【インタビュー】答えはなくても知り続ける〜エッセイスト紫原明子さん〜
エッセイストの紫原明子(しはら あきこ)さんは、18歳で結婚、2人の子どもを授かったのち、シングルマザーとなった。
ブログがきっかけで執筆活動をするようになり、数々のメディアに寄稿し、著書を出版。「もぐら会」というコミュニティも運営している。
起業家の夫と暮らしていた時は専業主婦だったが、福岡から東京に移り住み、夫の事業が拡大していくと住まう場所は広くなり、生活水準も比例していった。
離婚後、家賃をぐっと抑えたアパートに引っ越すことになったが、
「やりたいことが規制されている高級マンションより、好きな色に塗れる安い家の方が魅力的に感じた」
と話す紫原さんの価値観は、決して他人に左右されない。
DIYできるその物件を気に入ったように、自由で柔軟な視点と、彼女独自の哲学がある。
紫原さんの社会人デビューは30代。
専業主婦から一転、さまざまな企業で働き、社会との接点をつくってきた。
その後、執筆活動に専念していた期間もあったが、若い頃から居場所だと思っていたインターネットの世界が変化してきていること、コロナ禍で人との関わりが減ってしまったことで、
「このまま同じことをしていてはいけない」
という気持ちが年々強くなっていったという。
知りたい世界、会いたい人に関わる機会を持とうと、2024年春から新たにアルバイトをはじめた。
それは、ホステルのスタッフ。
ホステルとは、二段ベッドなどの相部屋に、シャワーやトイレが共用の宿泊施設。働くスタッフは若い世代が多く、宿泊客ともフランクにコミュニケーションがとれる。
毎日新しい出会いがあり、多様な人種や言語に触れられる、紫原さんが見てみたかった世界が垣間見れる仕事。
執筆活動をしながらアルバイトをすることに、ためらいはなかったという。退屈と閉鎖感が自分の弱点だとわかってからは、自由と好奇心に蓋をしないと決めた。
知らない世界、見たことのない生態系を知ることが、人生を深くおもしろくしていくと紫原さんはいう。
笑顔を絶やさず柔らかい口調で話す中で、
「何をもってやり切ったとするかを、人の尺度に委ねるほどバカげたことはない」
と熱を込めて話してくれた瞬間があった。
「根拠のない数字や、他人の目を気にして、踏み入ることや断ち切る選択ができなくなってはいけない。傲慢に聞こえるかもしれませんが、自分の意志で突き進むということではなく、機が熟したタイミングを逃さないことが大切だと思います」
今見ている世界を書きたいとも思うし、書かなくてもいいとも思っている。そのくらい、未来の自分は自由なのだ、と。
プライドを守ることよりも、自分の声に耳を傾けることは、先々の自分に遥かに効いてくる。
どんな状況でも「自分に嘘をついていないか」が、健康面や精神的な充足に与える影響が大きい。それが紫原さんの選択の指針だ。
紫原さんの多面的なものの捉え方や、視点の持ち方は幼少期の環境も少なからず影響している。
母方の親族は人種や思想がバラエティ豊かであり、集まって話をする機会が多かったという。
子どもだった紫原さんが、大人の会話に混ざって意見を言っても、否定されることはなかった。
「いい意見だね」と言ってもらえたことが、今の子育てや生き方に繋がっている。
音声プラットフォームの「Voicy」で、娘との会話が時折話題となっている。性やマイノリティについても包み隠さず発言し、親子というよりは視座を共有する大人の会話。
そんな関係性をどうやって築いてきたかと尋ねると、
「私なりの答えが自分の中にあったとしても、私が答えを出さないと意識している」
と話してくれた。
娘には彼女の答えを見つけてほしい。答えが出なくても、疑問に思った「なぜ」に、暫定的な答えや、そうではなかった場合の仮定を立ててほしい。
そういう会話を日頃からして、答えのない会話を楽しめるようになったのだという。
「好奇心を枯らさず、自分のテリトリー以外にも手が伸びる身軽さを維持していきたいです。世代や立場が違っても、そこから学ぶことがある。自信を持つとか、“私は私”と主張するよりも、ただ“知る”ことで広がる世界を大切にしていきたい」
今日も紫原さんの言葉は読む人、聴く人の心にそっと寄り添う。知らない島と島の間に、橋をかけるように。
撮影:タケダアヤコ
https://www.instagram.com/taya.shashin/
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紫原さんのマガジンがスタートするそうです。
私の知らない生態系を垣間見ることができる!とても楽しみ♪