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『経理で叶えるタロットの夢』#11
夢を語る未来への一歩
シンジの説明を聞いて、風香の中で仕訳帳の役割が少しずつ明確になり始めた。祖父が言っていた「物語を語る」という言葉も、ただの比喩ではなく、本当にビジネスの現在と未来を示すものだと実感できたのだ。
「シンジさん、今日はとても勉強になりました。仕訳のこと、もっと深く理解したくなりました。」
「それは良かった。風香さんのような人が、きっと経理を活用して素晴らしい未来を作れるんだと思うよ。頑張ってね。」シンジはエールを送るように微笑んだ。
その夜、風香はパソコンの画面に映る仕訳帳をじっと見つめていた。売上や経費、材料費や雑費など、細かい取引の記録が整然と並び、全体の流れを物語っている。仕訳帳を眺めながら、シンジの言葉を思い返す。「これが私のビジネスの物語…。この記録が、未来を形作る基盤なのかな。」その考えは、風香の胸に新しい希望を灯した。
ふと目の前のタロットカードに目が留まった。デッキを手に取り、カードをシャッフルしながら気持ちを落ち着けていく。「経理もタロットも、過去と現在を整理して未来を見通す道具なのかもしれない。」そんな思いが心に浮かんだ。風香は心を込めて問いかけた。
「私の夢は、本当に叶うのでしょうか?」
慎重に3枚のカードを引き、テーブルに並べた。中央のカードを見た瞬間、風香は思わず息を飲んだ。「星」のカードが現れたのだ。
「希望…未来の光…」風香はそのカードをじっと見つめた。占い師としてこのカードの意味を熟知している。星は、困難の中にあっても、信じ続けることで道が開けることを示す。カードに描かれた女性は穏やかな表情で水を汲み、大地と水辺に希望を注いでいる。その姿が、夢を育て続ける風香自身と重なるように思えた。「未来は輝いている。信じて進むことが大切なんだね。」風香は微笑んだ。
次に目を向けたのは左側のカード、「吊るされた男」だった。このカードは一見ネガティブに思えるが、実は深い学びと視点の転換を象徴している。
「停滞しているように見えるけど、これはただ足踏みしているわけじゃない。この時間は、物事を違う角度から見直すための時間なんだね。」風香は、自分がタロットと経理を学び直している今の状況がこのカードに重なると感じた。「焦らないで、もっと深く学んでいこう。」
最後に右側のカード、「女教皇」に目を向けた。カードに描かれた女性の姿は冷静で聡明で、神秘的な知恵を持つ存在だ。このカードは、直感と知識のバランスを大切にするようにと教えてくれる。
「感覚だけに頼るのではなく、理論やデータも活用することが大事。そして、その両方を統合する力を磨けってことなんだね。」風香はこのカードの意味に納得し、静かに頷いた。
3枚のカードが示したメッセージは、決して簡単な道を約束するものではなかった。しかし、それぞれが風香に必要な心構えを教えてくれているように感じられた。
「私の夢、ちゃんと叶うんだね。時間はかかるけど…それでも私は進める。」風香の目には新たな決意の光が宿った。
翌朝、風香は目覚めるとすぐにノートを開いた。そこには、これまで祖父から教わった経理の知識や、自分のビジネスについての考えがびっしりと書き込まれていた。改めてノートを開くと、新しい気づきが溢れ出す。「仕訳帳は過去と現在を見える化してくれる道具。タロットは未来への指針を示してくれる。どちらも未来を切り開くための道具なんだ。」
新しいページにペンを走らせる。「私が作りたいサロンはどんな場所だろう?」風香は、心に浮かぶ理想をひとつずつ書き出していく。「来てくれた人が、占いだけでなく、経理の知恵も持ち帰れるような場所。希望と現実の両方を繋げられる場所にしたい。」そんな具体的なイメージが湧いてきた。
夢は遠いものに思えるけれど、「星」のカードが教えてくれたように、希望を持ち続けていれば必ず道は開ける。「吊るされた男」の忍耐と学び、「星」の輝く希望、そして「女教皇」の知恵。数字に裏打ちされた現実と、タロットが示す未来のビジョン。その両方を手に、風香はこれから起こるであろう展開に胸を躍らせた。
つづく