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かずさ(カルマティックあげるよ ♯122)

ある離れた土地にある劇場へ映画を観に行った。正直なところ期待はずれな出来だった。わびしい気分で劇場を出ると外はすっかり日が暮れており、夜の闇が世界を包みこもうとしていた。

このまま電車に乗って帰るのもいまいち気が乗らない。せっかく知らない土地まで来たのだからちょっと探索でもしてみようと、劇場近くの歓楽街の中を歩いてみることにした。ここらへんは遊園地があって昼は観光客で賑わうのだが、夜になると途端に人気は少なくなる。そんな土地柄故か、歓楽街もなんだかどんよりと沈んだ場末感が漂う雰囲気で、古びた垢抜けない印象の店がいくつも並んでいる。

「ああ、やだなあ。こんなうらぶれたとこをうろついてたんじゃ、ますます気持ちが落ち込んじゃうよ。」

と憂鬱な気持ちで歩いていた僕の視界の中に、1つの看板が飛び込んできた。

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『歌えるスナック かずさ』

真っ赤な色のベタの上に女と男のイラストが描かれている。派手な色のチューブトップ姿にボリューミーなパーマをかけたいかにも「ザ・昭和」なルックスの女性がかずさだろうか。マイク片手に楽しそうに歌っているが隣の男の表情からしてとても歌唱力はなさそうだ。しかし男の表情もまたいい味を出している。

「あ〜〜逃げ出したくなるくらいヘタな歌だけど、嫌な表情してたらかずさちゃん傷ついちゃうからな〜。場も暗くなっちゃうしな〜。辛いけどなんとか笑顔で盛り上げなきゃな〜。」

という、「本当は心底不愉快なんだけど場の空気を守るため驚きと喜びをなんとか表現しようと努めている」人間の複雑な心境がうまく描かれた表情である。こんな哀愁と慈愛が混じった男の顔を描けるなんて、この看板を手がけた絵師さんは只者ではない。
ただ「歌えるスナック」と言っているわりに、どう見ても店員側であるかずさが歌っているのは広告としてどうなんだろう。客が歌っているシーンを描かないと意味がないのではないか?

看板を見た私は怖気付いてしまい結局この店に入ることはなかったが、同時になんだか不思議と晴れ晴れとした気分になってしまい、満たされた心で歓楽街を離れ帰路についた。今思えばこのゆるゆるな画風の看板がすさんでいた僕の心を癒してくれたのかもしれない。

かずさよ、ありがとう! でも歌唱力は磨いた方がいいぞ!

文章・写真:KOSSE

目次→https://note.mu/maybecucumbers/n/n99c3f3e24eb0


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