人で落ち葉拾ってたんだよ?落ち葉が黄色でとってもキレイだったよ。落ち葉のほかにも実も拾ったんだよ」
「今夜はふうちゃんの大好きな茶碗蒸し作るから、晩御飯たべていくかい?祐太さんは今夜も遅いんだろう?」
たしかにここのところ忙しい祐太はいつも帰りが終電だった。
「うん、おばあちゃん、ご飯いただいて行く。祐太は今夜も残業で夕飯もいらないって言ってたから。ね?風太・結おばあちゃんのところで晩御飯たべていこうね」
「わーい!ぼくお手伝いできるよ!おばあちゃん」
そういうと祐太はおばあちゃんの後を追って台所に行ってしまった。
結はおばあちゃんが出してくれた毛糸で編んだお人形がお気に入りらしい。一人でいい子に遊んでる。これならもう少し帳簿を見ていても大丈夫かもしれないと風香は屋根裏の帳簿を取りに行くことにした。
おばあちゃんは手際よく、焼き魚と肉じゃが、そして茶碗蒸しを出してくれた。
ご飯は雑穀米でほんのりピンク色。子どもたちも大喜びでたくさん食べた。
「おばあちゃん、やっぱりおじいちゃんの残した帳簿はすごかったよ!おじいちゃんって普通の税理士さんとは違ったんじゃない?」
「そうね。昔はそんな言葉もなかったけど…おじいちゃんはお客さんの会社の財政を見ながら経営のコンサルタントもしていたからね!経理がわかるからこそできるコンサルタント。お客さんにはずいぶん喜ばれていたわ」
おばあちゃんと話し込んでいるうちに子供たちが眠そうにしてきたので風香は家に帰ってお風呂に入れることにした。
おばあちゃんの家から風香の家までは歩いて10分の道のりだ。
子どもたちは眠い目をこすりながらそれでも満天の星空にはしゃいでいた。風香は今日一日を振り返りながら、持ち帰ったおじいちゃんの帳簿からどんなヒントが生まれるのかを考えてワクワクしていた。
つづく