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【議事録】2023年度第6回真山ゼミ 「戦前最大の民間企業にして戦時統制経済の担い手旧・三井物産と太平洋戦争下の日本経済」
今回のゼミのテーマ
今回のゼミでは、商社に焦点を当てた学生の発表をもとに、戦前史を扱いました。
事前課題
発表者(ゼミ生)が作成した、日本の商社に関する資料を読んでくること。
商社の歴史 真山ゼミ事前課題.pdf
議論の進め方
7、9、10月の各回とも、最初に担当のゼミ生数名が調べた内容をもとに発表を行い、それを踏まえて議論する形式にする予定です。
ゼミ生の発表
総合商社は日本にしかない。
三井物産は今も昔も人気就職先。
日露戦争後日本の貿易額の2割を扱った。
仕入れと販売の両方を押さえた1930年代、
日中戦争からは戦時統制経済を支えた。
軍需物資の輸入をしてバリューチェーンに食い込む。
外貨獲得の輸出製品ができなくなった。
三井財閥総帥の池田が大蔵大臣に就任。
第二次世界大戦が勃発すると、三井物産も統制経済に関わる。
1941年に、在米日本資産を凍結された。
商社マンは戦前もすごい待遇を受けていた。
1944年まで収益は伸びていた!純利益は1942年以降落ちていく。これは占領地が拡大したため。
敗戦後三井物産はGHQにより徹底的に分割された。
先生からのコメント、議論
前回も言ったが、ちゃんと伝わっていないかもしれない。なぜ戦前の昭和史?歴史での最低限の事実、構図も皆さんは分かってはいるはず。
今起きていることは突然変異して生じたわけではない。
戦争に関する歴史は、重要な観点が抜け落ちている。日本だけ遅れて帝国主義をやり始めて、第一次世界大戦後に列強に並んだと思いがちだが、そんなわけはない。(その点は中国に似ている)
1つの商社の歴史から何を学んだのか。三井物産が戦争の中でどうのし上がってきたのかというだけではなく、その当時日本がどう戦争を起こし、中国、南に進出していったのかを知るべき。
三井物産がつぶした鈴木商店にも言及が必要。三井物産は政商であり、単に御用聞きだった。鈴木商店は唯一海外で商売ができていたが、国内でつぶしてしまった。
三井物産は商売しかないが、三菱は重工もある。戦争に必要な重工業は川崎と三菱が全部作っていた。
日本は政治と軍事力で蹂躙してきた。商社はむしろ振り回されてきた。財界と政府の現在の関係を見ても民間が民間でない。
統計で社会を見るのは、そうとう経緯がわからないとできない。戦時中の統計ほど良い加減なものがない。
普通の経済史だけで語られると、戦争の視点が抜けてしまっている。国側の実態がわからないと統制経済が何を意味するのかわからないのでは。統制経済のつけを国民が払っていた。
財閥解体しているのになぜ商社は復活しているのか。とにかくアメリカは軍事的な要素をつぶしたかった。工場の中にある戦闘機、民間旅客機も許さなかった。
しかし、日本との戦争で全然儲からなかったアメリカ。そこで、日本を復活させて甘い汁を吸おうとし、戦前の財閥よりも強くなったグループ会社ができた。
三井物産の当時の問題点と課題は何だと思うか?
Cさん
利益が落ちていったことでは?
先生
そもそも当時儲かっていた会社はないのでは?
