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過去10年のデータから種牡馬を見る(芝競馬編)

おことわり:数値に修正が発生したため、前回の記事を取り下げました。


私は1999年よりJRAのデータを蓄積してさまざまに解析していますが、その中でずっと続けているのが

最初3ハロンのタイム ⇒(      )⇒ 上がり3ハロンのタイム

本によっては中間ラップなどと表記される、前半と後半の中間地点のタイムの調査です。私はIntermediateTime(中間タイム)と呼び、3ハロンに換算して計算しています。

速ければ強そう、というのがビビッドに分かる最初や上がりタイムと違い、中間タイムは「速ければ強いのか、遅ければ弱いのか」が判然としないものです。

スピード指数をやっている人間でも「中間タイムで能力を測定する」という人がいますが、私がスピード指数を過去30年以上(あ、言っちゃった)見てきた範囲においては

中間タイムは馬の能力を表さない


という結論に達しています。要するに「本来速くなるはずがないのに偶然速くなってしまっただけ」という立場です。スピード指数が芝の競馬において役立たない理由は「ラップタイムは偶然の産物」であるからです。

では何のために中間ラップを調べているか。

・最初3ハロンから中間ラップへのタイムの落ち込み(上昇)
・中間ラップから上がり3ハロンへのタイムの上昇(落ち込み)

この2つを判断するために資料を蓄積しているのです。それでは過去10年間の芝競馬におけるタイムを見てみましょう。勝ち数上位30頭分です。

2015~2025 芝1400m以上の競馬におけるラップタイム推移(勝ち数上位30頭)

序盤⇒中盤平均は「最初3ハロンから中間タイム平均3ハロンにかけてどれだけタイムが落ち込むか、を表しています。 ※タイムは以下すべて0.1秒単位です。

たとえばディープインパクトの-6.791という数値は、序盤から中盤で0.68秒「落ち込んでいる」ことを意味します。

中盤⇒終盤平均は「中間タイム平均3ハロンから上がり3ハロンへの上昇」を意味します。ディープインパクトは16.021なので、1.602秒速くなっていることを意味します。

ディープインパクトの勝ち数は他の馬と比べて3倍以上と圧倒的なため、これを事実上の平均値とし、そこから見た偏差値を「DI値」として記載しました。(注:第1回の数値とは計算が異なります)

<ハーツクライ>
序盤⇒中盤DI値:49.65 
(DI値50未満はディープインパクトよりタイムが落ちている)

中盤⇒終盤DI値:50.47 
(DI値50超はディープインパクトよりタイムが速くなっている)

距離DI値:52.71 
(DI値50超はディープインパクトより勝ち距離が長い)

ハーツクライはディープインパクトと比べるとごくわずかに中盤でラップを落とす傾向があり、少しペース配分で脆さがあることになります。

だが直線での伸びはディープインパクトを上回るもので、ドウデュースなどの差す競馬での強さを表しています。


<ハービンジャー>
序盤⇒中盤DI値:48.12 
(DI値49未満はディープインパクトよりタイムが大きく落ちている)

中盤⇒終盤DI値:48.64 
(DI値49未満はディープインパクトよりタイムが大きく落ちている)

距離DI値:52.64 
(DI値50超はディープインパクトより勝ち距離が長い)

ハービンジャーは序盤⇒中盤でのDI値が低く、中盤でかなりラップが緩まないと勝てないことを意味しています。その割には上がりタイムが決して速くないので、これだけだと中距離馬に見えます。だが平均勝ち距離がDI値52.64とディープインパクトを大きく上回るという不思議な数値。

要するに「ラップが緩み、しかもラストが遅い、さらに距離も長い」という楽な競馬でないと勝てない種牡馬であることを数値が証明してしまっているのです。

<キングカメハメハ>
序盤⇒中盤DI値:49.99 
中盤⇒終盤DI値:49.86 
距離DI値:51.85 

キングカメハメハに至っては距離以外の数値がほとんどDI値50で、つまり「少し距離が伸びて緩んだ競馬向きのディープインパクト」であることを意味しています。つまり数値で見ても非常に優秀な種牡馬です。

<ロードカナロア>
序盤⇒中盤DI値:50.66 
中盤⇒終盤DI値:47.85 
距離DI値:42.36

一目瞭然なのが距離DI値で、偏差値にして42。平均勝ち距離も1684m(注:1400m未満のレースは含まない)。つまりまったく距離が持たないという意味です。アーモンドアイなどの本格派を出すが例外と考えていいでしょう。

ポイントは序盤から中盤にかけてタイムの落ち込みが少ないこと。終盤にかけてはタイムの伸びが悪いので、これは「少し厳しめの流れのマイル向き」ということになるでしょう。 

