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やかん

「ただいま」
しかしそれに返事するものはいない。

夜、私は一人暮らしのアパートに帰ってきた。
早く寝なければ。明日は夜勤だ。

昼から何も食べていなかった。
私は、カップ麺でも食べようと、こんな夜間にやかんでお湯を沸かす。
なんやかんやでストックしておいたカップ麺。
今日はお金を使わずに済んだ一日だった。

 やかんがピュウと鳴り、すぐに火を止める。
熱々のお湯を容器に注いで三分間。
その間に私は冷蔵庫の茹でたほうれん草が入ったタッパーを持ってくる。
「少しでも野菜を食べないと」
と、私は呟く。その言葉は私の祖母が昔、言ってた言葉そっくりそのものだった。

出来上がったカップ麺の蓋を開け、箸でほうれん草を熱いスープの中に浸す。
そうすると猫舌の私にちょうどいい温度になってくれるのだ。

 私はカップ麺を短時間で啜り上げ、つゆは半分だけ残して捨てた。

シャワーを浴びて歯磨きをして髪をよく乾かし、布団に入る。
お腹の中のカップ麺がまだ温かい。
明日はサラダも食べようかな、と私は眠りにつく。

 手探りの一人暮らし、なんとかやれているかな。
連休は実家に帰りたいな。愛犬の散歩もしたいな。
祖母のお墓参りにも行かなくては。

翌日、夜勤前にスーパーに買い出し行った。
私は、焼きそばの材料を買った。夕方のスーパーはとても混雑していた。
ヘトヘトになり、私はアパートに戻り、冷蔵庫に買ってきた品物を入れた。

 私は再びやかんでお湯を沸かす。会社でもらった、ハワイのお土産のお茶を淹れる。
しっかり色が出きった飴色のお茶に冷凍庫の氷を2個入れると、ボチャンと跳ねてテーブルを汚した。
 私は慌ててティッシュで拭き取り、テーブルの上を整えた。
ハワイのお茶はぬるく、太陽を浴びすぎたハワイの海を彷彿とさせた。
が、ハワイには行ったことがなかった。

 目を閉じると、私はハワイの海に浮き輪でぷかぷかと浮かんでいる。
いつか外国にも行ってみたいなと思った。
今の仕事をなんとかやってこう。そうすればハワイにも行けるんだから。
私にはたくさん夢がある。現実にしたい夢ばかりがある。

 私は会社へ向かって自転車を漕ぎ出した。ピュウと風が耳の横をかすめる。
がんばれ私。帰ったら今日は焼きそばの日。


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