Cさん
日本の本社から海外支店に人を送り出していったが、これによって本社で人材不足が起き、女性が活用されたところは面白かった。
先生
海外に健康な男性がいたのは兵士として送られていたともとれるのではないか。女性が活用されたというより国内に男性がいなかったとみるべきではないか。
Dさん
ABCD包囲網の中で、日本国民のために物資を調達しないといけない状況があったこと自体が驚き。今のインフレよりもヤバい状況。ここで、どんな風に対処したのか。
Cさん
最初は中近東、次いで、東南アジアと物物交換していった。
日本国内からは雑貨やタバコを輸出。
先生
そもそも中東は全てヨーロッパ、アメリカの植民地。物物交換は闇ルート。満州アヘンスクワッドは誇張もあるが日本人が忘れてはいけない漫画。
日本の最大の輸出物資はアヘン。
最初は満州で綿花や食物を作ろうとしたが、極寒の中簡単に農業はできなかった。
円ブロックでは共産党と国民党が組んでと関東軍の南下を止めようとした様な事も起きていた。三井はやばいことでもなんでもいいからやれと言われていたはず。
先生
戦争をすると国(日本やヨーロッパ)が痩せる。その一方で強くなったのがアメリカ。
Hさん
事前課題にあったことについて質問。バリューチェーンがリーマンショック時代になって出てきたとあったが、これまでになかったのはどうしてか。
先生
一連のバリューチェーンは70年代くらいからできてきたが、それは日本に資源が何もないから。加工貿易をせざるをえない。メーカーがそれをやると大変だから、入口と出口を総合商社がやるようになった。再編されたグループ会社の中に、それぞれ自動車会社などがあった。
メーカーが、商社に手数料をなぜ払わないといけないのか、と言い出し、1990年代に商社の勢いは落ちた。最近商社が元気を取り戻したのは、銀行の代わりにリスクをとって最新のファイナンスをするようになったから。
Iさん
日露戦争で、ロシア革命を支えた明石さんという日本人がいた。そういう日本人が出ていれば良かった。
先生
高橋是清がアメリカに行って戦費を調達している。その時にお金を貸してくれたユダヤ人がいた。
戦前は優秀なスパイ組織がたくさんいた。日本が好きじゃなくても、交渉により日本に協力すると得すると納得させられる交渉力があった。しかし、なぜか教科書では戦線で勝ったことばかり。
大事なのは根回し。アヘンでも輸出するという発想を持つ。
Bさん
結局統制経済がなんなのかわからないのが背景にある。結局戦争に向かった経緯が良くわからない。政商はどう問題なのか。国の経済がこうなったから加担するようになった、というのが知りたい。
Cさん
三井物産が戦争の流れを作ったわけではない。政府に協力して内側に進んでいった。
統制経済は2段階。上流の部分と、実務と企画の部分。企画は軍、実務は三井物産。アベノマスクのようなもの。
政商は存在して、それを説明したかった。良い悪いの話ではない。
先生
統制経済下では配給をしている。お金の方が注目されるが、量が統制されている。闇イチは、非合法で、出てこない米や味噌が出てくる。
統制経済は金額ではなく、量を統制しているもの。背景には圧倒的な資源不足があった。
誰が実権を握っていたか。国民は一丸となってアメリカ中国に勝つために絶対王政よりもひどいような状況。その仲介役をになったのが物産だったと考えられる。
政商とは政府に従うような民間であり、その意味では物産はバリバリの政商というよりは良いように使われて苦しい状況だったのではないか。
今だと理解できない。徴兵制、反対したら非国民。警察だけだと取り締まってもうまくいかないため、協同組合などを通じて管理。
一番嫌なことをやらされ、少しのお金しかもらえない、三井物産は実情は大変だったのでは。
Kさん
財閥解体した後にグループに戻した方がアメリカが儲かる、というのは何故か。
先生
自動車を日本に買わせるためには日本の国民が豊かにならなければならない。グループ会社は何らかの形でアメリカに利益を献上していた。アメリカ自体はWW2後に経済が冷え込んだ。朝鮮戦争も日本が特需で儲かった。そのため日本から利益を吸い取る仕組みを作り上げたと言われている。日本とアメリカの関係は安全保障だけではなく、がっちりとした主従関係ができている。
Fさん
三井物産は他にあまり手段が無かったのでは。
先生
先進国の中で日本だけがアジア人。日本が媚びまくったためうまくいった。国際機関にもお金を入れても、権力は持っていない。
アメリカからすると、ABCD包囲網をつくった時点で、日本は中国から撤退すると予想していた。当時、イギリスは日本が戦争をおこさないように止めていたが(日英同盟破棄や国連脱退など)、当時の軍部を止められる人間が国内にはおらず、総理大臣が国民を煽っていたため戦争に突き進んでしまった。
平時だと物産賢いじゃんという話だが、戦争だと気の毒。
Jさん
知らないことが多過ぎた。
先生
一番知らなくて驚いたことは?
