カーペットの下の秘密(カルマティックあげるよ ♯128)
コタツの上にはグリル鍋仕様のホットプレートが置かれていた。
「今から材料用意するから待っててね」
とトシは意気揚々に言って腰に前掛けをしめると、台所へと移動し扉を閉めた。
少しでも冷気が入らないようにとする心遣いを感じた。
その言葉に甘んじるように鍋の仕込みは、料理が得意なトシに一任するとして、私とコウダイはコタツでぬくぬくと待つことにする。
おしゃれなジャズが鳴り響き、優しい間接照明が包みこむトシの部屋。
私はコタツの温もりにまどろみ、コウダイは物思いにタバコをふかし、各々にリラックスしていた。
しかし、なかなか鍋がはじまらない状況にとうとうコウダイは
「トシおせーなぁ」
とぼやく。
それにつられて私も
「腹減った」
とつぶやき、横になった。
トントントン…ジャーッ…。
扉の向こうで、まだ包丁と水道の音がしている。
暇を持てあました私は、まどろみの中、意味もなく、何気なくコタツ敷きであるカーペットの角をペロンとめくってみせた。
すると、一瞬カーペットの下に何かが見えた気がした。
なんだろう?
確認のためもう一度、ペロンとめくってみる。
「こ、これは…」
「ん?どうしたエツ?」
「コウダイ!ちょっと、これみてよ!」
眠気が一気に飛んだ。
それは、一枚のエロ本の切り抜きであった。
さらにふたりは無言で相槌を打つとコタツをよいしょ!と移動してカーペットを大胆にめくってみる。
なんということでしょう!
このカーペット下を無駄なく使用する収納力は匠こだわりの技!
頭の中で劇的ビフォーアフターのナレーションが聞こえた気がした。
それはそれは強烈な光景だった。
カーペットの下にはエロ本のスクラップがぎっしりと綺麗に規則正しく敷き詰められていたのだった。
しかも、それらには統一性があることに私が気づく。
「警官モノばかりだ…」
「これはプロファイリングをする必要があるな…」
立ち上がって俯瞰で見ると、床がテカテカと青光りしていた。
それは、ミニスカポリスの青々しい衣装の反射であった。
こんなものが、今まで我々のケツの下にあったなんて想像を絶する。
それにしてもなんて猟奇的な保存方法だろうか?
買ったおそらくは拾ったエロ本から警官ものをみつけては切抜き、戦利品・記念品として長年収集していたのだろうか?
それを誰にも見られないようにカーペット下に封印していた…。
そして、そんなことを知りもしない私とコウダイをこの部屋に呼んで日々あざ笑っていたのかもしれない。
いや、ただの断熱材としての仕様なのかもしれない。
いずれにしても、人間の所業とは思えない。
変態の仕業である!
「いったい誰がなんのために…!?」
顎をに手をあてながら私がコナン風に問うと
「トシが、トシのためにだろ!」
とコウダイが笑いながら答えた。
幸い扉の奥にいるトシには、この会話が届いていないようだ。
私とコウダイは切り抜きを一枚だけ手元に残すと、原状復帰した。
ふたりは直接言葉は交わさなかったが、アイコンタクトでもうやることは決まっていた。
そんな中、包丁の音が止まった。
時は来たようだ。
ガチャリ。
「デデーン!時間かかってごめ〜ん。さぁ鍋を、始めよう〜」
とトシはカット野菜や肉の盛られた皿をコタツへと運んだ。
待ち遠しかった。
さぁ、いよいよ宴のはじまりだ。
「やったー!お疲れー!ところでトシ!」
「おぅ。エツなんだい?」
「これ、なに?」
私が高々と一枚のエロ本の一切れを掲げてみせる。
「あっ……」
時間が止まった。
そして、トシが震えながら口を開いた。
「いったい、なんなんだろ〜ね〜それ…」
声が裏返っていた。
ただならぬ動揺が走っているがわかる。
「なんなんだろ〜ね〜?じゃね〜だろ!」
と私が激しくツッコむともうトシは観念していた。
迷宮入りしてもおかしくはない難事件をひとつ解決したといえよう。
硬直するトシを横目に、優しい私とコウダイは静かにその切り抜きを丁寧にも元の場所に戻した。
そして何事もなかったかのようにグツグツと鍋を煮込みはじめた。
その後、幾度かトシの部屋を訪れカーペット下をコマめにチェックしたが、エロ本の切り抜きをみることは二度となかった。
文・挿絵:ETSU
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