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『経理で叶えるタロットの夢』♯12
仕訳の本当の意味
祖父は風香の入力した仕訳データをもとに、試算表を作る方法を実演してみせた。パソコンの画面に映し出されたのは、風香のビジネスにおける売上や費用、利益が一目でわかる試算表だ。その整然とした数字たちが、まるでひとつの物語を語っているかのように見えた。
「ほら、この試算表が完成した状態が、仕訳の物語の第一歩だ。」祖父は試算表を指さしながら言った。「ここから見えるのは、お前のビジネスの現状だ。そして、この現状をもとに未来をどう作るかを考えることができる。」
風香は画面をじっと見つめた。そこに並ぶ数字たちは、単なる記録に過ぎないと思っていたものだが、改めて見ると不思議な力を持っているように感じた。それぞれの数字が、収益やコスト、利益といったビジネスの全体像を語っている。風香の胸の中で、これまで漠然としていた経理の重要性が少しずつ形を成していくようだった。
「これが私のビジネスの姿…?」風香は小さくつぶやいた。ただの数字だと思っていたが、その背後にあるストーリーが垣間見えた気がする。
「そうだよ、風香。」祖父は柔らかい声で答えた。「仕訳帳は、ただの数字の羅列じゃない。過去の出来事を記録するだけのものでもない。仕訳帳に記された数字をつなぎ合わせて試算表を作ると、今の姿が見えてくる。そして、この姿をどう未来につなげていくかを考える。それが経理の本当の意味なんだ。」
「過去を記録するだけじゃなくて、未来を切り開く道具なんだね。」風香はポツリとつぶやきながら、画面の数字たちに新たな意味を見出し始めていた。
祖父は嬉しそうにうなずきながら続けた。「その通りだよ、風香。経理は魔法だ。数字に隠された物語を読み解く力を身につければ、どんな困難も乗り越えられるようになる。」
祖父の言葉に、風香の胸の中で小さな希望が芽生えた。経理は単なる事務作業だと思っていた自分が恥ずかしくなるほど、その奥深さと可能性に魅了されていた。そして、目の前にある試算表が、自分のビジネスの「今」を映し出す鏡であることが理解できるようになった。
「試算表を使えば、自分のビジネスが今どこに立っているのかが見えるんだね。」風香は呟くように言った。「それが分かれば、未来が少しずつ形になっていく気がする。」
祖父はその言葉に微笑みながら、「そうさ。その道具をどう使うかはお前次第だよ。」と穏やかに答えた。その言葉は、風香の中に自信と責任感を同時に芽生えさせた。
しばらくの沈黙の後、風香は急に立ち上がり、「おじいちゃん、私、夢を具体的に描いてみたの。」と話し始めた。
風香の夢は、タロット占いを軸にした癒しのサロンを開くことだった。タロットを通じて人々の悩みや不安を軽くし、心に希望を与える。そして、そのサロンでは、タロットだけでなく、経理やお金に関する知識を楽しく学べるような場も提供したいという思いがあった。多くの人が「数字が苦手」と感じている中で、風香は自分が学んだことを活かし、数字の持つ力を伝えたいと考えていた。
「このサロンを通じて、多くの人を幸せにしたい。悩んでいる人に寄り添いながら、未来を一緒に描ける場所にしたいの。」
風香の言葉には、以前にはなかった自信と情熱が溢れていた。祖父は静かに聞きながら、頷いていた。そして、風香が語り終えると優しい声で言った。「素晴らしい夢だね。きっと風香なら、そんなサロンを作れるよ。でも、そのためには具体的な計画が必要だ。数字の力を借りて、しっかり準備していこう。」
「具体的な計画…?」風香は首をかしげた。
「例えば、サロンを運営するための初期費用や、どれくらいの収益が必要か、どんな経費がかかるのか。それらを試算表を使ってシミュレーションしてみるんだ。」
祖父の言葉を聞いて、風香は目を輝かせた。これまで難しそうだと敬遠していた経理の作業が、夢を実現するための大切な道具であると実感できたからだ。
「分かった!まずは、自分の理想のサロンの形をもっと詳しく考えて、それを数字に落とし込んでみるね。」風香は自信に満ちた声で答えた。
祖父は頷き、「よし、それでいい。何か分からないことがあれば、いつでも聞きにおいで。」と優しく励ました。
夢を語り終えた風香に、祖父は少し考えるような仕草を見せた。そして、静かに口を開いた。
「その夢を現実にするために、ひとつ提案がある。」
「提案?」風香は驚いて祖父を見つめた。
「私の事務所を、占いのサロンに改装してみないか?ここなら、立地も悪くないし、昔から多くの人が訪れていた場所だ。お前の夢を叶えるための拠点として、最適だと思うが、どうだ?」
祖父の提案に、風香は言葉を失った。事務所は祖父が税理士として働いていた場所であり、家族にとっても思い入れの深い場所だ。それを自分のサロンとして使うなんて、考えたこともなかった。
「私が…おじいちゃんの事務所を?」風香は戸惑いながらも、どこか心が躍るような感覚を覚えていた。
「そうだよ。お前なら、あの場所を新しい形で活かすことができるはずだ。そして、ここでまた多くの人を助けることができる。」
風香はしばらく考え込んでいたが、やがて静かにうなずいた。「分かった。私、やってみる。おじいちゃんの場所を引き継いで、私の夢を形にするよ。」
祖父は満足げに微笑み、「そうと決まれば、具体的な計画を立てていこう。数字はこれからもお前の力になってくれる。」と言った。
つづく