Jさん
統制経済、政府が行うものという程度のイメージだった。政府だけではないファクター、企業も関与していたということ。
先生
また、インドシナはうまくいかなかったが、インドは日本に対し感謝している。終戦後も残った日本の軍人もいた。全ての国に恨まれているわけではない。一方、シンガポールのように日本の戦争犯罪に目をつぶってお金を求めた国もある。
Aさん
日本の民間企業とは何か、という話題があったが、これは結局どうなったのか。三井財閥の総帥が大蔵省トップに就任したというのはキーポイントだと思った。
先生
企業グループのオーナーが政治家になるのは海外でも多くあるし、今でも起きている。
今円安で燃料代が上がっている。電力会社は今国から言われて価格をあげておらず、数兆円単位の赤字が出ている。これはある種の統制経済。普通の国だと、告訴するはず。電力会社に投資している外資系の株主は怒るはずだが、怒らない。
コメの値段も国が決めていた。国民が声をあげる前に国がやってしまう。戦争の中の重要な問題は国民の体制ではなく、軍部のせいだという認識。
Cさん
政府が民間の力を借りるのが合理的だった。当時、貿易に関しては三井がトップ。
民間企業とは何か。昔なら銀行も政府の力が働いていた。商社は表向きは自由な経済活動をしていたのでは。通産省がもう不要だといった産業に投資した。
先生
商社は莫大な利益がでるものにしか投資しない。国がもう補助金が出せないため、代わりになんとかしろと言われたのでは。その代わりに、優遇措置が別にあった。
石油の利権獲得、船の調達と輸送は物産がやっていたが、これは国と一蓮托生でやっていた。ロシア・サハリンの天然ガス開発も商社が絡んだが、日本は北方領土の問題からまだ輸入していない。サハリンは日本のエネルギー確保の観点から重要。そういう際の尖兵は必ず商社。参入障壁があり、つぶさないことから今の商社の在り方があるのでは。使い勝手の良い商社みたいな存在は政府としては置いておきたいはず。そこは日本の強さであり、海外企業が参入できない要因。いくら高い値段で調達しても国民にその選択の余地がないことが問題。昔からの暗黙知がいまだに残っている。それは消費者が選ぶべきこと。
Cさん
なぜ日本にだけ総合商社があるのか。
先生
他の先進国の企業は長い歴史の中で生き残ってきたが、日本は明治維新以降に海外から成熟した産業が入ってきて、商売ができるコントロールタワーが必要だったことが一つにあるか。海外ではそもそも国が守らない。調達する物資は先物取引で確保している。大手企業が潰れそうになると国が助けてしまう。これは資本主義ではない。名門企業を残す、グループ会社で凝り固まっている。日本独自の資本主義を構築して凝り固まっている。
先生
アメリカは法律を金で買う。民間がロビイングをして作ってもらう。日本では「先生一つお願いしますよ」と言って官僚が法律を作ってくれる。
Bさん
なぜ日本は農業をこんなに守っているのか。
オーストラリアはあれだけ大規模にやってるのに国が守っていないのか。JAが配給制に協力した背景もある。JAが政治力を持っていること。国が守るのではなく競争させるべき。どうしたらこの体制が変わるのか。
先生
本当に人口比で国会議員を出そうとすると、地方から出る国会議員は少なくなる。都心部から出る国会議員が増えると、農協の政治的力は弱まる。今は農協はローンや保険として利用されており、信頼力は落ちている。
労働組合の組織率も今下がっている。
根本的な問題は、現状で「何が悪いんだ」という人が多いこと。一人一人の権利よりも安定性を好む。この保守性のために投票率も低い。ASEANの中でも「日本って昔すごかったよね」と言われるようになるかも。その時に備えておくべきかも。
Gさん
中国は政府と企業がべったりだと思うが、これは日本とは違うのか。
先生
共産党の企業がある。ドライな資本主義国家なので、国の発展に寄与するなら自由にさせるが、目に余るようならつぶす、という体制。爆発的な力を出させるのを焚き付けるのは中国の方がうまい。アメリカに近い。日本は手塩にかけて育てた企業を守り、つぶせない。日本は安定を臨む志向があるが、そこからは大企業は生まれない。
Dさん
国と企業がおてて繋いで、のおかげで戦後に物資がずっと途切れていない。これはすごいこと。平和の力、お金の力、商社の調達力のおかげもあるのだろう。外資がある薬の50%以上のシェアを持っていると撤退されたら死ぬ人が出てくるのでは。
先生
本来は独占、寡占状態にしなければ良い。各企業が疲れて追いつけなくなっているのではないか。競争して新陳代謝をしていくのが基本で、それをやらないことで日本が成長してきた側面もあるが、そろそろ老化しているのでは。日本が貧乏になってきて外資に税金を要求するようになったら外資は撤退するかもしれない。
打開策もピンチも、100年前まで遡ると必ず似た例が出てくる。戦時下の日本の最大の誤算は中国が粘り強さを見せたこと。中国で長引いたことが最大の敗因。歴史の学び方として、どこが分岐点となったのかを探すのが良い。もしここでこうなったら、と想像する。
Aさん
日本の教育では歴史をきちんと振り返れていない。
先生
なぜ中国に侵略せざるを得なかったのか、アメリカに戦争を吹っ掛けざるを得なかったのかということを多方面から考えるべきではないか。明治維新から成長が早すぎた。何故戦争を止められなかったのか。誰が悪いのか、この国では分かりにくい。
単純に次は、固定観念を捨てて好奇心で昔を見る。現代に持ってこなくても良い。素朴に、これって今と変わらないね、と見つかってくると良い。