間諜いまだ死せず 1942
Cinema Japan Retrospective(54)監督 吉村公三郎
この時代はどの国においても映画はプロパガンダ的役割を担っていた。
プロパガンダには二種類ある。「敵の悪魔化」と「味方の理想化」である。
戦前戦中の邦画100本を英訳して知ったのは、当時もちろん新聞等では鬼畜英米などという言葉は頻繁に用いられていたにせよ、全体として日本人は敵の悪魔化という方法を好まなかったということである。特に中国に対しては。日本はつねに蒋介石との和平を模索していたのである。
「間諜いまだ死せず」というこの映画もその例に漏れない。この映画が交戦中に撮影されたという意味をとらえてほしい。敵のスパイをも愛国者として描き、それを好男子の日本人俳優が演じているのである。日本人はそういう人物像にシンパシーを感じていた。1940年に作られた「支那の夜)」など、日本人船長と中国娘との甘い恋愛物語まであるのである。
ひるがえって中国が描く日本と日本人はどうだったか、そして今もどうであるか。後世の人々にとってどちらのプロパガンダが幸せであろうか。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?