ミョーチキリン日記_コセの場合_カバー

16の秋 (カルマティックあげるよ ♯15)

高校に入学した当時、ろくに絵心もない分際で絵描きの道を志そうとした私は晴れて美術部に入部した。
しかしそこは実質的に活動する部員が3学年合わせて10名も存在しない、男子校の弱小美術部だった。
部内の空気もゆるゆるで顧問も先輩も「下手でも自分の好きなもの描いたらええやん」といったおおらかな考えの持ち主だった。

そんないい加減なスタンスの部活でのらりくらりと過ごす私に襲いかかった試練が秋の美術展だった。
市内の高校の美術部に所属する学生がみな自身の作品を持ち寄り、市の公会堂を借りて合同で展示する。
そのことを知った私は、自分の絵が知らない他者に観てもらえる機会を与えられたことに興奮した。
今でこそSNSで自身の絵を世に披露している高校生はたくさんいるが、当時はそんな環境などなかった。
情熱に押された私は、夏休みも日々部室に通い、がんばって絵を完成させた。
それがこの作品である。


画像1



国会議事堂がたくさんのマンガチックなキャラクターに襲撃され、議員達が慌てふためきながら逃げているという構図である。
キャラクターは様々な既存のアニメや特撮を元ネタとして描いたのだが、今になって見ると明らかに著作権の面でアウトだろというキャラも存在する。
ここらへんは若さゆえの過ちとして内密にしていただきたい。
左上の大きな顔は議事堂を破壊するために宇宙からやってきた惑星という設定で、「妖星ゴラス」からヒントを得たと記憶している。

国会議事堂は実物の写真を見ながら当時の私なりにがんばって描いたつもりだが、ディティールの描写も甘く左右が傾いていたりと技術の無さは否めない。

なぜこんな絵を描こうと思ったのか?
はっきりとした理由は覚えていないのだが、自分の中で「人を驚かせるような、とにかくキッチュでエネルギーに満ちた絵を描きたい!」という欲求があったのは覚えている。
そこに頭の中で浮き出た様々な要素が結晶のように集まって、結果的にこんな絵になったのだと思う。
そんなに政治家のことが嫌いだったわけでもないし、議事堂を本気で破壊しようと思っていたわけでもない。
ただ、アニメや特撮が世の中では蔑まされた目で見られているなと感じていた。そこから彼らに逆襲をさせてあげたいという気持ちが湧き出て、絵に表れたのかもしれない。
ぼんやりとした記憶の輪郭を探っていくとそんな文章になるだろうか。

描いている光景は破壊的で物騒なものだが、所詮はマンガチックな表現を用いているので、攻撃性や残虐性は薄い。
むしろタッチの雑さも手伝って、コミカルな可笑しさが漂っていると思う。

当時作品を見てくれた周囲の反応だが、部内の皆はけっこう面白がってくれた。
展示の際に学生一人一人に対し作品のレビューをしてくれた他校の美術部の先生も、私の作品に対して「のびのびと自由に描いてますね。」とわりかし好意的な評価をしてくれた。
私は喜んだ。
しかし氏はレビューの最中は終始無表情だったし、本心ではどう思っていたのかはわからない。

展示の最中、こんなレクリエーションがあった。
参加した学生が鑑賞していて気になった他者の作品に対し、匿名で感想を書いたカードを専用の箱に入れるというものだ。
もちろん他校の学生の作品に対して投票してもOKである。箱は各作品の下に設置されており、描いた本人が後に回収にて自分で読むことができる。
私の絵にも数枚のカードが投票され、うち1枚にこう書かれていた。

「あなたのいいところは、描きたいものを描いているところだと思う。」

この言葉は今でも自身の表現において大切にしている。
所詮は技術が未熟な高校生が描いた絵だが、私にとっては当時の思い出と合わさって、とても大切な作品だ。
しかし大学に進学した後、この絵を友人のエツの家に置きっぱなしにし、近年まで放置していたことは内緒である。




文・絵:KOSSE
目次→https://note.com/maybecucumbers/n/n99c3f3e24eb0

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