高倉さん家の雑談(2) 落語について
これは劇作家の高倉麻耶とその夫Y.G(わいじー)の他愛もない雑談をメモしたものです。少々勝手な決めつけや独断偏見の類は笑い飛ばしてください。なお、今回は試験的に対談形式としてみました。戯曲のように楽しむのもアリです。
落語について
・一般の人が落語に意識して触れる機会はあるのか?
夫:私は40歳越えるまで、「聴いたぞ」と意識したことはない。
妻:はいゆう寄席(※1)を知るまで、一度も聴いたことはなかった。
夫:そうだったの? けっこう最近の話じゃん。
妻:そうなんです。演劇の技術向上のために落語を勉強しようという。
夫:そんな妻に連れられて落語を知ったんだ、私(笑)
妻:一般の人だと、うちの父は落語好きよ。
夫:「一般の人」を定義しなければ。古今亭志ん朝さん、三遊亭円楽さん、立川談志さんなどのブーム以降の人。50歳以下で。(生まれ年が)1970年代以降の人たちね。
・落語にアンテナを張ってない人はどこで知るのか?
夫:テレビタレントだと思う。あとはラジオか雑誌。YouTubeのコラボとか。私は今、立川こしらさんに興味を持っているけど、それは登龍亭獅篭さんのYouTubeに出てたから知った。最初は、仲のいい知り合いの兄ちゃんなのかと(笑)。やはりきっかけがないと知ることはできない。それも、まだ噺家を知っただけであって、その人の落語を聴いたわけではない。
妻:身近に演芸場があるかどうかは大事じゃないかな?
夫:「身近」の意味が違うと思うんだ。大須演芸場とか円頓寺レピリエは、距離的には身近だけれども、地域のメインストリートにあるわけじゃない。つまり、万人が目にするわけではない。大阪の吉本は商店街の中にある。大須演芸場は、買い物客の視界に入らない。メインストリートを歩いていて視界に入り口がないのは「身近」ではない。噺家は見てても、落語を聴くわけじゃない。上方の噺家も江戸の噺家も、テレビで観てもその人の落語をしてる姿を観ているわけじゃないし。
妻:笑点ね。
夫:どうやって落語を知るんだろう。我々は、ある意味クチコミだった。
妻:演劇で言うと、知られているのは劇団四季ぐらい。
夫:円頓寺のナゴヤ座は、商店街を歩くと絶対前を通るからわかる。練り歩きや路上ライブもやるし。
妻:あそこは名古屋山三郎さんが座長でプロモーションしてるから。
夫:演劇に興味ない私でも「面白そう」って思う。
妻:コロナでやられた感はあるけど。
夫:まとめると、落語ってそれぐらい、触れる機会がない。表通りでやらないかんと思う。
妻:生じゃないと、演劇も落語も面白さが伝わらない。テレビやネットでは難しい。お笑い、コントと違って、刺激がドミノ倒しのように続けては来ないから、面白いところに来るまで15分、20分と待たなきゃいけない。
夫:「勘定板」はドミノ倒しだよ。
妻:あんなネタはそうそうないわ(笑)。
夫:まあ、そもそも触れる機会がないよね。三亀司さん(※3)が以前に大須の路上でライブをされていた様子がYouTubeに出てる。落語ではないけど、路上で人は止まる。しかも、登龍亭獅篭さんが司会をしてた。最強の組み合わせだと思う。瀬戸銀座商店街でもやってた。生で見た人は興味が湧くと思う。
妻:うちの父は落語好きだけど、いったん落語好きになった人が落語を離れるということはそうそう無いと思う。だけど、落語ファンの高年齢化は著しい。演劇はまだ若い人来るけど、大須演芸場に40代より前の若い人はほとんどいない。
・落語とYouTube
妻:YouTubeは仏壇になりうる。
夫:いきなりどうした。
妻:仏壇とか神棚は、家の中にお墓じゃ神社のかわりにアクセスポイントをつくるということ。現代でいうとその役割はYouTube。YouTubeで落語流すしかないかな。
夫:なるほど。ちょっと昔の考え方なんだけど、マーケティングの用語で「4P」「4C」というのがある。4Pは、Product(製品)、Price(価格)、Place(場所・流通)、Promotion(プロモーション)。それに対応した4CがCustomer Value(価値)、Customer Cost(支出)、Convenience(利便性)、Communication(コミュニケーション)。それでいくと、仏壇の話はPlaceが既存の墓より近いってことだね。
妻:ネット環境さえあれば無料だし。
夫:ただ、それだとプロモーションやコミュニケーションにならないんだよね。
妻:コロナのことがあってから、東京の若手の噺家が、YouTubeで無料で高座を流した。いい実験だったと思うし、話題にもなったよ。
・落語に触れる機会を作る
夫:4Cに近いんだけど、提供側がユーザーに触れさせないと始まらない。コンテンツとしてね。マスコミに出る人は、有名な人だと桂米助(ヨネスケ)さん。でも、彼は落語家だと思われてないかもしれない。
妻:もっと有名な人でいうと、笑福亭鶴瓶さんとかね。
夫:テレビで観て、その人たちの落語を聴きに行こうと思わないんじゃないかな。無理くりでも、まずは落語を聴かせなきゃいけない。三亀司さんの路上ライブの動画を観たときに、海演隊(※4)のライブはすごいと思った。ナゴヤ座と同じで、存在を知らしめることができる。お金は入らないけど、お客さんを捕まえられる。ナゴヤ座を真似るなら、大須演芸場だったら、手前の交差点の角っこの、カステラかなんか焼いてる屋台のところで前座の噺が聴けたら興味持つかも。大きな画面で前座の噺を流すとか。
妻:プロのチンドン屋を雇うという手もアリでは。
夫:落語聴かせられないし。聴かせるが目的だからね。まず、ゼロ幕をやる。「道灌」(※5)は無しで。「つる」とか「一目上がり」とか。太鼓と笛はCDで流すとか。
妻:許可が要るんじゃない?