<ルーラーシップ>
序盤⇒中盤DI値:50.55 
中盤⇒終盤DI値:49.25 
距離DI値:52.02

意外な数値が出たのがルーラーシップ。クラシック路線での走りを見る限りはディープインパクトと明確に差がある感じがしますが、数値で見るだけなら序盤から中盤、中盤から後半ともに遜色ない数値を出しており、さらに距離適性に至っては凌駕するレベルに達しています。

この計算方法は新馬戦からG1まで、芝1400m以上の全レースの平均で見ているので大きなレースでの適性が見えにくいのが難点ですが、それでも距離が長いレースではディープインパクトと同様の評価をして差し支えないということになります。

<ステイゴールド>
序盤⇒中盤DI値:51.54 
中盤⇒終盤DI値:49.39 
距離DI値:54.78

現役馬がいないため割愛しますが、ルーラーシップよりさらに長距離にシフトしつつもディープインパクトよりはるかに厳しいペースに強い優秀な種牡馬です。

<ダイワメジャー>
序盤⇒中盤DI値:51.88 
中盤⇒終盤DI値:44.42 
距離DI値:40.63

これは極めてはっきりした数値で、序盤から中盤にかけてはラップが落ち込まない、だが上がりタイムがまったく速くならない、そして距離適性が明らかに短いという「いかにもダイワメジャーらしい」数字が出ました。

いわばイメージ通りの種牡馬で、平均勝ち距離の短さからしても上がりが速くなるレースでは基本的に狙えないことを意味します。

<キズナ>
序盤⇒中盤DI値:48.45 
中盤⇒終盤DI値:49.35 
距離DI値:49.51

見てわかるのが序盤から中盤のラップの落ち込みです。ここでDI値が50未満になる馬はラップが緩んだ時にしか良さを発揮できないことになります。ハービンジャー同様、キズナ産駒の上位戦線での弱さを表す数値証拠と考えていいでしょう。

その割に上がりタイムもそこまで速くなく、距離適性もほぼ同一。簡単に言えば「G2までのディープインパクト」という評価になります。

<エピファネイア>
序盤⇒中盤DI値:49.22 
中盤⇒終盤DI値:49.77 
距離DI値:49.47

ダービー馬ダノンデサイル、オークス馬ステレンボッシュを出すなど絶好調のエピファネイアですが、数値で見る限りは「ほとんどディープインパクトと同様、ただし微妙に劣化版」という評価にならざるを得ません。

序盤から中盤の落ち込みの少なさが上位での強さを担保する形になっていますが、上がりタイムが速い種牡馬の産駒を相手にした場合に不安が残る数値と言えるでしょう。

<ドゥラメンテ>
序盤⇒中盤DI値:49.43 
中盤⇒終盤DI値:51.45 
距離DI値:51.71

面白い評価が出たのがドゥラメンテ。序盤から中盤にかけては普通ですが、中盤から上がりにかけてのタイム上昇幅がかなり高く、さらに距離適性でもディープインパクトを上回る結果となりました。

厳しいペースでもそれなりに耐え、なおかつ長い直線での勝負に強く、距離延長向き。すなわちクラシック戦線において極めて優秀な種牡馬であることが数値から証明されるのです。

<モーリス>
序盤⇒中盤DI値:51.12 
中盤⇒終盤DI値:46.91 
距離DI値:45.53

父がマイラーだったことからも、序盤から中盤への落ち込みが少ないレースで強いことは分かりやすく数値で出ています。逆に中盤から上がりにかけて速くなるようなレースでは良さを発揮できないことも分かります。

距離適性も極めてマイル寄りにシフトしており、要するに「距離延長して上がりタイムが速くなるレースはまったくダメ」と理解していいでしょう。つまり桜花賞以外のクラシックでは全く用がない種牡馬です。


今回は上位12頭の種牡馬について、数値から芝レースでの内容を解析してみました。ほぼイメージ通りだった馬もいれば意外な適性が見えた馬もいた、というのが私の見解です。

なお下位を見ていくとキタサンブラック産駒が「速いペースが得意な中距離ランナータイプ」という、イクイノックスを基準に考えると意外な数値が出ていることが分かります。

だがイクイノックス以外は距離が伸びて強くないのも確かで、特にダービーに向けてクロワデュノールの評価をする際に参考になると思います。

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浜栗之助
「競馬最強の法則」にて血統理論記事を短期連載しておりました。血統の世界は日々世代を変えてゆくものだけに、常に新しい視点で旧来のやり方にとらわれない発想をお伝えしたいと思います。