夫:商店街の?
妻:警察とかの。
夫:それはあるかもしれないけど、とにかく生の落語を無理やりでも聴かせることが重要。繰り返されることで、行きやすくなる。生の落語を聴いてもらうために、演芸場へ行ってもらう。そのために落語を聴いてもらわないといけない。①タダで、②今ここで、③落語家が来てくれるってのは、消費者にとっては、時間以外のなにも痛手がない。「なんだろう」ってまず思わせる。
妻:どっちがいいんだろう。若い人か、年いってる人か。
夫:年いってる人だと、若い人からしたら遠い存在になってしまう。もし、ヒゲダン(※6)が同じ声、同じ歌だとして、メンバー全員50歳以上だったら、流行るか?
妻:ヨアソビが八代亜紀の姿だったらどうだろうか…。そう考えると、けっこう前座ってキーマンだよね。
夫:名古屋だったら、登龍亭獅鉄さん・登龍亭篭二さんをきっかけに演芸場来て、柳家三亀司さん・旭堂左南陵さん・旭堂鱗林さんを知ってもらうとか、登龍亭獅篭さん・幸福さん・福三さんを知ってもらうこともできる。前座の二人見てすごいなと思って、演芸場行ってみたらもっとすごい人がいるって感じで。
妻:落語って、クローズドなスペースでやると集中力もつけど、オープンなスペースでは気が散って面白くないかもよ。
・時間と行きやすさの問題
妻:路上ライブが常態化すると、人は興味をひかれなくなるのでは?
夫:逆にタダだから集まるのでは?
妻:みんなスマホでパシャパシャ画像撮ったり、動画撮ったりするかな。
夫:それはそれでよさそう。
妻:お金を払って落語を聴こうという人は、どういう人なんだろう?
夫:興味を持った人は、観る習慣の人。演芸場は消費者にとって、「3時間消費させられる場所」。3千円払って3時間。予定をあけなきゃいけない。1時間ならまだ行くかも。
妻:お酒を飲むようなところで、小さな高座をやってくれるお店が増えたらいいなあ。
夫:結局、商品としての落語は「面白い話」「泣ける話」「クオリティの高さ」。1時間2千円とかの価格で行きやすいなら、そうしたほうがいい。
妻:白鳥庭園とかでやってる寄席は、若い人対象ではないけど、まさにそれ。
夫:流通が目の前だからいいよね。コミュニケーションであり、プロモーションであり。
妻:行きやすいよね。
夫:大須、円頓寺での寄席はメインストリートから離れてて、Place、Convenienceが弱い。大須なら手前の交差点でやればめちゃくちゃ近くなる。Communication、Promotionもすごく良くなる。
妻:ウィンナーの試食販売やね。
夫:お客さんはお財布痛まないし、ウィンナー買いたくなる。1時間から2時間くらいだったら買ってくれる気はする。前座さんが演芸場に帰ってこれないとか問題はありそう。
・良し悪し
妻:寄席の時間が長いことの良さと悪さがある気がする。
夫:それは落語知ってる人間のスタンスじゃないかな。
妻:ディナーがふつうだと思ってる人にランチは物足りないでしょうねっていう。
夫:試食で来た人にいきなりディナーっていうのは違うかも。ランチだったら行こうかなって人に演芸場の時間は長い。
妻:短い昼と長い夜みたいな?
夫:短いのは、続けて観るか単発で観るか…朝イチ逃したら朝ニで行けるようにするとか。
妻:安く、お目当ての演者だけを観るとかになると、人気がある人とない人がはっきりしてしまうな…。
夫:落語ファンを増やすのが目的だから。一人の客を捕まえられれば十分価値はある。
・人はいかにして落語に興味を持つか
妻:どうやって、人は落語に興味を持つんだろう? ちりとてちんとか落語心中とか? ドラマだったりアニメだったり?
夫:「愛していると言ってくれ」というドラマが昔あって、手話がブームになった。みんなそのときテレビで手話を見たから。
妻:トヨエツがカッコよかったからでは(笑)。
夫:そうそう。トヨエツが手話をやったから、みんな興味をもった。タイガーアンドドラゴンとか、落語をそこで見たから落語に興味が湧く。結局それも試食販売。タイガーアンドドラゴンで長瀬智也さんを見る、ドラマを見るという買い物。そのときに落語という試食があった。
妻:登龍亭獅鉄さんも、登龍亭篭二さんも若くてイケメンだからいいよね。
夫:路上ライブは重要な気がするな。大須演芸場は、東西名古屋3つの落語家が見られる。メインは落語協会と上方落語協会だけど、落語芸術協会と落語立川流と五代目円楽一門会は、定席寄席では見れなくても、企画としてはある。恵まれていると思う。いわば、「時そば」「時きしめん」「時うどん」がひとつの箱で聴けるということ。なかなかない。立川流の流れ、江戸落語、名古屋で作った噺を持ってる登龍亭さんがいるのも良いよね。
妻:名古屋が文化のスープになってる。
夫:登龍亭獅篭さん、登龍亭幸福さんが名古屋に来なかったら、始まらないことだったよね。
妻:結果論だけどね。
夫:そうね。100年経ったときに、当事者も、その時代を知ってる人もいないけど、二人の若者が落語を続けようとして、名古屋の落語家の最後のひとり、雷門小福さんという人と出会って、弟弟子ができて、自分自身も弟子をとって、名古屋だけの亭号も持って、って考えたら、やっぱり二人は偉大だと思う。
妻:ドラマチックだしね。
夫:それがなかったら大須演芸場の枠も、それこそ大須演芸場自体も、どうなっていたかわからないかもよ。
・大須演芸場の立地
夫:今やれるのは路上試食販売だと思うな。
妻:大須は、土地的には恵まれてるよね。若い人来るから。
夫:オタク文化もファッションもあるし、寺とか年寄りコンテンツもある。
妻:多国籍グルメも。
夫:実際そうではないけど、たとえばブラジルの向かいに韓国とフィリピンがあって、イスラムの隣にきしめん。そのお店の流れの中に演芸場がないというのが問題。どんづまりにいるから。
妻:演芸場のまわりを逆に発展させるとか?
夫:上前津側じゃないからなあ。上前津は、栄と繋がってる。あと、万松寺のエリアが発展した。上前津側の方がアーケード多い。移転すればいいのに。
妻:私はまだYouTube推しだけど。
夫:YouTubeも立地の話で、どうやってそこに誘導するか。受動的ではないので、最初の一歩になりにくい。落語好きになるまでたどり着かない。ナゴヤ座はすごいと思ってる。通りすがってるお客に寸劇かけてくる。離れてる客に近づいてくる。山三郎さんが偉大。箱に入ってもらって初めての客を、箱の外に行って捕まえてくる。大須演芸場も、「入ってくれれば…」という姿勢ではなくて、商店街の中で、おそいかかってくる落語にしたらどうだろう(笑)。
妻:こわいわ(笑)。「落語について」というより、「大須演芸場について」だね、今回は。
(2021年5月30日)
【脚注】
※1:はいゆう寄席:名古屋の俳優ら演劇関係者が、「落語は究極の一人芝居だ」をスローガンに、演技技術の向上を目指して落語の高座を体験する企画。登龍亭福三さんが指導にあたっている。高倉麻耶は「ぱずる亭まあや」として、この「はいゆう寄席」に二度出演している。
※2:関ジャム:テレビ朝日制作の音楽番組。古田新太、関ジャニ∞が出演している。
※3:三亀司さん:柳家三亀司さん。江戸曲独楽・獅子舞のほか、「よしおかつかさ」名義で司会や腹話術・漫談なども行う。
※4:海演隊:東「海」地区に「演」芸を広めるために結成された、伝統芸能の応援「隊」。登龍亭獅篭さん、講談師の旭堂鱗林さん、江戸曲独楽の柳家三亀司さんなどがメンバーになっている。
※5:道灌(どうかん):江戸発祥の落語。若手が鍛錬のために演じる、いわゆる「前座噺」のひとつ。話が小難しく面白さが伝わりにくい。他の前座噺としては、「つる」「一目上がり」などがある。そちらはわかりやすい。
※6:ヒゲダン:Official髭男dismという日本の四人組バンド。平均年齢30歳。
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